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[英詩]Louise Glück, 'Pietà'

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

※「英詩のマガジン」の副配信です。

2020年ノーベル文学賞を受けた米国の詩人ルイーズ・グリク (グリュック)  (Louise Glück, 1943- ) を扱うのは4回めです。過去3回は次のとおり。

[英詩]Louise Glück, 'Nostos' (詩集 'Meadowlands' [1996])
[英詩]Louise Glück, 'Hesitate to Call' (詩集 'Firstborn' [1968])
[英詩]Louise Glück, 'The Magi' (詩集 'The House on Marshland' [1975])

今回は 'Pietà' を取上げます。詩集 'Descending Figure' (1980, 下) の詩です。前回取上げた 'The Magi' に通じるところのある詩です。

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「ゆらぎ」はディジタルでは伝えにくい。アナログで空電から周波数を拾うようなことはなくなり、URLを正確にタイプすることで目的の情報を得る時代になった。

現代においてネットでも「ゆらぎ」を伝えることができるとすれば、それは和歌とか俳句だろうと藤原直哉氏はいう (〈藤原直哉の「21世紀はみんながリーダー」2021年6月30日 ゆらぎが生むエネルギー〉)。

しかし、それが伝わるかどうかはまた別だ。自分で表現することはできたとしても、その通りに伝わるのはむずかしいことだし、共有するとなると同じような素養をもった人が集まらない限り共有にならない。

だが、自然のなかに一緒にいると、そこで共有してしまっている。ゆらぎのある自然や建物の中に一緒にいると、話は早くて、いわば「調律」され、みんなのイメージの基底となる部分が一瞬で合ってしまうと。

ここまで藤原氏の話を聞いていると、YouTube での配信は、擬似的にそういうゆらぎの空間を作り出すことに成功している場合があるのではないかと思う。YouTube がぜんぶそうだというわけでなくて、視聴者との間にゆらぎの空間を共有しようと (無意識のうちにでも) つとめている話者の場合、伝わるような気がする。

そこで、今回はルイーズ・グリクの詩について、ゆらぎの空間を読者が共有できるにはどうすればいいかを考えながら読んでみよう。おそらく、詩人と「素養」のレベルをそろえればそういうことは可能じゃないか。だが、詩人の素養とはどういうものか。それじたいがむずかしいけれども。


Pietà
Louis Glück

Under the strained
fabric of her skin, his heart
stirred. She listened,
because he had no father.
So she knew           5
he wanted to stay
in her body, apart
from the world
with its cries, its
roughhousing,         10
but already the men
gather to see him
born: they crowd in
or kneel at worshipful
distance, like          15
figures in a painting
whom the star lights, shining
steadily in its dark context.

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