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[英詩]Louise Glück, 'Nostos'

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

※「英詩のマガジン」の副配信です。

2020 Nobel Prize in Literature を米国の詩人 Louise Glück (1943- ) が受賞した。授賞理由は 'for her unmistakable poetic voice that with austere beauty makes individual existence universal' というもの。

ならば、その 'unmistakable poetic voice' とはどんなものなのか、一端にでも触れてみたいもの。

と、本マガジン読者なら思うであろうと予想し、一篇の詩をご紹介することにしたい。

専門家でもないかぎり、Louise Glück と言われて、どんな作品を書くのか思い浮かぶひとは少ないだろうと愚考する。

それも無理はない。日本では彼女の詩集の一冊も出版されていない。彼女を専門的に研究するひともおそらく五指にも満たないだろう。

そもそも、日本ではアメリカ文学、それもアメリカ詩の専門家が多くない。

大学によってはアメリカ文学の学科を置いているところもあるが、そこはふつう小説の専門家がいる。詩の専門家がいたとしても、英詩の伝統的韻律 (本マガジンが扱う領域) について詳しいひとはおそらくイギリス文学の講座にいる。アメリカ詩には韻律など関係ないと思っているひとが専門家にも多いくらいだ。

アメリカ文学の講座にそういう専門家がいて、そこで学んだひとを探せたら僥倖といえるだろう。

Louise Glück の詩に対する考え方、特に音と意味をどう捉えるか、たとえば朗読の時に音と意味とはどう反映されるべきかという興味深い問題について発言した米国議会図書館の 動画 がある。参考になる。

現代詩は概して解釈がしにくい。が、中でも人々に愛されている彼女の詩を一篇紹介する。

詩集 'Meadowlands' (1996, 下) に収められた詩 'Nostos' である。テクストは Louise Glück, 'Poems 1962-2012' (Farrar, Straus and Giroux, 2012) による。

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NOSTOS
Louise Glück

There was an apple tree in the yard—
this would have been
forty years ago—behind,
only meadows. Drifts
of crocus in the damp grass.
I stood at that window:
late April. Spring
flowers in the neighbor’s yard.
How many times, really, did the tree
flower on my birthday,
the exact day, not
before, not after? Substitution
of the immutable
for the shifting, the evolving.
Substitution of the image
for relentless earth. What
do I know of this place,
the role of the tree for decades
taken by a bonsai, voices
rising from the tennis courts—
Fields. Smell of the tall grass, new cut.
As one expects of a lyric poet.
We look at the world once, in childhood.
The rest is memory.

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