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スタートレック:ピカードの決定的なミスといえる不満について

そろそろ時間も経った頃なので「STAR TREK:PICARD Season.1」の最終話に触れたい。ここでは最大の見どころであり最もドラマチックなシーンへの「日本語演出」の不満を記します。
結末は書いてはいないけど、惑星連邦宇宙艦隊(USS)の英雄ジャン=リュック・ピカードのその後の核心に触れます。

作品を視聴済みの人にとっては当たり前だが、重要なので…
このシリーズのピカードは94歳。
惑星連邦を離れ退役提督となった彼の鬱々とした隠居生活から始まります。
艦隊の英雄や伝説の指揮官などではなく、跡継ぎがなくなった家業である、フランス東部のワイナリー「Château Picard(フランス語ではシャトー・ピカールと発音)」を営んでいる老人です。

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最終話となる「理想郷(後編)/Et in Arcadia Ego, Part 2」では、ピカードが長らく患い重篤な発作が現れるようになった「イルモディック症候群(神経を侵し意識障害を起こす頭頂葉の重病。24世紀の医学でも決定的な治療法がない難病)」がいよいよ末期となり意識混濁や苦痛が続くようになっていた。
すでにピカード自身はこの病によって身体に限界がきていること、そしてもうすぐ死ぬことを悟っている。そんな中でのエピソード。

エピソードのクライマックスでは大きな展開がある。
ある事情で複数の危機に瀕していたピカードが密かにおこなった要請に応じるかたちで、予備役の準士官となっていたウィリアム・T・ライカー(愛称「ウィル」、USS大佐)がU.S.S.ジェンヘイ艦長として大艦隊を率いて救援に現れるヤマ場がある。
そのときピカードは発作を起こし、朦朧とする意識をなんとか保ちながらほぼ危篤状態に陥っている。
ひとつの危機を乗り越え役目を終えたライカーは、艦の通信越しにピカードに再会を誓っての別れの挨拶を交わし去って行く。
ピカードは薄れゆく意識を持ちこたえながら謝意を伝え通信を終了させる。
その後、弱々しい声でひとり「adieu(吹替えでは「さらばだ」)」と応え最後の発作に苦しみながら昏睡状態に陥る。

よく知られているフランス語のadieu(アデュー)は、別れの挨拶でも「長い別れ(永遠の離別、決別など)」の挨拶で使うことができ意味があって使う言葉ある。
首元まで迫る死を覚悟して「生涯を通じた親友ウィル。もう会えないんだよ、ここでお別れなんだ」というピカードの心境を反映して呟かせる、沈黙の時間を伴う最大のドラマシーンだ。
ここではもうひとつ意味が重ねられている。
ピカードの出自だ。

ピカードは(スイスに近いフランス東部地方の)ワイナリー「Château Picard」を営む一族の息子として生まれ育った生粋のフランス人だ。
悲惨な出来事でピカード家(フランス語ではピカール家)当主であった兄や甥を失い、跡継ぎがいなくなったワイナリーを絶やさないため隠居後の使命にしたジャン=リュック・ピカードである。
普段は宇宙公用語になっている英語を喋るピカードがわざわざ発するフランス語には必ず意味があるはず。
それは、母語ですべての想いをのせた別れの言葉にしたかったのではなかろうか。
そう考えればここでadieuが活きてくるのだが、字幕・吹替えともに「さらばだ」で統一され、そこをくみ取れてないのが物語性を毀損するレベルで非常に残念だった。

さらに、本作ではパトリック・スチュワートは老衰と健康不安を抱えた94歳のピカードを演じるにあたり、終始にわたって弱々しいおじいさんの声で演じている。ラストシーンでの声の演技との対比も見どころ。
が、吹替えを担当する麦人さんはそこまで弱り切った声では演じておらず、最期の言葉を発するピカードに至っては声も出ないような弱々しい声をふり絞っての「adieu」という演技なのだが、わりとはっきり「さらばだ」という声でこのあたりの演出も微妙だなと感じた。

STAR TREK:PICARDは、ジャン=リュック・ピカードというひとりのフランス人(フランス人士官)の生涯を綴る、それも失意のまま艦隊提督(USS大将)の役目を辞任・退役した彼がワイナリーがある出生の地に引き籠もった80歳以降の人生を描いた作品だ。
ピカードの失われた栄光、後悔と苦悩、老いと死だけが残された無力な元・英雄のつらい晩年~再起~終焉~再生というとてつもなく重いテーマだ。
だからこそ、その重みを捉えれば日本語での科白はそのまま「アデュー」にしないといけなかったのではないだろうか。

芝居において言葉が持つ意味はとても大きい。
たったひとことが意味合いの本質を歪める影響力がある。
理性的で哲学的、人生を重んじるスタートレックシリーズだからこそ、こういった機微を重視してほしかったと思う。

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スタート・レック ピカード

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