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『キラキラ共和国』ノート

小川糸著
幻冬舎文庫
 
 この作品は『ツバキ文具店』(読後感を4月28日にnoteに投稿)の続編である。この著者の小説を取り上げるのは3冊目だ。去年の11月28日にnoteに『ライオンのおやつ』を取り上げた。
 この著者の作品の読後感を味わいたくて、ついつい買ってしまう。他にも作品が本屋の棚に並んでいたが、一冊ずつ買って読もうと思っている。
 
 主人公の文具店兼代書屋をしている雨宮鳩子はその名前からポッポちゃんと友人たちから呼ばれている。
 鳩子が土曜日の昼下がりの散歩中に、とあるカフェに立ち寄った。そこでランチを食べたのだが、お店はオープンしたばかりなのか客は彼女一人だった。その店でお手伝いをしていた幼い女の子はオーナーの父親からQPちゃんと呼ばれており、女の子も自分のことをそう呼んでいる。ふとしたことで、QPちゃんとポッポちゃんは文通を始める。QPちゃんの本名は守景陽菜(もりかげはるな)という。
 それからしばらくして、QPちゃんの父親のミツローさんから、他の店がどんなカレーを出しているか偵察に付き合ってほしい、一人だとなかなか入りにくいので、と頼まれ快諾する。するとそれを聞いていたQPちゃんが、「おとしゃん、よかったねー。ポッポちゃんとデートできるよー」とはやしたてる。父親は必死にそういうのじゃないとたしなめるが、QPちゃんはデートという単語を何度も繰り返すので、鳩子までが本当にデートに誘われたみたいで、気恥ずかしくなるのである。
 
 三人での有名なカレー屋巡りのあと、コーヒーを飲みながら、通り魔に刺されて亡くなった妻のこと、こどもと一緒に死のうと思ったが思いとどまり、亡妻の希望を叶えようと鎌倉でカフェを開こうと決めたことなどを鳩子は聞く。
ここまでが前作の『ツバキ文具店』でのプロットである。
 
 そして本作ではいきなり、QPちゃんお父さんのミツローさんと入籍したという話から始まる。鳩子は、あの時QPチャンがふざけて「デート」という言葉を発しなかったら、こんなことにはなっていなかったと述懐する。出会った1年前はもちろん、つい3か月前だって結婚なんてほとんど想像していなかったのだ。そしてQPちゃんがいなかったらこんなことにならなかっただろうと心から思う。QPちゃんが小学校に入学した日に合わせて入籍した。そしてとりあえずは〝ご近所さん別居〟とすることにしていたが、カフェに最適の場所にある空き店舗が見つかり、そこに店を出すことになり、鳩子の家で家族三人暮らすことになる。
 
 本作でも、目の見えない少年が母親への感謝の気持ちの手紙を書いてもらいたいという相談、亡くなった夫から自分への謝罪の手紙を書いてほしいというちょっと変わった依頼、酒乱の夫への三行半を代書してほしいというザ・鎌倉マダムとその手紙をもらった夫からの詫び状の依頼、生後8日目で亡くなった両親からの喪中葉書、引きこもり気味の女性からの同性への告白の手紙などの依頼が鳩子のもとに届く。
 
 そうそう、書名の『キラキラ共和国』は、ご近所のバーバラ婦人の言葉から名付けられている。
「心の中で、キラキラ、って言うの。目を閉じて、キラキラ、キラキラ、ってそれだけでいいの。そうするとね、心の暗闇にどんどん星が増えて、きれいな星空が広がるの」――〝キラキラ〟は悲しくなったり落ち込みそうになった時の〝おまじない〟なのだ。
 
 本作でも、心がほっこりするエピソードが多いが、唯一、鳩子の母親かも知れないちょっと不気味な女性が登場し、鳩子の人生に影を落とす。この展開を考えると、また次回作が楽しみになる。
 
 ところでこの本の奇数ページの左下に描かれているハトのパラパラ漫画がとてもかわいい。こういうところに編集者のセンスがさりげなくあらわれていて感心する

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