『リボルバー』ノート
原田マハ著
幻冬舎刊
久しぶりに小説を取り上げる。
原田マハは私の好きな作家の一人だ。いま本棚を見たらこの作家の本は40冊近くある。読み始めたのはここ5、6年だからまだスライド式本棚の前棚に並んでおり、タイトルが全てデスクから見える。
最初に手に取ったのは、『本日は、お日柄もよく』だった。原田マハというそれまで聞いたこともない変わった名前と、タイトルに惹かれて開いてみたら面白くて、本屋で名前を見つけては、次々に買って読んだ。
この作家の本のタイトルが意表を突いていて、うまいなぁといつも思う。『美しき愚かものたちのタブロー』、『たゆたえども沈まず』、『旅屋おかえり』、『ジヴェルニーの食卓』、『カフーを待ちわびて』、『リーチ先生』、『暗幕のゲルニカ』、『楽園のカンヴァス』、『風のマジム』、今回取り上げる『リボルバー』などなど。いつも本屋でタイトルをみて、「ん?」と一瞬考えてしまうような書名だ。
この本のタイトルは、ビートルズのアルバムの「リボルバー」ではなく、回転式拳銃のリボルバーのこと。背表紙を見たとき、私は最初にビートルズが浮かんだ。ちなみに、『リーチ先生』を見たときは、麻雀の先生が主人公の物語かと思った(笑)
フィンセント・ファン・ゴッホは、1890年にフランスの片田舎で自殺したと言われており、その時に使われたという拳銃にまつわる話である。
原田マハは、もともとキュレーターなので絵画やその歴史、画家の生涯などに相当詳しい。そして小説の大筋は残された資料や史実に基づいており、それを大きく敷衍して、登場人物の会話などの細部を創造力で埋め尽くして作品にしており、読む者を惹きつけ、本当にこんなことがあったんだと思ってしまうほどである。
主人公の高遠冴はゴッホとゴーギャンに特に詳しい研究者。いまは設立して10年ほどの小さなオークション会社で仕事に就いている。
400回目のオークションを終えたある日、ある女性が会場を訪れて、錆び付いた一丁の拳銃を取り出した。銃に詳しいスタッフがその拳銃の種類を調べている間に、画家と名乗るその女性は、信じてもらえないでしょうと言いながら、「あのリボルバーは、フィンセント・ファン・ゴッホを撃ち抜いたものです」と言ったのである。
ここからこの物語が始まる。これ以上書くと、ネタバレになってしまうが、上出来のミステリー小説を読んでいるようで、ページをめくる指が止まらず、一日半(電車通勤の1時間×3=3時間)で読んでしまった。
実際、ゴッホが自殺に使ったとされるリボルバーは、この本によると、2019年6月19日、パリの競売会社オークション・アートによって競売にかけられ、16万ユーロ(日本円で約2000万円)で落札されたそうだ。物語が終わったあとのページに〝事実〟としてそう書いてある。
ただし、当時のロイター通信の記事を調べて見ると、13万ユーロ(約1579万円)となっている。買い主は携帯電話で競り落としたそうだ。
同じ日のオークションの結果の記事なのに、この大きな違いはなんだろう。謎だ!
私もゴッホが好きで、「星月夜」や「オーベルの教会」、「夜のカフェテラス」などの絵をパソコン画面の背景にしていた。
蛇足だが、原田マハの兄は、同じく作家の原田宗典――この作家の小説やエッセイも随分前だがよく読んだものだ。
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