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『タルト・タタンの夢』ノート

近藤史恵
創元推理文庫

 私はあまりテレビドラマを観ないのだが、最近録画して休みの日に観ている番組がある。TV東京系で毎週月曜夜の11時6分からの「シェフは名探偵」だ。たまたま第1回を観て、「面白い!」とハマってしまった。都内のあるフランス料理店の「ビストロ・パ・マル」を舞台に展開されるドラマで、シェフの三舟忍(西島秀俊)が料理をしながらも、日常の様々な人間模様に絡む出来事の謎解きをしてくれる。

 それからずっと観ているが、あるとき字幕を観て、原作があることに気づき、早速購入して読んだ。その連作小説の第1巻がこの『タルト・タタンの夢』である。第2巻は『ヴァン・ショーをあなたに』、3作目は『マカロンはマカロン』で、一度に購入して1日一冊のペースで読み終えた。

 第1巻の表題作の『タルト・タタンの夢』は、画廊のオーナーでパ・マル常連の西田さんがある日、婚約者を連れて来て食事を楽しんだ。そしてその2週間後、こんどは二人の男性とパ・マルに来たが、健啖家の西田さんとしては珍しく体調が悪そうで、あまり食べないし、酒好きなのにペリエで済ますほどだった。それを聞いて三舟シェフはお腹に優しい料理を作って供した。それを西田さんは喜んで食べていた。
 一旦連れと店を出ていった西田さんが閉店間際にまた戻ってきて、今夜のシェフの特別料理のお礼を述べ、お腹を壊した理由を詳しく話し始めた。

 婚約者の手作りの本格的なフランス料理が美味しかったのでついつい食べ過ぎたというのだ。そしてデザートのタルト・タタンも作ってくれたという様子を聞いて、三舟シェフには西田さんが体調を崩した原因に思い当たるのだ。
「オーブンの中でキャラメル色のタルト・タタンが焼けている」――という西田さんの言葉にその秘密があった。

 これ以上はネタバレになるので書かないが、シリーズ3冊で22の物語が紡がれている。その一作一作でいまあげたような〝日常の中でちょっと引っかかる謎〟を描いて、それを三舟シェフが解き明かしていく。

 読んでみて分かったが、原作の方は、テレビと違ってパ・マルでギャルソンをしている〝ぼく〟こと高築智行が語り部として物語が進んでいくが、読んでもテレビドラマを観ているようで原作とドラマを較べても全く違和感がない。それだけ、原作がドラマ化するのに適しており、スキなくよくできているということだろう。

 テレビドラマの「シェフは名探偵」ではシェフの三舟忍(西島秀俊)、スーシェフの志村洋二(神尾佑)、ソムリエの金子ゆき(石井杏奈)、そしてギャルソン高築智行(濱田岳)の4人だが、唯一原作と違うのは、三舟忍と志村洋二の風貌やキャラクターが入れ替わっている感じがする点だけかも知れない。

 またフランス料理やワインなど、聞き慣れない名前がたくさん出てきて、勉強になる(笑)

 ここまで書いて思い出したが、学生時代、『バラ色の人生』という連続ドラマがあり、主演は寺尾聰で、ほかに香山美子、仁科明子、森本レオが出ていて(我ながらよく俳優の名前を覚えていたなと感心している)、下宿の狭い部屋の白黒テレビで視ていた覚えがある。エンディングに、ジョルジュ・ムスタキの「私の孤独」という歌が流れ、歌の方は印象に残っているが、ドラマのスジは覚えていない。

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