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『知られざることわざ』ノート

時田昌瑞(ことわざ研究家)著
大修館書店

 副題に「思わず使ってみたくなる」とある。しかし、恥ずかしながら、本書に取り上げられていることわざ174句のどれひとつ私は知らず、聞いたこともなかったので、読み終えても〝思わず使ってみたくなる〟ことはなかった(^_^;

 声に出して何度か読んでみて、「こういう意味かな」とわかることわざもいくつかはあるが、全く訳のわからないものもある。その謎解きも楽しめた。

 著者は、出典を含め、こんなときに使うということまで丁寧に解説してくれている。関連することわざも例示して理解の一助としている。
 以下、いくつか取り上げてみる。

〇「根を深くして蔕(ほぞ)を固くする」
 ものの根本をしっかり固め、手抜かりのないようにすることのたとえ。蔕は果物のへたであり、また、根元のこと。「蔕を固くする」とは基礎をしっかり固める意とある。『老子』五十九章にある句で、14世紀の軍記物『太平記』(二十)で用いられているそうだ。

◎「風見て帆を使え」
 これはなんとなくわかったうちの一つ。ものごとを柔軟にとらえ臨機応変に対処すべきことのたとえである。西洋にも「風に応じて帆を張れ」ということわざがある うだ。

◎「味噌に入れた塩はよそへは行かぬ」
 頼まれもせずに人になにかをしてあげたことは、見返りがないように見えるが、後になれば自分のためになっているものだ、ということのたとえである。言葉通りに解釈すると、味噌作りの時に大量に入れる塩も、混ぜ合わせられてすぐに溶けてしまうが、どこに行くのでもなく、時間が経てばいい味の味噌に仕上がるということ。「情けは人のためならず」と同義だが、後者の〝情け〟は抽象的だが、前者は〝味噌〟というものを擬人化して表現しているのが面白い。

 もう一つ、なんとなく言わんとすることがわかったことわざ。
◎「衆口金を鑠(とか)す」
 衆口とは多くの人の言葉のこと。多くの人が口にしている噂やそしりは、固い金属(正しいもののこと)さえも溶かしてしまうとのたとえだ。
 中国の古典のことわざとのことだが、鎌倉時代の金言集『玉函秘抄』にも載っているとのこと。〝げに恐ろしきは人の噂〟というのは、何百年もの時を経ても人間社会(=世間)のありようや人間の本性は変わらないということの証しだ。ましてや、現代はネットやSNS全盛の時代。フェイクニュースの蔓延もその一つであろう。間違った情報が、昔とは違う速度で拡大再生産されてしまうことの恐ろしさを忘れてはならない。

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