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『雲の楽しみ方』ノート

ギャヴィン・プレイター=ピニー著
桃井緑美子訳
河出書房新社
2021年4月17日

 2006年に英国でベストセラーになったこの本は、いわゆる科学エッセイに分類される。専門的だが、遊び心もある「雲を眺めるのが好きになる本」(帯より)である。
 まず雲ができる高度で分け、さらにそれぞれの高度でできる雲の種類を章立てしている。例えば、〈第1部 低い空の雲 第1章 積雲――うららかな空にぽっかり浮かぶ「綿雲」〉という具合。
 第2部は中間の空の雲、第3部は高い空の雲、第4部は忘れちゃいけない……「飛行機雲」や「モーニング・グローリー」――めったに見られない黄金の雲についても書かれている。
 口絵はカラー写真で、本文中はモノクロ写真なのがちょっと残念だが、クラウドウォッチングが十分楽しめる。
 
 雲のできるまでの科学的説明やちょっとしたエピソードが挟んであるかと思えば、雲を歌った詩が出てきたり、雲の見分け方が書かれているかと思えば、雲を見ての天気予報が出てきたり、天候についての聖書の言葉が引用されていたり、と興味は尽きない。

「あなたたちは、夕方には『夕焼けだから晴れだ』と言い、朝には『朝焼けで雲が低いから今日は嵐だ』と言う。このように空模様を見分けることは知っているのに、時代のしるしはみることはできないのか」(マタイ伝)という、パリサイ人とサドカイ人を叱責したイエスの言葉は、現代にそのまま通じるのではないか。明日の空模様は、膨大なデータを蓄積してスーパーコンピュータで分析・予測して相当程度当たるようになったが、半年後、一年後のこの世界の状況は誰にもわからないのである。

 ちょっと毛色は違うが、〝地震雲〟について、古代から現代までその出現が地震予知に役立つと言われており、その分野の研究者もいるが、ある中国人化学者の予知が当たったことから、地震学者も注目していると書かれている。しかし、このような話は出ては消えるような感じで、なかなか地震学会では認められない。
 また青空にきれいな航跡を残す〝飛行機雲〟が、天候に大きく影響を及ぼすという話は、データに基づいて語られており、説得力がある。

 最後に、著者がこの本を執筆する機縁になった「雲を愛でる会」の声明書の一節を紹介する。
「空を見上げ、あの一瞬の美に驚嘆なさい。そして雲のなかに頭を突っ込み、空想にふけってお暮らしなさい。」
 

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