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特許庁「デザイン経営ハンドブック」がオススメすぎるので意訳してみた

特許庁から発行されたステキな資料があるのですが、これがタダってことに感激しっぱなしです。

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デザインにぴんとこないビジネスパーソンのための"デザイン経営"ハンドブック
https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200323002/20200323002-1.pdf

しかし、多少デザインに足を突っ込んでる自分でも、読むのにすこし骨が折れました。たぶん意図しているターゲット「デザインにぴんとこないビジネスパーソン」にうまく届いていないような気が。。

ということで、おこがましさはありますが意訳してみたいと思います…!

まずこのドキュメントが言いたい(であろう)こと

すごーく要約すると以下のことをマネジメント陣に伝えたそうです

マーケットがより不確実かつ多様になるので、これまでの商売の考え方&やり方は通用しにくいから、できれば我々オススメの「デザイン経営・デザイン思考」に移行するといいよ!

ということ。

改めて読み込んでみましたが「KPIは立てても意味ない」とか「縦割りの組織は結構な負け戦だよ」とか、本当に新しい経営スタイルへ適応(アダプト)しないと生き残りは困難だろうなって気持ちになります。

序章+7章に及ぶので、各章ごとに意訳を記していきます。

序章|「デザインとは『社会』を知ること」

これは良き内容でした。しかし冒頭から若干デザインのプロ向けに感じてしまうため、ここでウッとなる方が多そうだなーと思ってしまったり。

しかしマネジャー陣にぜひとも原文で読んでほしい部分のがコチラ

デザインという仕事の本来的な任務を「自社と自社を取り囲む社会とのインターフェイス(境界面)を設計すること」と言い直すのであれば、デザインを扱う部門や人が、これからの企業にとって不可欠なものであることは、およそ自明のこととして理解されるのではないだろうか。

若林さんは序章にてデザインに明るくないビジネスパーソンに向けて「もともと《デザイン》は設計の側面を持つので一時的に分業や効率化の果てに『化粧屋さん』になったけど多角的に考えて解決策を考えられるから頼ったほうがいいよ」という話をされてます。

今の話で興味を持たれたら、ぜひ序章だけでも読んでみてください。デザインという言葉の意味が少し変わるはずです。

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1章|「共感・実験・ストーリーテリング」

先んじて「デザイン思考で著名な《IDEOのトム・ケリーさんが話してて凄いんですよ」とお伝えします。

トム・ケリーさんの率いるIDEOはデザイン・コンサルティング企業のリーディングカンパニー。今や日常的となったパソコンのマウスの最初のデザインをした、といえば凄さが分かるはずです。

そんなIDEOのトップが語っていることを大まかにまとめると

たしかにデザインは1950年代ごろ「化粧」の役割を工業社会で担っていたけど、1970年代からデザインはユーザー・ニーズを起点に考え、気づけば今や総合的な課題解決のフレームワークにまで発展してる。市場調査(デザインリサーチ)から製品企画(プロトタイピング)、そして広報戦略(ストーリーテリング)までをワンストップで行う手法がデザイン思考。これは是非とも導入したほうがいいよ!

このドキュメント内で最も「デザイン思考の特徴と今の時代に適合する理由」をコンパクトに説得してくれる章だと言えます。

折角なので原文を読んでみてくださいmm

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2章|「デザイン経営・イン・ジャパン」

ここは企業の意識アンケートなので原文をぜひ見るとよいかと。アンケート結果を大まかにまとめると以下の通りです。

多数の企業が経営判断にデザイン領域の人を引き入れるなど、みなデザイン経営に積極的だという実態がわかりました。

おそらく上層部を説得する立場にある人には有用なデータだと考えます。

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3章|「デザインと言ったときにわたしたちが語っていること」

人それぞれに「デザイン」という言葉の意味合いが異なりますが、それを明らかにすべく21社を対象に意識調査を行なった結果がこの章です。

こちらも世の中のいろんな人のデザインに対する考え方がわかるので、「つまりデザインってなんだろう?」と自問されてる方が原文を参照するといいのかなと考えます。

回答内容を分類したときに以下5つの方向性の意見が集まったというのは面白かった点です。

・デザインは「組織改革」である …10コメント
・デザインは「課題発見」である …6コメント
・デザインは「マインドセット」である …6コメント
・デザインは「ブランディング/マーケティング」である …4コメント
・デザインは「美しさ」である …2コメント

コメントの多い順に並べていますが「Do(手段)」というより「Be(在り方・考え方)」としてデザインを捉えている企業が多いようです。

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4章|「デザイン経営あるある」

ノンデザイナー・マネジメント層の方々には結構耳の痛い内容が盛り込まれています。もしデザイン経営を実践しようと思っている場合は4章は必読です…!

デザイン経営の導入時の課題として主だったものは8つあり以下の通り

1. 経営陣の理解不足
(なぜ導入するのか?どう活用するのか?という問答で導入が立ち消えるケースが多い)
2. 効果を定量化できない
(数字で評価しにくいのでROIなど定量的な根拠を問い始めて滞る)
3. 組織体制・評価指標ができていない
(うまくデザイナーを評価&活用できないので導入に躊躇)
4. ビジネスとの両立
(事業とデザインの相関性を明らかにできずビジネスを推進するためにデザインで何をすればいいかわからなく滞る)
5. 全社的な意識の不統一
(上記1〜4をステークホルダー間で共有&納得できていない)
6. 人材・人事
(できる人がいない&誰を呼べばいいかわからない)
7. 用語・理解の不統一
(一般的ではないデザイン用語が理解できずつまづく)
8. 既存プロセスへの組み込み
(今までの仕組みにデザイン部門をうまく組み込めない)

歴史は繰り返し、組織もまた同じところでつまづくので、デザイン経営を検討している場合はぜひ読んでみてください。

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5章|「デザインの価値をうまく伝える方法」

これはデザイン経営の導入を上層部に訴える方々向けにつくられた「説得の際の想定問答(FAQ)」なので、必要な方がみるといいと思います。

マネジメント層があらかじめ見ておくといい問答を1つ抜粋すると

−デザインの価値がどこにあるのか数字で示すことはできるのかね?
(前略)マッキンゼーがおこなった調査では、デザインを重視する企業は同じようなプロダクトやサービスを販売する競合と比べて30%も高い値付けができることが分かりました。

想定問答は難解な用語もありますが「これまでの世界とこれからの世界が違うんだ」という主張が一貫してるので、示唆に富むこれらの意見を是非みておくと良いです。

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6章|「KPIを立ててはいけない」

1章に次いで読むべきは?と問われたら6章です。

デンマーク・デザイン・センターのCEOであるクリスチャン・ベイソン氏のインタビュー内容は「なぜデザイン経営を取り入れた方がいいのか」をより確信めいたものにしてくれます。

以下が少し長めですが意訳になります。

経済学と工学が席巻していた時代のビジネスは数学的に組み立てられるのでKPIが機能していました。これすなわち科学的合理性でビジネスを語れた時代といえます。

デジタライゼーションとグローバリゼーションにより生活者の行動がかなり自由になったので、これまでパターンで捉えることのできた消費者について計測も予測も困難になってしまいました。

したがって今の時代とくに重要になるのが「ユーザーは何を課題に感じて何を求めているか」なのです。

しかしここで留意すべきは「良きプロダクトやサービスが生まれるのは仮説がひっくり返るほどユーザーニーズを調査できた場合である」ということ。

大半の企業が仮説止まりで、自分たちの偏見(バイアス)の中にいます。

KPIとは「科学的合理性に基づく場合の指標」であり「あらかじめ立てた仮説が正しい前提で機能するもの」なので、現代のビジネスには実は不向きなんじゃないかと考えています。

目標をバックキャストしながら計画を立てる従来のKPIドリブンな「解ありきのマネジメント」ではなく、ユーザーの観察と実験を繰り返す「解のないマネジメント」がこれからの時代に有用です。

なぜデザイン思考・デザイン経営が重要なのかはこの章をみるとすごく腹落ちできるので一読をおすすめします。

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7章|「中小・地方企業の勝ち筋は『文化』しかない」

書き味は柔らかくとも高次元の話をしてるのが最終章であるこの章。

企業が従業員およびユーザーをうまく引きとめられている場合、その企業の文化がきちんと表出されていると田村氏は言います。

そしてこれからのデザイナーは、企業が包含するいろんな情報を掬い上げ、意味として取り出してそれらを紡ぐことで「文化」として可視化する助力になることがもっとも価値ありとも話されています。

特にこの話の中で面白いのは

「マーケットの回路」を通じて世の中に広がっていくのが主流であり、その回路においては大企業に勝つことは到底かなわないけれど、「文化の回路」を通じて世の中に広がることはできるし、さらに言えばこの土俵であれば大企業に打ち克つことも夢では無い

と語られてる部分です。この章は個人的には何度か読み返したい内容でした。

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さいごに

「デザイン経営」と聞くと、なんだかマネジャー陣がデザインに詳しくて、かっこいい事業を素敵なパワポで説明しなくちゃいけないような、そんな思い込みを抱いてしまいますが、まったくそんなことはないと手短にわかるのがこの手引書です。

デザイナーがデザインをする際「ユーザーがどう思うか」「問題は解決されるか」をベースに考える思考法を、経営にも取り入れようというのがデザイン経営の主旨です。

この未曾有の経済危機を前に、事業マネジメントを見直さねばと思っているマネジメントに携わる方々にぜひとも推薦したい一冊です。

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