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☆本#21 母の愛と喪失 「シズコズ ドーター」キョウコ・モリ著 「夜明けの約束」ロマン・ガリ著

母国語以外で小説を書いたふたりの作品に偶然共通点を見つけた。それは、母の強い愛とその母を亡くした喪失感の影響力。

どちらの小説も実体験がベースになっている。

キョウコ・モリの母親は彼女が10代のとき自殺した。その後父はさほど間を置かず再婚し、彼女は20歳ぐらいでアメリカの大学に編入し、家を出た。そのままアメリカに移住し、30代でこの小説を英語で書いた。この小説の主人公有紀は12歳で母親を亡くし、愛情の薄い父親と不倫後後妻におさまった継母と、世間体を気にする親の意図で母親の親族とは関わらせてもらえない環境で過ごし、高校卒業と同時に家をでる。継母に捨てられる前に母の形見をもって、もう2度と帰らぬ決意で。

日本では自殺者は2万人超。先進国の中では多いほうで、主な理由は健康関係。男女比だと男性のほうが多い。

この小説で母親が自殺するのは1969年。高度経済成長期だ。日本で離婚率が上昇するのは1980年以降らしいので、当時女性側には離婚という選択肢はなかったかもしれない。現在なら、違う選択肢を選べたかもしれない。有紀は、母の死から人への愛情に対し不信感を持ち冷めていたけど、家を出てからの出会い等で、やっと母を失った喪失感を乗り越えられ始める。

環境が人に与える影響は大きい。有紀ははやく大人にならざるを得なかった。最後のほうで有紀の心に変化が訪れちょっと安心した。

一方、ガリの本の主人公は、シングルマザーだった母から絶大な期待と愛情をもって育てられ、常に母の願いを叶えようとする。母が病気で亡くなっても、引き続き母の願いを叶え続け、外交官になり、作家になり、作家として大賞を受賞するけど、母の愛・呪縛から逃れられず、多分逃れたいとも思わず、喪失感を抱えたまま生きる。この本は、フランス語で出版されたあと、本人が英語に翻訳し、両国でベストセラーとなり、戯曲家されたり、映画化されたりするけど、なぜか当時日本では翻訳版がでていなかったようだ。

本をたくさん読む人にはあるあるだと思うけど、読んでるうちにポイント読みというのができるようになる。短時間であらすじをつかむ読み方。あまり良くない読み方かもしれないけど、単調なシーンはこの読み方で時短できる。今回、どちらの小説もポイント読みしようとしても途中からつい引き込まれて読んでしまった。

ちなみに、フランスに帰化したガリが第2次世界大戦時フランス軍で航空士だったころ、「星の王子様」を書いたサン・テグジュペリもいた。彼は、貴族家系の生粋のフランス人で、移民のガリが希望してもなれなかった操縦士になり、郵便航路の開拓者として名を馳せたが、追撃されて亡くなった。対照的なふたりだけど、亡くなった後でも作品が不滅なの点は共通している。


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