【毎週ショートショートnote】最後のマスカラ

お題「最後のマスカラ」

【ラストステージ】（410字）

今日が最後のステージ。俺は鏡に映る自分の顔を見て、そっとため息をついた。かつては傾国の美男とまで謳われた美貌も、年月を重ねるにつれて衰えていった。

「そろそろ潮時かもな」

座長に肩を叩かれたとき、覚悟を決めた。不思議なことにさほど悲しくはなかった。むしろ肩の荷が降りたような気もした。

メイクボックスを開き、いつものように顔を作っていく。ドーランは明るめの色を選び、ノーズシャドーからダブルラインへ。最後のマスカラは少し厚めに。鏡のなかで微笑んでいるのは、今日を最期にこの世から消えていく男の顔だ。

「おい、出番だぞ」

座長の声がした。

「あいよ」

立ち上がって彼を見ると、やつはツッと目を逸らしやがった。

「長い間、ありがとな。お前と一緒にやれて楽しかったよ」

そう呟く彼に、俺はニヤリと笑った。

「なにいってんの。お楽しみはこれからだぜ」

待ってろ、観客。生涯忘れられない舞台を見せてやるぜ。俺の右手には、マラカス型の爆弾が握られていた。

『たらはかに』様の8/6～8/12のイベントに参加させていただきました！ マスカラですよね、マラカスじゃなくて。はい、ちゃんとわかっているんです。でもどうしてもマラカスも出したくて。ごめんなさい……。