地方に住み、自治体と働くということ⑩ ~BtoGビジネスの特徴
前回の記事で「稼ぎのモデル」の大切さをお伝えしましたが、行政を相手にする場合は普通のビジネスと勝手が違うことが多いので、そのあたりを少し詳しく説明したいと思います。
BtoB/BtoCビジネスとの違い
行政を相手にするビジネス(BtoG)の最大の特徴は、「行政サービスは独占マーケット」であり、「対価が税金で支払われ」、「多くのプロセスが法律によって厳格にルール化されている」ことです。このため、もしあなたが行政と仕事をしようと思ったら、透明性の高い手続きを経て契約を結び、公共性の高いサービスを、すべての受益者に対して公平に提供することが求められます。
すごーく簡単に言えば
①法律にのっとった公正な競争に勝ち抜かなければ契約できない
②提供するサービスが、社会の課題解決につながるものでなければならない
③お金がなくてもクレーマーでも、必要な人にはサービスを提供しなければいけない
ということです。
BtoB、BtoCビジネスなら、信頼関係を築いてリピーターになってもらったり、個人的な課題解決にフォーカスしたり、面倒くさい相手とは取引しなければよいのですが、公共相手ではそうもいきません。
このあたりの枠組みを理解していれば、「なぜ行政は硬直的なんだ」「お役所仕事、けしからん」などと文句を言っても仕方ない、ということがわかっていただけると思います。むしろ、行政が置かれているがんじがらめの状況を理解し、それを打破する提案ができた人だけが、BtoGビジネスで成功することができます。
【BtoGビジネスの全体像】
以下ではBtoGビジネスの構成要素として、①発注方法、②サービス提供相手、③対価の支払い方法、にわけて、それぞれの考え方を整理してみます。
BtoGビジネスの構成要素 ①発注方法
自治体が発注する方法は、主に4つあります。お金だけで委託先を決める「競争入札」、提案内容と金額のバランスを見る「総合評価一般競争入札」、提案内容で評価する「企画競争」、そして余人をもって代えがたい場合に採用される「随意契約」です。
行政側にノウハウがあり、たくさんの受託者の候補がいる場合は、できるだけコストを下げるために「競争入札」が選ばれます。委託費の原資が税金なので、節約することで住民にとってもメリットがあります。
一方、行政にとって初めての事業や難易度の高い事業の場合、お金よりもノウハウを重視する傾向があり、「企画提案」が選ばれます。安かろう悪かろう、では、税金の無駄遣いになってしまいますからね。
BtoGビジネスの構成要素 ②サービス提供相手
サービスの提供相手は、行政向けなのか、住民向けなのか、2パターンに分かれます。
行政向けサービスは、コピー機や事務用品などバックオフィスに必要な物品の調達や、住民サービスに必要な各種調査、公共施設の工事など、多岐にわたります。ここだけを切り取ると、BtoBビジネスと近い側面がありますね。
住民向けサービスは、体育館やホール、児童館などの運営業務や、悩み相談窓口業務など、本来は行政が行うべき住民サービスを、行政に代わって提供するものです。BtoCの色合いが強いといえます。
行政からの業務委託は、法律で「1年単位」と決められていますが、住民向けサービスの場合は3~5年の長期契約になることもあります。受託者が住民のニーズを把握してより良いサービスが提供できるようになるためには、一定の期間が必要であろう、という考えからです。来年も業務を続けられるかどうかわからなければ、投資をしたりスタッフ教育したりしませんよね。
BtoGビジネスの構成要素 ③対価の支払い方法
提供したサービスの対価は、行政が税金を原資に支払う「サービス購入型」、受益者がサービスに見合った費用を支払う「独立採算型」、そしてこれらを併用する「混合型」の3種類あります。
②で上げた「行政向けサービス」は、BtoBの性格を持っているだけあり、すべて『サービス購入型』が採用されます。一方、「住民向けサービス」はBtoC的なのですが、受益者が費用を負担しないケースもかなり多く、これら3種類の方法がケースバイケースで採用されます。
例えば、観光案内所や図書館、児童館など利用者に料金負担のない施設では「サービス購入型」、駐車場やスタジアムなど収益性の高い施設運営だと「独立採算型」、公民館や体育館など利用者の負担する料金が低廉な施設では「混合型」が、それぞれ採用されています。
独立採算型の場合は利用者数の変動が収益に直結するので、受託者は頑張って利用者数を増やそうとするインセンティブが働きます。つまり、
【受託者】売り上げを上げるため、利用者数を増やそう!
【受益者】サービスがいいから、もっと利用しよう!
【行政】公共サービスの受益者が増えた!(行政課題が解決したり、人口が増えたり、いいことたくさん)
という「三方よし」が成り立ちやすくなります。
他方、思ったように利用者が伸びない場合や、今回のコロナ禍のように想定外の需要の落ち込みが発生することもあり、リスクが高いとも言えます。
このような案件に応募する際は、どの程度のリスクなら許容できるのか、冷静に見極めておくことが大切です。
さいごに
BtoGビジネスの特徴を見てきましたが、BtoBやBtoCと比較すると、いろんな点で違いを感じていただけたと思います。
地方では担い手が不足していると言われ、社会課題も百花繚乱、そして一大産業は行政である、という状況を考えると、地方起業の対象としての行政委託はそれなりのポテンシャルを持っているといえるのではないでしょうか。
あなたの起業のテーマに、ぜひBtoGも加えてみてください。今まで見えなかった新しいアイディアが浮かんでくるかもしれません。
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