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弱音を封じ込めないで

わずか一週間のうちに住む世界が変わったようだ。

アメリカの国家非常事態宣言を受けて、私の居住地ではまず学校がクローズになった。そして間髪入れずに今週からは外出禁止令が出た。基本的に必需品の買い物や近所の散歩を除いて外に出てはならない。

賑やかだった街から人は消えた。開いているのはスーパーや銀行や病院など生活に欠かせない施設のみ。レストランは持ち帰りやデリバリーで対応。
これから次第に潰れる企業や店が増えていくのだろう。すでにあちこちで従業員の解雇が始まっているらしい。

良い意味でも悪い意味でも、ここぞというときのアメリカの実行力や行動力、決定スピードには驚かされる。

日本から来た留学生やインターン生の中には強制帰国となっている人も多い。同じ道を経験して来た者として胸が痛いばかりだ。

一番怖いのは治安の悪化かもしれない。銃弾がいつも以上に売れているという。アメリカで暮らす中、銃の発砲音を耳にしたのは一度や二度じゃない。ここはそういう国なのだ。

北カリフォルニアは晴天率が高いにも関わらず、人々の不穏な空気を取り入れるかのように雨が続いている。

エネルギーを満タンに搭載している男の子二人を家に閉じ込めておくのは、ひじょうに大変。
家遊びに終始していてもすぐにお腹が空いたという。放っておこうものなら兄弟喧嘩でどちらかが泣いている。朝も早くからアベンジャーズごっこに付き合わねばならない。低血圧だからと一旦断るが、息子にとっては知ったこっちゃない。

私はフリーランスとしてレギュラーの仕事がある。休校の知らせを受けて、各クライアントに事情を話し、業務量や納品時期を調整してもらった。
全世界レベルの由々しき事態。先方も理解してくれて「共に乗り越えましょう」という優しい声をいただいてありがたかった。

非日常を日常にしていかなければならない。
この時間をなるべく有意義なものに、と思う。

だから我が家では日本語の絵本やテキストを大量に仕入れることから始めた。子どもたちは普段フルタイムで英語に触れているので、日本語が弱い。

子どもの吸収力はものすごく、ほんの数週間日本へ帰省しただけで語学は飛躍的に伸びる。それと同じ環境を再現してみようかと。

こういういつもとは異なるネガティブな状況に置かれると、どうしても愚痴が多くなってしまう。

以前、夫が日本へ出張中に倒れて入院したとき、どのぐらい治療に時間を要するのか分からなかった。彼が回復して戻ってくるまでは、子どもたちに何かあってはならぬ、絶対に倒れてはならぬという緊張感もあってかなり疲弊していた。

つかれたなぁ。
そんなふうに漏らす私をさらに追い込むような言葉があった。

「あなたが頑張らなくてどうするの」
「あなたがもっとしっかりしないと」

励ましてくれているのだとは思う。うん、ちゃんと分かっている。嘆いていたって仕方ないって。けれど、こう言われてしまったら誰にもどこにも弱音を吐けなくなる。家族や近い友人なら尚更。
もっと怖いのは、これらの言葉を自分で自分にかけてしまうことなのだろう。

弱音を封じ込めてはいけない。そうすることで心や体が壊れていく人をたくさん見てきた。かくいう私も「まだ平気」「まだ大丈夫」を繰り返して20代後半には急性肝炎を患い、入院と休職を経験した。

それからは適度に弱音を吐くと決めた。大丈夫。私には立ち上がる力がある。そう信じているからこそ。

ホッと一息をつく。コーヒーを飲む、甘いものをつまむ、その一瞬だけは弱音を吐くのを許してほしい。許してあげてほしい。

そして、どうか弱音を吐くのを恐れないでほしい。美味しいものを食べて、楽しいものに触れて。だんだん心がほぐれてきたら、また自分のペースで歩みを始めればいい。

最後まで読んでいただいてありがとうございます。これからも仲良くしてもらえると嬉しいです。