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9年ぶりの梅雨は懐かしい音がする

日本へ帰ると、アメリカで暮らしている日常が朧げになる。アメリカへ戻ると、日本で過ごした日々が夢みたいになる。

左車線を走る車。乱されないルール。何でも手に入るコンビニ。道端に佇む自販機。いつもとは異なる景色との対峙が3年半ぶりだとしても、あっさり馴染んでしまう。20代の終わりまで過ごした母国の空気感を、身体が忘れることはない。

出入国のハードル

長らく閉ざされていた海外渡航の道のりは平坦ではなく、途中で心が折れそうになった。
当日早朝のフライトキャンセルから翌日振替え便の6時間delayまで。当初予定の30時間遅れで出発した形。これぐらいの差で出発できたのはラッキーだとも言える。予約したANA窓口の方が頑張ってくださったおかげ(主犯はコードシェア便のユナイテッド航空)。

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30時間のあいだにも、それはそれは色々とあったのだが、細かく書いていくとただの実録と愚痴になってしまうので。なにはともあれ、日本へ帰ってこれて本当によかった。到着、した!
もともと2泊でとんぼ帰り予定だった夫は、さらにスケジュール押しまくり。羽田でバイバイした。翌日にまた12時間半フライト。入国もしていないのに帰り便の手続きするカオス。負担をかけてごめんなさいの気持ち。

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親族パワーすごい

私+息子たちで義実家へお邪魔する。彼らに前回帰省時の記憶があるはずもなく、しばらくは人見知りするかなぁと思っていたのだけれど。3分ぐらいで祖父母や義妹、息子さんと打ち解け、心配は杞憂に終わった。
子どもって自分の絶対的な味方を見分けるのが上手いのかもしれない。私がいなくても、何か食べさせてもらったり、一緒に買い物へ出かけたり、とっても楽しそう。

大人が多いとは、なんと心強いのだろう。アメリカでは二人か一人で担っている責任や義務のような重みを少しずつ降ろす。信頼できる人に委ねられる安心感。おつかれさま、大変だったね、とたくさん言ってもらう。ノンアルとガーリック海老。朗らかなご家族と過ごしていると、私まで朗らかな人間になれる気がしてくる。

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都会と掲示板

東京暮らしは未経験。土地勘がない。だから一人で電車に乗るときはいつも不安で、車内に表示された電光掲示板(駅名と分数)をひたすら見ている。歩くときも地図があればひたすらチェック。ポケットWi-Fiを備えたスマホでナビはできるのだけれど、ざっくりした方角を掴むには地図が一番わかりやすい。

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本当に帰れるのか半信半疑だったため、予定はほとんど入れていなかった。お出かけしたのは少しだけ。銀座、日本橋、豊洲、神楽坂。地名とにらめっこ。有楽町線ってやつだけは覚えた。
前半戦の東京で会ったわずかな友人達とは、オンラインで話したこともある。リアルとは何が違うのだろう。相槌や会話の間、手癖にまばたき。何よりも、空気。一緒にいる場が、弾けたり満ちたりしている。


☂️

義実家では「寝てていいよ」なんて砂糖菓子みたいに甘い言葉をかけてくださるものだから、居間と襖一枚を隔てた客間で横になる。素直にお昼寝タイム。

雨が降っている。梅雨は9年ぶり。シカゴでも雨予報は少なくないが、音が違う。瓦屋根、庇、ビニールシート、自転車。家の造りや間隔で雨の音って変わるんだ。

日本を叩く雨音に、カチカチと秒針が混ざる。心地よく聴いていると、いつかの祖父母宅を思い出した。あの時計は振り子だったかな。お墓参りもいかねば。6月なら紫陽花が咲いているかも。

畳の匂いと感触に身を委ねる。取り留めもない事柄が浮かんでは消え、急ぎのない空間で眠りに落ちていく。

最後まで読んでいただいてありがとうございます。これからも仲良くしてもらえると嬉しいです。