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ブレンド型学習③ゲームと学校教育

桃太郎電鉄 教育版!
桃鉄やったことはないんですが、かつて友人が「日本の地名を覚えるには桃鉄が最強だ!」と熱弁していたので、鉄道好きの息子に早速させてみようと企んでいます。

そこでふと考えました、「ゲーム」と「学校教育」について。

「ゲームは学習の敵」という声、聞いたことがある方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。

私も10年と少し、現場で教えていますが、「ゲームしてて勉強できなかった」という生徒や、「ゲームやめろって言っても聞かないんです」という保護者の声は、担任をしていたら必ず聞くワードTop3に入ってきます。

では、ゲームは本当に学習の敵なんでしょうか。
種類にもよると思いますが、決してそうとは言い切れないと思います。これについて、ちょっと考えてみたいと思います。

「ゲーム」と「ゲーミング」と「ゲーミフィケーション」

「ゲーム」とは?

Wikipediaさんで調べてみたところ、ゲームとは、勝負、または勝敗を決めること。 守るべきルールがあり、環境または他人との相互作用を元に行なわれる活動のこと。

Oxford Dictionary of Englishとかで”game”を調べても、同じような定義が出てきます。オリンピックなども、英語表記では”Olympic Games”と言いますもんね。

「ゲーミング」とは?

一言で言うと、ゲーム学習(game-based learning)、つまり、ゲームの教育利用です(Furdu et al., 2017)。ゲームを学習に役立てるという考え方です。最初の桃鉄の件も、これに該当します。

例えば、「ゲームでやったことが学校で出た!」と言う経験、ないでしょうか。

マイナーですが、シヴィライゼーションシリーズや、Age of Empiresをプレーされたことのある方、古代文明の名前や都市名、君主の名前、政治形態などが自然に頭に入っていった経験はありませんか?

(すいません、自分がめっちゃ好きだったもので・・・)
これらが、「ゲーミング」の例に該当します。

「ゲーミフィケーション」とは?

これは、「ゲームの要素を学習に応用すること」です(Furdu et al., 2017)。次のセクションで触れますが、前述のゲームのようなストーリー性などは特にありません。Kahoot!やQuizlet、Quizizzには、この要素が採用されています。

ゲームの要素

対戦ゲーム、パズル、ボードゲーム、シミュレーションゲームなど、ゲームには様々な種類があります。これらには含まれている要素には、以下の10点があるとされています。

(1)明確な目標
(2)直接的なフィードバック
(3)課題が達成できる見通し
(4)レベルアップ、レベルデザイン
(5)スコア(ポイント)やランキング
(6)バッジや実績
(7)競争
(8)協力
(9)ストーリー
(10)視覚化

(山崎、2013)

また、ゲームでは、失敗する時にかかる心理的負担が軽いという側面もあります。自分がとった行動の結果もすぐわかり、これが(2)直接的フィードバックに該当します。

そして、(3)課題が達成できる見通しや、(4)レベルアップ、レベルデザインがあるので、絶えずプレーヤーは挑戦し進歩する流れができるんですね。失敗したら、「なぜ、どこで間違ったのか」を考えて再度プレーして、成功したら(5)スコア(ポイント)やランキングが上がったり、報酬として(6)バッジや実績が認められる流れです。

RPGだと、レベルアップするにつれて使える魔法やアイテムが増えますが、これも報酬の一種ですね。

Quizletを例に考えてみると、「マッチング」という機能があります。英単語で、英語と意味をマッチさせるものです。間違ったら赤い文字で知らされます(直接的フィードバック)。そしてプレー後、ランキングが表示されます(スコアやランキング)。そこで、友人と比較して自分はどこの位置にいるのかが把握でき、人によったら「A君を超えてやる!」と、何度も挑戦し続けるわけです(明確な目標、競争)。

なぜゲームでやったことは忘れないのか

ここの繋がりについて文献を漁ってみたんですが、疲れてしまったので(おーい)
色々読んで繋げて考えたことを書いてみます。あくまで個人の見解です。

前述のように、ゲームの中には「絶えずプレーヤーが挑戦でき続ける仕組み」が設計されています。

この「絶えず」「続ける」が、自然と反復の流れを作っていることと、ストーリー性の文脈と合わせて繰り返される仕組みが有効に働いていると考えられます。

まず前者の反復についてですが、これはエビングハウスの忘却曲線の話と少し関連性があるのかなーなんて考えました。

エビングハウスの忘却曲線は、反復や復習の大切さを説くときによく耳にするお話です。ここでのポイントは、実験で使われたのが「自分にとって無意味な情報」であること。ここに「ストーリー性」が加わって意味が追加されるわけです。

更に、ここにゲーム要素(10)視覚化が加わります。
ゲームで起こったことは、常にビジュアル表現されます。文章の読解でも、文字だけを見ている場合よりイラストの描写や図解がある方が理解しやすいように、視覚化されていることによって、ゲーム内の状況も簡単に理解できます。

そして、ゲームが進む過程にも重要なポイントがあります。

先のゲームの要素の項目で、失敗して、原因を考え、再度挑戦して成功・・・という件について書きました。この一連の流れは、失敗から学ぶ学習過程になっているわけです。

ただ英単語を声に出して覚える単調な活動と比べると、ゲームをしている時の方が、実は結構色々考えて脳を使っているのかもしれません。試験勉強をした後にゲームをして、せっかく勉強した内容を忘れてしまったというのも、もしかしたらこういった理由があるのかも。

ゲームを使ったブレンド型学習

(ブレンド型学習については、以下にまとめています。)

ゲーミングやゲーミフィケーションを取り入れる長所の1つが、「学習活動への意欲を高めやすい」こと(藤本、2011; Furdu et al., 2017; Keller, 1987)。

でも、ただゲームをやるだけだと、「活動あって学びなし」になる可能性も十分あります。実際に短所の1つには、「ゲームに勝つことを優先して学習が疎かにされやすい」というのもあります(藤本、2011)。

だから、学校教育で取り入れるなら、ゲーミングにしても、ゲーミフィケーションにしても、そこから何を学ばせたいのかという目的や、どんな力をつけたいかなどの目標設定は大事です。

何をどう組み合わせるかは、目標によって変わります。ゲームをすることは目標ではなく、あくまで学習の過程にあるもの。要は、ゲームして終わり、ではなく、いかにゲームを活用するかがポイントだと思います。

Pharaohという、古代エジプト文明シミュレーションゲームを例に考えてみます。

このゲームは、エジプトの古王国時代、中王国時代、新王国時代の流れでエジプトの都市を作っていくシミュレーションゲームです。サッカラという都市を作るステージでは、かの有名な階段ピラミッドを作るミッションが課せられたりします。

この「サッカラの階段ピラミッド」は、世界史の資料集にも出てきます。設計に携わったとされる宰相の名前も、ゲーム中にがっつり出てきます。

ゲームだけだと、「ピラミッド作るの長かったー」で終わってしまうのですが、ここで学んだ知識を、教科書や資料集などの違う文脈でつなげることで、「あーあれか」となるわけです。

子どもたちが自分でこれをできればいいのですが、皆が皆できるとは限りません。ここを繋いでいくのも、先生の役目だと個人的には考えています。

でも、あまり真面目にやりすぎると、ゲームの楽しい側面が削がれてしまうかもしれません。だから、理解を繋いだり確認するといっても、堅苦しいテストとかではなく、先生が振り返りとして問いを投げて、子ども達が学びを繋げるだけでも十分だと思います。

さー、桃鉄教育版、どうやって活用されるんでしょうか。

私は鉄道好きの息子にやらせたいと思っているんですが、よく2人で旅行に行くので、これで学ばせた後、次の国内旅行プランを息子に立てさせてみようと思っています!(ちょっと怖いですが・・・)


<参考文献>
藤本徹. (2011). 効果的なデジタルゲーム利用教育のための考え方. コンピュータ & エデュケーション, 31, 10-15.

山崎和子. (2013). ゲーミフィケーション (Gamification). 知能と情報, 25(3), 93-93.

Furdu, I., Tomozei, C., & Kose, U. (2017). Pros and cons gamification and gaming in classroom. arXiv preprint arXiv:1708.09337.

Keller, J. M. (1987). Development and use of the ARCS model of instructional design. Journal of instructional development, 10(3), 2-10.

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