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ブレンド型学習①フレキシビリティとコンテキスト

Semester2でデジタル時代のブレンド型学習についての講義を履修し、先日最終課題を提出し終えました。

前任校で入試業務の忙しい時期と被ったり、職場が変わったりして、途中なかなか追いつけなかったりしましたが(今も一部残しています)
内容は、実用的かつ理論的で現場にも反映できて、とっても面白かったです。

コロナ禍で教育現場へのICT導入が進み、どう使うのかについて色んな議論もありますが、せっかくなので、このご時世の流れに合わせてまとめてみようと思います。

「ブレンド型学習(blended learning)」とは

ブレンド(blend ):混ぜる、組み合わせる ということですが
では、一体何と何を混ぜ合わせることがブレンド型学習になるのか。
これに関して、明確な定義はありません。

例えば、
・教室での対面学習と、オンライン学習の統合(Garrison&Kanuka, 2004)
・対面指導の中でPCを介した指導を取り入れること(Graham, 2006)
・様々な教育学的アプローチ(構成主義、行動主義など)を組み合わせること(Driscoll, 2002)
・単に、2つかそれ以上のものを組み合わせること(Oliver&Trigwell, 2005)

など。むしろ、ブレンド型でない形態を見つける方が難しいわけです。

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以下、令和3年1月に文部科学省が出した「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~ 答申」の概要です。

https://www.mext.go.jp/content/20210126-mxt_syoto02-000012321_1-4.pdf

スライドの4枚目、

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一斉授業か個別学習か,履修主義か修得主義か,デジタルかアナログか,遠隔・オンラインか対面・オフラインかといった「二項対立」の陥穽に陥らず,教育の質の向上のために,発達の段階や学習場面等により,どちらの良さも適切に組み合わせて生かしていく

とありますが、まさにこの部分はブレンド型学習を指しています。

余談ですが、下の本の第19章に、日本におけるブレンド型学習の導入が紹介されています。
出版されたのは2005年で、2003年のe-learning readiness rankingというランキングにおいて、参加60カ国中、韓国が5位、シンガポールが6位だったのに対し、日本は23位、教育分野におけるICT活用政策では大きく遅れていることが紹介されています。

話を戻して・・・

ブレンド型学習で最も重要になるのが、単に組み合わせるだけではなく、「学びに焦点をあてる」ということです。

学びに焦点をあてるとは、学習者がおかれている状況(コンテキスト)を理解し、それに合わせて学習方法を設計する、つまり、何を、なぜ、どう組み合わせるのかを考える、ということです。

もちろん、アプリやツールが持つ特性(affordance)が、プラスに作用するということは十分にあり得ますが、基本的にはどんな媒体を使っても、学習の質にさほど影響は出ません。どうやって教えるか次第です。
(「このアプリを使ったら○○ができるようになった!」というような単純な話ではないということです。)

そして、明確な定義がないということは、変な話、「この授業におけるブレンド型」の定義を自分で作ればいいわけです。

その時に必要なのが、先に述べた「コンテキスト」の分析です。

フレキシビリティ(柔軟性)

デジタル技術を活用したブレンド型学習の利点のひとつが、フレキシビリティ(flexiblity:柔軟性)という概念です。

何となくイメージはつきそうですが、Collis &Moonen(2001)は、

・場所(学ぶ場所や時間にとらわれないこと)
・プログラム(学習者の状況や興味に応じてコースや内容を選べること)
・対話の方法(学ぶ場所や内容に沿った対話の方法を選択できること)
コミュニケーションの方法(口頭か文字などの手段を選択できること)
教材(紙の本、ノート、動画などから選べること)

の5つを、フレキシビリティの側面としてあげています。

こういったフレキシビリティを含んだ学びは、プロセスより質重視で、Collis&Moonenは「フレキシブル・ラーニング(flexible learning:柔軟な学習)と呼んでいます。

コンテキストの分析

そして、Collis & Moonenは、このフレキシブル・ラーニングは、

・技術(technology)
・教え方(pedagogy)
・実効性(implementation)
・組織(institution)

という4つの要素で構成されているとしています。

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【引用元:Flexible Learning in a Digital World(p.2)
Collis &Moonen(2001)】

【技術】 
昔ながらの教室にあるテクノロジーといえば、講義内容を効率よくつたえるための黒板とチョークが主流でした。最近ではここに、eメール、動画、プロジェクター、ICT機器、ウェブベースのプラットフォーム、アプリ、SNS、LMS・・・など、実にいろんなものが含まれます。

教科によって、また、学習目標によって、どんな技術と相性がいいのかは異なりますね。

【教え方】
文字通り、どう教えるか。こちらも、教科と何を教えるかによって大きく異なってきます。

Collis & Moonenは、大きく「習得型」「参加型」の2種類に分けています。「習得型」は、知識の習得や概念の展開に焦点があてられ、「参加型」は、対話を中心として知識や概念を作り上げていくものです。後者は探究や、答えがない問いに対して追究していく際のものと捉えられます。

【実効性】
↑の2点をふまえ、それらを組織レベルで実行する努力がなされているか。方針と戦略、同僚性、管理職の力、このあたりがここに関わってきます。要は、たとえ教える技術に関わる設備が整っていて、教え方がしっかり研究されていても、活用しなければ意味がないし、共有せずに一部の教員のみ限定されてしまっては意味がない、ということです。実践コミュニティ(Community of Practice)の形成につも繋がる話です。

データはとっていませんが、感覚的に、このあたりは日本の多くの現場にある課題に大きく関わっている部分だと思います。

【組織】
結局、上記3点がどうあるかは、1番大きな組織の方針が大きく関わってきます。学校と教育委員会の関係、が例としてはわかりやすいかもしれません。各自治体の教育委員会が提唱している「こういった人の育成を目指す」というところに沿って、その自治体にある学校では教育が行われるわけです。

また、現場にどれだけサポートができているか、そのための予算があるかも、ここに大きく関わってきます。

つまり、

技術は教え方があってこそ
教え方は実効性があってこそ
実効性は組織あってこそ

自分が置かれている状況を、このそれぞれの要素で分析してみます。これがコンテキストの分析にあたります。

ICTをどう活用するかは、コンテキスト次第

学校現場の学習環境や生徒の現状を分析することは、上記4つのうちの「技術面」「教え方面」に関わります。

そして、これは従来行われてきた教育の考え方と同じだと思います。

ただ昨今の流れとして(こちらも感覚ですが)

・GIGAスクール構想で色々提供されたけど、どう使っていいかわからない
・実践が溢れすぎて、何が何かわからない
・Aさんはできるが、私には到底できない

こんな意見もチラホラ聞く気がします。

結論から言うと、諸々仕方ないと思います。なぜなら、コンテキストは現場によって異なるからです。

そして、「やりたいけど時間がない」「仕事が増えてしまう」のは、組織や学校の問題。

ただでさえ仕事が多いのに、ここに新しいものが入ってくれば、そりゃ忙殺されて当たり前です。足し算ばっかりしてくんじゃなくて、足すなら引いて、換骨奪胎を繰り返さなければ、いくら頑張っても教育の質は上がりません。そして、これは教員個人レベルではどうにもできないんです。(実効性に関わる部分)

教育のフォーカスは「もの」じゃなくて「人」です。

そして、これはどんな技術が導入されても、変わらないし、変わってはいけないものだと思います。

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勉強してみて、ブレンド型学習って、定義はないけれど、要は「各々の長所を組み合わせる」っていうことだと思っています。

実際、オンラインを導入してみたけれど、対面の方が効率が良い場合もあると思います。「効率が良い」のは同期型の強みですし、試行錯誤を繰り返しながら、コンテキストに合った方法を探していくのがいいんじゃないかと思います。

<参考文献>
Bonk, C. J., & Graham, C. R. (2012). The handbook of blended learning: Global perspectives, local designs. John Wiley & Sons.

Collis, B., & Moonen, J. (2002). Flexible learning in a digital world. Open Learning: The Journal of Open, Distance and e-Learning, 17(3), 217-230.

Garrison, D. R., & Kanuka, H. (2004). Blended learning: Uncovering its transformative potential in higher education. The internet and higher education, 7(2), 95-105.

Oliver, M., & Trigwell, K. (2005). Can ‘blended learning’be redeemed?. E-learning and Digital Media, 2(1), 17-26.


次は、ブレンド型学習の1つである同期型・非同期型を組み合わせた学習が、学びの探究共同体「Community of Inquiry」の形成にどう関わっていくか、英語の授業を例に考えてみようと思います。

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