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スリにご用心

いよいよバカンスムードが本番に差し掛かろうとする南仏ですが、気温は今のところそれほど高くなく、過ごしやすい天気が続いています。

とは言え日向は暑い。太陽が少しづつ地球に近づいているんじゃないかと思えるほど、年々太陽光のジリジリ感が増加している気がする。


それでも私は毎朝晩必ず散歩に出る。狭いアパルトマンで犬を飼っている者の定めとして、責任を持って暑かろうが寒かろうが散歩へ出かける。

そしてウチの犬はあの悪名高きお柴様。散歩途中に拒否柴が発動しようものならテコでも動かなくなる。猛暑日に日陰の少ない場所でそれをやられると、飼い主も犬同様に舌をベロンと突き出してハァハァ言う羽目に陥る最悪のシナリオに。

駐車禁止よ

昨日もウチのお柴様は通常営業で、散歩途中に何度か拒否柴が発動した。

いつもの如くパン屋やバス停の前でピクリとも動かなくなった。せめてもの救いはそこが日陰だったこと。人通りを気にしながらチョイチョイっとリードを引っ張ったり声をかけたりして、歩きたいな、歩いてもいいかな、と思う方向へ気持ちを持っていくのにかなりの時間がかかる。

柴犬散歩は人間の忍耐を鍛える修行でもあるのだ。むんっ。

散歩の途中ですが、一旦休憩入りま~す

昨日は人通りはあるけど誰もいない、殺風景な広場でも拒否柴が発動した。セメントで作ったオブジェ的な椅子がところどころに置かれている。

地下を走るトラムが開通した時に蓋をした地上に設けられた広場なのだが、飲み食いしたゴミが散乱していたり、ベトベトした液体がこぼれていたりとキレイな場所とは言い難い。

そこは街の中心から郊外へと切り替わる境目的な地区で、街の様相が少し変わり始める場所でもある。とは言え明るく開けた場所で、観光客で賑わう海沿いのプロムナードから1ブロックしか離れていない。

拒否柴が発動した場所にはちょうど背もたれのない丸椅子があったので、軽く腰掛けて休憩がてら犬が再起動するのを待っていた。

雲の多い天気だった昨日はそれほど暑くはなかったから、声をかけたりチョイチョイ引っ張ったりしながら気長に待っていた。

ゆーても5分ほどした頃だろうか、右隣の椅子に誰かが座る気配がした。

広場には他にも椅子はある。私のいた場所が特に日陰だったわけでもない。

隣の椅子は肩が触れるか触れないほどの近距離だ。ぬぬぬ。

気になってチラ見をしたら、顔にクッキリと深いシワがたくさん入ったお婆さんが背中を丸めて座っていた。よく日に焼けている。彼女の前に置かれた買い物カートにはカラフルなビニール袋に包まれた荷物がたくさん詰まっていた。

数日前からのアレルギーで薬を飲んでいたこともあり、眠気で少しボーッとしていた私はすぐに状況を把握できなかった。

なぜこのお婆さんは私のすぐ隣に座っているのだろうか?

それから1、2分ほどまた犬と向き合って戯れてからそろそろ帰ろうと立ち上がったら、なななんと!そのお婆さんは私と同じ椅子の背中合わせにちょこんと座っていた。

ぬぬ!?ついさっきまで隣に座っていたのに!?瞬間移動か?

何度も言うが、広場には他にも座る場所がある。私の座っていた椅子が特に日陰だったわけではない。

そしていくらボーッとしていたとは言え、同じ椅子の背中合わせに誰かが座れば気付くだろ!普通。

婆さん、気配消すのが上手過ぎやしないか?忍者か?忍びの者なのか?!

歩き出した犬に引っ張られて数メートル離れたところでやっと私の脳みそが回転し始めた。

お婆さんはジプシー。気配を消してそっと近寄る手口。

スリやん!


パリの地下鉄や大きな駅の構内で見かけるスリは若者(子供)中心で、しかも集団でやっているから、そういう場所でジプシーの子供達を見かけたら反射的に警戒心が働く。

婆さんはうかつにも見くびっていた。

慌てて持っていたカバンの中身をチェックする私を婆さんは薄い目で見ている。

ある、ある、全部ある。何も取られてはいなかった。

カバンから目を上げてそのまま婆さんを見つめ返すと、小さく縮こまったまま眠ったように目を閉じて微動だにしない。まるでヨーダのようだ。ジェダイなのか?オイッ婆さん!


南仏では観光シーズンになるとスリが頻発する。開放的になって気が緩む人が多いのを知って狙ってくるのだ。

お越しの際はくれぐれもお気をつけください。

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