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山本浩貴(文化研究者) × MUGA(アーティスト) 対談

MUGA 個展「Just a Thin Truth」が開催中です。東洋哲学を軸に「人の視点、虚構」をテーマに作品を制作し、海外でも評価されるMUGAさんのご経歴や作品について、金沢美術工芸大学講師で文化研究者の山本さんをインタビュアーに迎え、対談形式でお話を聞きました。


スノーボードから得たアート的アプローチと虚構への気付き

Q:
ご経歴がとてもユニークですよね。プロスノーボーダーから、ファッションバイヤー、骨董商、そして現在のアーティストに至るまでの経緯をお聞かせください。

A:
プロスノーボーダーとしてトリックを出す時には、「映像でどう見せるか」というものに対してスポンサードを受けていたと思っています。なので「個性をどう出して映像作品に散りばめるか」を考えていた。今思うと、それは「自己表現」で「アート的なアプローチ」でした。

Q:
プロスノーボーダーとして写真などに撮られるのを意識する側から、アーティストとして撮る側に変化していかれました。写真への意識の変化を教えてください。

A:
プロスノーボーダーとして撮られる側で写真と関わっていたときは、写真=真実のまま写すものだと思っていました。
ただ、プロスノーボーダーの現場にある写真はフィクションなんです。着地に失敗した写真でも、良い一瞬だけ切り取って「っぽく」見せることはできる。イメージを歪めて、カメラマンという表現者の見せたいように見せることができる。「フィクションのツールなんだな」っていうのを強烈に思いました。

Q:
今、MUGAさんが関心を持ってる「虚構性」や「フィクション世界を作り出していく」ことは、絵画の中でされてきたことで、写真ではやりにくいものというイメージがあったと思います。プロスノーボーダーとしての経験から「虚構性」を感じたのですね?

A:
そうです。写真は、カウンターパンチが入れやすいメディウムだと思っています。皆が真実と思っているものの価値を転倒させることが比較的しやすいのです。


学んでみて気付く「写真好きじゃない」

Q:
どういう形で、写真を学んでいったのですか?

A:
名古屋で4年程、Ko Yamada先生の元で写真を学んでいます。ただ、4年間学んで出した結論は「俺あんま写真好きじゃねえな」っていうものでした。

さらにその理由を追求していった結果、リアルフォトグラフみたいなものはインフォメーションが多く、フィクション性がなさすぎて、入り込めないことがすごく苦手だったとわかった。

学んだ結果「なぜ嫌いなんだ」「なぜ苦手なんだ」って思う部分を逆手にとって、作品を今作ってる。未だに、好きなのか嫌いなのか、あんまり分かってないという不思議な関係なんです。

経営者の側面は重要なレイヤー

Q:
MUGAさんは、現在は、アーティストであるとともに、経営者という側面がありますね。それぞれ影響を与え合ってる部分はあるのですか?

A:
経営者の部分は、アーティストをする上ですごく重要なレイヤーになっています。

経営者は、見たくもない世の中の裏側を見なきゃいけない。その中で僕のフィクション性が、どんどんどんどん無くなって解像度が上がってくんです。僕は基本的に解像度の高い世界、意識の高い世界に自分を置きたくない。けど、そうせざる負えない中で「自分はこう思うんだ」「人ってこういう風に思うんだ」を感じるわけです。

例えば、風呂とトイレ以外はずっとゲームみたいな生活でも、ゲームというフィクションの中で自分の役割とか使命感、自分っていうものが必要とされてるっていう環境を作り出せるのであれば、僕はアリだなとは思っている。

だから、虚構性の需要や必要性は、自分の作品の中でも、経営者のままでいるっていうものはすごく重要にはなってますね。


真実の中の虚構

Q:
今までのお話から、虚構を作り出していくことで「現実の中の真実性を疑いつつ、フィクションとして排除されたものに目を向ける」みたいな意識を鑑賞者に与える要素が出てくると感じました。

A:
僕にとって、真実ってあまり必要がない。人は、自分の主観のバブルから抜け出すことはできないし、主観の泡の中で、歪んだ表現しか見ることができない。だからこそ、面白い部分もたくさんあると思っています。

「プラトンの洞窟 ※」の比喩じゃないですけど、炎に照らされた影を見ているので良いと思っている。(※古代ギリシアの哲学者プラトンが自身の「イデア論」を説明する際に使った例え話。洞窟内で縛り付けられ壁を向いて生活してきた囚人たちは、炎によって壁に照らされる影こそが実体だと思い込む。)

それって西洋へのアンチテーゼ(反対理論)だと思っている。唯一無二の真実を探し出すものに関しては、すごく否定的・批判的なんです。人間ってそんな大した可能性は持ってないので、フィクション性の中でサブジェクティビティ(主観性)のバブルの中でしか生きられないと知った上で、人生をどういうふうに楽しむかって思った方が良いんじゃないかと思っています。

Q:
プラトンの洞窟の比喩も、光が作り出すイリュージョンみたいなところがあると思います。今MUGAさんがやってる、フォトグラフィーという光で表現する中で虚構性を作り出すというのは、「現実のことをやっている」感じもありますね。

A:
自分の視点を作品の中でトレースしてると思っています。僕は脳内お花畑野郎なので、トレースした結果、光と影が映し出すものを自分の視点で歪めていった結果が、この作品になった感じですね。

アーティストとしての始まりは京都から

Q:
2020年の京都での展示が本格デビューだったと思います。どういうきっかけで、どういうことをやったのですか?

A:
京都の車屋さんでフランス車を買ったとき、そこの経営者の方に僕がアートをやっていると話をしたら、KYOTOGRAPHIE ※(※京都で開催される国際的な写真アートフェア )で動いてる人を偶然紹介してもらった。その方に作品を見せたら、展覧会をやろうと言ってくれ、ポンポンポンと進んだ。

ホテルモガナというモダンなホテルの大きい箱で最初から個展をさせてもらえて、アーティストデビューしました。本当に偶然が偶然が重なってという感じです。

その時に展示した作品は、《Just a Thin Paper》という今の作品の元になった作品で、紙を切り裂いて、その切り口の光と影を抽象的に表現しています。

作品を作る時、何百枚何千枚と写真を撮ったのですが、フォンタナの切り裂いたもののパクり※ (※ ルーチョ・フォンタナの代表作品しシリーズ《空間概念》は、画面を切り裂いた様子が印象的)になってしまう。むしろフォンタナの方が美しいし権威もあるとなると、僕は結局フォロワーでしかなかった。

なので、原点に戻って、自分と写真との関わり合いが1番強くなった部分を考えようと思ったんです。そこで思いついたのが、思春期の時に見たエロ本。性器が見えないようになっていて、黒い丸とか三角のパッチやモザイクで隠されてる。だからこそ、想像性を凄まじく増幅させられた。先のスノーボードで虚構性を感じるより前に、写真との強い関係がそこでまず築かれたわけですね。

そして、紙を切り裂いたところにパッチを張る手法を思いついて、作品を作ったのが最初です。

作品《Just a Thin Paper》No,1~9
https://muga.myportfolio.com/just-a-thin-papers 


作品《Just a Thin Truth》 No.20

モザイクとエロスと虚構性

Q:
モザイクやエロスも、思春期から今まで流れている1つのテーマという感じがあります。それがダイレクトに出てきているモザイクのシリーズもありますが、それについての着想から話してもらえますか?

A:
あれは月岡雪鼎の《四季図巻》※(※江戸時代の浮世絵師で、春画の名手として知られている作品。18歳未満の方は閲覧をお控えください。)を題材にモザイク化したものです。

月岡雪鼎が描いてた花=性器であるような表現は西洋にも当てはまっていて、メープルソープ※(※写真家のロバート・メイプルソープ、植物で性的倒錯を表現した)も花を性器的に撮っています。

花で抽象化していくと、丸とか三角とかになる。僕が見ていたエロ本も、丸だったり三角だったり四角だったりするんです。たまたま編集者が貼り付けてたシールがいろいろな形だったのかもしれない。でも、それが美術史にも、エロの歴史にも、1本の線で繋げることができるんじゃないかとして、月岡雪鼎の作品をオマージュさせてもらい、モザイクの作品を作らせてもらった。

作品《Four Season’s》※春画が表示されます。18歳未満の方の閲覧はご注意ください。
https://muga.myportfolio.com/dpi   

Q:
サイズは大きめですよね?

A:
1.5mの大きいサイズで、それを3枚の板で立体的に組むんです。大きくして、フィクションの中にちゃんと人間が入り込むことができるサイズっていうものを意識しています。作品に包まれるかのようなものを作りたかったので、そのサイズにしました。

Q:
モザイクとか、隠すとなると、普通はなるべく小さい方が良いと思うんですが、それがむしろ極大化して前傾にきている。サイズの問題として面白いですね。

A:
モザイクの価値を転倒させて、ネガティブからポジティブに変える。世間一般の西洋思想からするネガティブなものの価値を転倒させて、ポジティブにも使うこともできるよねと。

結果、虚構性を生み出すことが重要なんじゃないかと。何でもかんでも解像度を高く真実を追い求めてくことが、人間にとって幸せになることじゃないかもよと。

やってることはあまり変わらなくて、正しさへのアンチテーゼというか、正しさへの批判的行動なんです。他の作品も、今の作品も変わらなくって、みんなが正しいと思うことを揺るがしたいが強いですね。

Q:
モザイクって小さいからこそ、そこばかり見ちゃう。禁止の作用が働くから、むしろそっちに目が行ってしまう。不思議なシステムだなと思っていて、だから、それ自体の価値もサイズと同時に転倒していくっていうのは、操作としていろんな転倒が起きてるっていうのは面白いと思いました。

A:
絵画でも、無意味だった性器っていうものを隠した時点で、突如そこに虚構性であったり想像性が生まれると僕は思っているんです。

それが人の入る隙間であったり、そこであれこれ想像するのが結構好きなんです。逆にその答えってすごくどうでも良くて、そこが隠されることによって想像性がすごく膨らむ。刺激される。人間って面白いなって思う部分です。

だから、そこをリスペクトした方が良いんじゃないのかなっていつも思う。


フルバージョンはYouTubeで視聴可能です。
下記より御覧ください。


MUGA 個展「Just a Thin Truth」 @ Miaki Gallery 2023

■ MUGA 個展「Just a Thin Truth」 概要

美術作家のMUGAは、東洋哲学を軸に「人の視点、虚構」をテーマに作品を制作。
2020年に発表した「Just a thin paper」では、写真を用いて、平面芸術に対する人々の認識や虚構へアプローチし、視覚として認識した情報と実際に撮影した物質との認識の違いを利用して、主観の曖昧さや主観からの煩悩までを問いかけています。

本個展「Just a Thin Truth」でも、一枚の写真から創られるそのシェイプが真実という概念を揺り動かし、鑑賞者を虚構へと誘います。

会期:2023年11月11日(土)〜12月9日(土)
開館時間:13:00〜20:00
休廊日:日/月/火曜日 休廊
場所:Miaki Gallery 東京都港区西麻布1-14-16 ベルジュール2F

■ MUGA(日本、愛知県在住のアーティスト)

プロスノーボーダー / ファッションバイヤー / 骨董商としての経歴を持ち、2018年から4年間、⻑者町スクールオブアーツ、Ko Yamadaの元で芸術写真を学ぶ。 現在は3つの会社の代表を務めるとともに、写真を主なミディアムとした現代アーティストとして活動。MUGA のメインテーマは人間が創り出す「虚構」。彼は東洋哲学の道教「無為自然」や自身の名であり、仏教における悟り「無我」を軸に、それらを自身の立場、経験を通して現代的に解釈し、ユーモラスかつフェティッシュに、作品に落とし込みます。 そして彼は作品を通し、人々の認識や固定観念に対しに問いを投じつづけています。
2023年11月11日(土)- 12月9日(土)miaki galleryにて個展開催

■ 山本浩貴(文化研究者、アーティスト)

1986年千葉県生まれ。金沢美術工芸大学 美術工芸学部 美術科 芸術学専攻講師。一橋大学社会学部卒業後、ロンドン芸術大学にて修士号・博士号取得。2013~2018年、ロンドン芸術大学トランスナショナルアート研究センター博士研究員。韓国・光州のアジアカルチャーセンター研究員、香港理工大学ポストドクトラルフェロー、東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科助教を経て、2021年より現職。著書に『現代美術史 欧米、日本、トランスナショナル』(中央公論新社 、2019)、『トランスナショナルなアジアにおけるメディアと文化 発散と収束』(共著、ラトガース大学出版、2020)、『レイシズムを考える』(共著、共和国、2021)など。