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大人の恋は思っていたよりずっと純情だ。

最近はまっている漫画は、丸岡九蔵まるおかくぞう先生の『陋巷酒家うらまちさかば』。近未来が舞台のSF立ち呑み屋漫画なのだ。旧世界(今の我々の文明)が崩壊した大戦後。まだ紛争は続いていて、人工生物兵器も出没する。サイボーグ技術が発展しているから、失った体を機械で補うなんてことは当たり前。そんな時代の地方都市、崩雷繁盛ほうらいはんじょう駅の駅ビル地下7階にその立ち飲み屋はある。

店を切り盛りするのはきっぷのいい女将さん。そして店員の笑美えみちゃん。笑美ちゃんはかつてバイト先で爆弾騒動に巻き込まれ大けがを負い、サイボーグ化して復活したんだそうな。見た目は可愛らしい女の子だけど、やっかいなお客が来たらサッサとつまみ出せる超力持ち。

地下街にあるその立ち飲み屋は、野毛の「ぴおシティ」みたいな雰囲気だ。名物はモツ煮込み。ビールケースを積んで作った机があり、全自動酒燗器もある。肴は300円から400円くらい。やって来るのは常連を気取りたいサラリーマン、向かいの円盤屋(レコード屋)の店主、仲良しでつるんでる土木作業員、旧世界の枝豆を懐かしむ二百歳超えの爺さん……なかなかいい顔ぶれのお客さんたち。いいなあ、行ってみたいなぁ。

カンカン帽がよく似合う古道具屋は、ときどきふらりとやって来る常連客の一人。旧世界の遺跡から発掘したガラクタを売って生計を立てているようだ。街に戻ってくると必ず店に顔を出す彼。それを心待ちにしている女将さん。誰がどう見たって両想いなんだけれど、二人の距離はなかなか縮まらない。くっつきそうでくっつかないから、今後の展開が気になってしまうではないか。

大人の恋って、もっと話が早いものだと思ってた。相手に気があるかどうかなんてすぐにわかってしまう。関係なんて始めてみないとわからない。肉欲が先、気持ちは後。それでいいじゃないか。そんなふうに思っていた。

でも、大人の恋の醍醐味は、純情ウブに戻ったところから始まるものなのかもしれないね。中学生みたいに、相手の挙動に一喜一憂して。やっぱり私のことが好きなんだろうか?いやいや、誰にでも優しいだけに違いない……そうやってどぎまぎする喜び。始まってしまったら終わりが来る。始まりそうで始まらない、片想いは永遠。くっつかないからこそ、大人の恋は楽しい。

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