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【カジュアル書評】言葉に疲れた大人の心にしみるグラフィック・ノベル『アライバル』ショーン・タン(河出書房新社)

(約800字)
2月3日土曜日に開催の、翻訳者と編集者をつなぐオンラインイベントに参加する前に、ゲスト編集者田中優子さん(みにさん・田中優子事務所)が手掛けられた本を図書館で借りて来た。

その中の1冊『アライバル』を紹介してみたい。

ひとことで言うなら、字のない幻想的大判グラフィック・ノベルだ。
セピア色の緻密な鉛筆画のイラストで、ある男の家族との別れ、旅立ち、到着(arrival)地での生活などが描かれていく。

漫画とは異なる静かなコマ割りをベースに、ときにはページに一枚、見開きで一枚の大画面も織り交ぜつつ、ゆっくりと写真のスライドショーのように見せてくれる。時代や国や人物の説明もないので、読者は絵から徐々に読み取っていく。

何となくわかったかなというところで、摩訶不思議な光景や生物が出現(arrival)し、必ずしも現実に縛られない象徴的な世界なのだと気付く。

1974年オーストラリアに生まれた著者ショーン・タンは、マレーシアから渡ってきた父親を含めたあらゆる国や時代の移民の体験談から着想を得て、この本を創った。

主人公が知らない土地で、知らない言葉、乗り物、住宅設備、食べ物、生物などに遭遇するたびに、読者も心細さと可笑しさを一緒に体験する。スマホはなく、わかりづらそうな地図を頼りにたびたび人に道を尋ねている。
わたしはこんな世界に放り込まれたら、うまくやっていけるだろうか。

深く考えるのも自由、緻密な絵画をこころゆくまで見つめるのも自由、なぞの文字や風景を解き明かそうとするのも自由だ。

オーストラリアで出版されたのが2006年、日本では2011年に刊行された。グラフィック・ノベルブームの先駆けとも位置付けられそうなこの不思議な絵本を、今の日本に届けてくださった著者をはじめ、デザイン、編集、出版に尽力された方々にお礼を言いたくなる。

途中であらわれてハッとするスピン(栞)もお楽しみに。


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