Unforgettable

皆さん、こんにちは！💫
星<star>になる可能性を秘めた女の子っ！未星です！

3年…

お久しぶりです。未星です。
書きたい書きたいと思いながら気づけば3年…

え、前回投稿したの3年前！？

そんなことを思いながら文字を綴っています。
3年前、
やったことのない職種
住んだことのない土地
やったことのない他人との生活
と、
人生 ALL RESET！みたいな選択肢を選んでみました。

初めてづくしで本当に色々ぶつかることも多かったです。
右に進めば殴られ、左に進めば殴られ(笑)
いろんな現実や社会、そして自分をぶつかりながらも
退がることなく前に足を出し、走り続けた3年でした。
(ま、今もまだ迷いの最中なんですけど….)

そんな中で、思ったのが

「あ、やっぱり私JAZZ好きだわ。もっとJAZZに触れていきたい」

という自分の思いでした。
なので人生の模索はまだまだ続きますが、
自分のペースでまた表現し続けたいと思います。

ずっと頭に残るもの"忘れられないこと"

今回、Jazz小説を書くにあたって何の曲を書こうかなぁと、
いつも使っているJazzの楽譜集を見ていた時に目に入ったのが、

今回のテーマ【Unforgettable】。

日本語にすると、

忘れられない、いつまでも記憶に残る、（長く）記憶にとどまる

といった意味になります。

皆さんにとって、忘れられないことやもの、人はなんですか？
私は人から記憶力がいいね。と言われることが何回かあって、
日々いろんなことを吸収しては、周りの人より覚えてしまっているようです。
(情報の断捨離を検討しております….)

自分が生きている中で、”忘れられない人”っていますよね。
いい意味でも悪い意味であっても。

何かのきっかけとなる言葉をくれた人や、
自分を形成するイベントをくれた人。

自分が傷つけてしまって謝りたい人や、
何か後悔を持ってしまった人。

すれ違った人を忘れられない人もいますね。
一目惚れとか笑

忘れようと思えば思うほど、忘れられず、
結局他のことをして気を逸らしたり、記憶を上書きしていくことでしか、
”忘れる”という行為はできないんじゃないかと思います。

年と共にいろんな経験を痛みを伴いながら積み重ねていく中で、
徐々に薄らいでいくという表現の方が近いかもしれませんね。
いちいち振り返って干渉に浸るほど、人生長くはないという笑

今回のテーマ[Unforgettable]は、
ナタリー・コールさん　とナットキングコール　さんの
親子のイメージが強い曲ではありますが、
あえて家族ではない”愛”を描いてみました。

あなたにとって"忘れられない作品"となるよう
今後も創作活動していきます！

同小説は、下記pixiv様にも載せております。↓↓

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=22194364　

そちらの方が慣れている方はpixivもよろしくお願いいたします。

Unforgettable 歌詞と和訳（未星的）

Unforgettable, that’s what you are
Unforgettable, tho’ near or far
Like a song  of love that clings to me,
How the thought of you does things to me,
Never before has someone been more,

Unforgettable, in ev’ry way
And for ever more, that’s how you’ll stay.
That’s why, darling. It’s incredible.
That someone  so unforgettable Thinks that
 I am unforgettable too

未星's 解釈

忘れられない、あなたのことよ
忘れられない、近くにいても遠くにいても
まるで頭から離れない愛の歌のようで
あなたのことばかり考えてしまう
こんな人、今までいなかった

忘れられない、どうしたって
それはね、あなた　信じられないほどに素晴らしいことだから
こんなにも忘れられない人が私と同じくらい
私を忘れられないと思っているだなんて…

Unforgettable 小説本編

大学の研究室で2人の男女がガサガサと慌ただしく動いていた。
1人はベストを着た40~50代くらいの男。
スラッとしたかなり整った容姿で、どこかに出かける寸前なのか入り口付近で下を向いてキョロキョロしていた。
もう1人は20代前半くらいの女で、茶髪ボブを揺らしながら上の棚をキョロキョロと見ていた。
「見つかったか？本」男は女に聞いた。
「いやー見つからないよ。先生、ちゃんと掃除してる？本山積みだし、私が来ることわかってたんだから、貸した本見つけといてよ！私就職するからもうそんな大学来れないんだよー？」
「結構綺麗だろうが、俺の研究室！新しい本が最近たくさん出たから今散らかってるだけだよ！」
男は少し声を荒げながらも捜索を続けた。
女は探しながらも沈黙に耐えれなくなったのか、男に背を向けたまま口を開いた。
「ねぇ、先生」
「んー、なんだよ」男は腕時計を見ながら返答した。

「先生ってさ、結婚とか恋愛とか興味ないの？」

「先生、あんま女の気がしないというか。ほら先生、歳の割にスラッとしたイケおじだし、紳士的だし、優しいし、正直年齢問わず選べるんじゃないかなぁと思って…」
男は女の後ろに立った。
女が恐る恐る振り向くと、男は女の頭に自身の手帳をポスっと置いた。
そして口をへの字にしながら
「そんなくだらないこと言ってる暇あったらとっとと用事を済ませろ。俺、もう行くからな。いつも通り鍵閉めて、ポストの中に入れておいて。それじゃ頼んだぞー」
と言って、男はカバンと上着を持って研究室を出た。

女は少し頭を押さえていると、足元に何かが落ちていることに気づいた。
しゃがんでみると、それは古い写真だった。
写真には3人の男女が写っていて、男2人の肩を組むように中央に女が写っていた。写真の裏には2人分のコメントが書かれていた。
「To Koujiro?　というかこの写真昔どっかで見た気が・・・」
女が写真を凝視していると、急に研究室の扉が開いた。
女は咄嗟に写真を自身のカバンに締まった。
「忘れ物した！？まだいたのか！もう！掃除がてら今度探して連絡するから、もう今日は帰りなさい」
男が机の辺りから書類の入ったファイルを取って研究室を出た。
女も続くように研究室を出た。

「うーん、どっかで見たことある気がするんだけど、どこで見たっけ？それにこの写真の人物もなんか見覚えがあるような・・・ないような・・・」
風呂から上がった”三角華”は、リビングで今日研究室から持って帰ってきてしまった写真を見ながら思った。そんな華の様子を見ながらお茶を出した母親は声をかけた。
「どうしたの？そんな難しい顔して」
華は、母親に写真を見せた。
「お母さんこの写真見たことある？なんかどっかで見たことある気がするんだけど」
母親は華から写真を受け取った。
「なんて懐かしい写真を・・!?」
母親が写真を裏返すと、目を見開いた。
そして先ほどとは異なる面持ちになった。
「この写真、どこから？」
華は母親の顔を見ずにお茶をぐびぐびと飲んだ。
「うちのゼミの先生の落とし物。多分手帳に入ってたんだろうけど、たまたま拾っちゃって」
「ゼミの・・・。ねぇ、その先生ってどんな人？」
華は少し悩みながら答えた。
「どんな人？うーん。イケオジ！すっごい物腰優しくて紳士で容姿もすらっとした細身で、学生からも人気だよ。しかも結婚してないし、そういう気配もないから。興味ないのかなぁとか、何かあるのかなぁとか何気に噂が立ちやすい人だね。狙ってる人結構いるし、年齢問わず」

華の言葉を聞いた母親は写真を胸に抱くと、
「そう、未だに独身なのね。華。この写真、少し借りてもいい？それとこの写真のこと、お父さんには内緒にしててね、絶対よ」
そう言って、リビングを出て行った。
「え、ちょっとお母さん！？なんなのもう…」
華が少し困惑していると、後ろの扉から「ただいまー」と男が現れた。
「あれ？なんかあった？こんなとこで突っ立って」
男は優しい笑顔で首を傾けた。
華は先ほどの母親とのやりとりを思い出し、
「あぁーなんでもないよ。おかえりお父さん」と言って笑った。

母親は自室に入り、箪笥の中から１枚の写真を取り出した。その写真は先ほど華が持って帰ってきた写真と似ていて、唯一違うのが裏に書かれた文字だった。母親は目を瞑り、大きく深呼吸をした。
そしてゆっくりと目を開け、「その時か・・・」と呟いた。

時を同じくして華たちがいた研究室では男がキョロキョロと探し物をしていた。
「あれっ、おかしいな。写真がない。あるとするとここなんだけどなぁ」
手帳に挟んでいた写真がどこを見渡しても見当たらなかった。
男は窓近くに置かれた椅子に腰掛けると、天井を見上げ右腕を目の上に置いた。
そして大きく深呼吸をすると少し自傷気味な笑みで言葉を発した。
「・・・もういい加減忘れろってことなのかな。忘れたくても忘れられないのに」
そうして男は遠く淡い過去を思い出し始めた。

俺のゼミは当初20人前後学生が所属していたが、徐々に人がいなくなっていき、いつの間にか男2人と女1人の計3人のゼミの存続ができるギリギリの人数となっていた。
残ったのは俺こと”篠原 孝次朗”と”三角 誠二”というメガネをかけた男。
そして”川藤 芳野”という少しガサツな女だった。
当時から容姿がそこそこ良かった俺は、郊外問わず声をかけられることが多く、そんな環境に辟易し、ゼミ室で勉強をしたり本を読んだりしていることが多かった。
そして、それは誠二もだった。
誠二は見た目からしてよく言えば優しい、はっきり言えば気弱な感じで、人見知りで人混みが苦手。そんな経緯もあってか自然と2人でゼミ室にいることも多かった。
ゼミ生がどんどん減っていた時期でもあったせいか次第に話すようになり、俺はいつしか誠二に対してよく分からない感情を持つようになった。
そんなある夏の日、いつも通りゼミ室で誠二と2人、ゼミ開始までの間勉強をしていた。その日はものすごく暑くて、扇風機を回しても窓を開けても汗がダラダラと止まらないほどだった。俺は、読書をしながら、横でレポート作成をしている誠二をチラッと見た。誠二は俺に見られていることにも気づかず、ひたすらレポートと向き合っていた。誠二の姿勢は背筋がまっすぐのびていて美しく、暑さのせいもあってか首の辺りにじわっと汗ができていた。誠二は持っていたペンを机に置くと、カバンから水筒を取り出しごくごくと飲み出した。その様子を見ていた俺はまるで引き寄せられるかのように誠二に近づいていった。

至近距離になってようやく孝次朗の存在に気づいた誠二は、
孝次朗を見ながら「孝くん？」と言った。
孝次朗は誠二の手の上に自分の手を置くと、そのまま誠二の顔に自分の顔を近づけた。
2人の口がくっつきかけたその時、

「あっっっづい！馬鹿じゃないの？この暑さ！！」
という怒りの声と共に芳野が大きな音を立てて扉が開けた。
その瞬間、2人は勢いよく離れ、俯いた。

(今何してた？俺。誠二に何しようとしてた？？はっ？？)
孝次朗は自身の今の行いに戸惑いを隠せなかった。
芳野は2人を見て「あれ？なんかまずいことした？まいっか！先生、ぱっぱっと始めちゃいましょー！」と言って２人の座席の間に腰を下ろした。

「っはぁ、はぁ」
その日から夢に誠二が出るようになった。
それもとても官能的な姿で。
何度も何度も。
あの時のように少し苦しげな表情で。

そしてある夜、限界に達した俺は”アイツ”でヌいた。

欲望のままに出した解放感、
大切な友人を性処理に使ってしまった罪悪感、
そして心の底から”そういう意味で”の好意と知り、
認めてしまった絶望感。
何もかもがぐちゃぐちゃになってそのままベッドの上で、
苦しさのあまり泣く日々が続いた。

連日の夢、気づいてしまった叶わない恋心で不眠症になった俺を、誠二はひどく心配してくれた。そんな誠二に罪悪感を抱きながら接していたある日、俺は芳野の誠二を見る目が、変わったことに気がついた。これはチャンスだと思った。この不毛な思いを”諦められる”と思った。そして少しずつ芳野と誠二が2人になれる時間を増やしていくようにした。連日の夢の罪悪感で誠二を見れなくなっていたのも事実だった。

そうして時が流れ、ついに3人揃って大学を卒業することになった。
俺は院に、2人は就職という道を選んだ。3人でゼミ室で最後の思い出話に花を咲かせていると、急に芳野が
「そうだ！3人で写真撮ろう！先生呼んでくる！」
と言って部屋を飛び出して行った。
残された俺と誠二は顔を見合わせた。誠二と2人きりになるのは、久しぶりだった。俺は何て声をかけようかと考えていると、誠二は少し困ったように照れくさそうに微笑んだ。
俺が口を開いた瞬間、「先生連れてきたよ！」と大きな声と大きな音を立てて芳野が先生を連れてゼミ室に戻ってきた。
芳野はそのまま先生に自身のチェキを渡すと、誠二と俺の肩に手を回し、
「先生ー！３枚撮って！」と言った。
顔がひっつきそうなくらい誠二と顔が近づいた。その瞬間、フワッと香った香りであの夏の日が思い出させて、少し動揺した。
「おい、芳野！？」
「ほら、私たちは3人でずっと一緒にいたんだから、3人で１つだよ！行くよ！はい、チーズ！」

そうこうしている間に３枚撮影が終了した。
撮影し、現像されたチェキを見ながら、芳野はカバンからペンを取り出た。
そして、
「はい！これ1人１枚あげるから裏にコメント書いてね！」
と言って、それぞれ写真の裏に
”To Koujiro”、”To Seiji”、”To Yoshino”と書いた。
俺は芳野の後に誠二に対するコメントを書いた。
正直、先ほどの衝撃といろいろな思いがありすぎてなんて書いて渡したのか覚えていない。

それから数年後、博士課程の論文制作に明け暮れていたある日、俺の元に誠二と芳野の結婚式の招待状が届いた。
やっぱり自分の思いは成就しないのだという現実と、あるべき形に収まったという安堵で再び感情はぐちゃぐちゃになった。

結婚式の2人は本当に綺麗で、その会場で芳野が誠二の子を身籠もっていることを知った。
参列者からのフラワーシャワーを受け、階段を誠二と降りる芳野を見て
”これが正しい姿。これでまた何者でもない元の3人に戻れる”と思った。
すると、階段を降りる芳野と目があった。
芳野は少し驚いた顔をして、その後すぐに顔を前に戻し、降りていった。

「芳野、さっきフラワーシャワーの時なんかあった？」
会場で新郎新婦の写真撮影がひと段落した後、俺は芳野に声をかけた。
芳野は少し俺から目を逸らすと
「あぁ・・・うん。なんでもないよ。それより、孝ちゃんなんか変わった？なんというか、その、前あった時以上に、こう、色気が増したというか・・・」
「はぁ？何言ってんだ？それに、そんなこと！よりにもよって結婚式で言うなよ！」
「あぁ、ごめんごめん。そうだよね！アハハ」
ものをハキハキ言うことが特徴の芳野が、ここまで歯切れの悪い言い方をするのを見たのは出会ってからこの時が初めてだった。
結婚式が終わり、自宅に帰ると引き出物などを机の上に置き、ソファーに腰掛けた。そして手帳から写真を取り出し、じっと見ると両手でそれを破ろうとした。しかし、震えて力が入らず結局また手帳にしまうことになった。
孝次朗はそのまま天井を見上げ、手を目の上に置くと深くため息をついた。
嬉しいのか、悲しいのか、苦しいのか、楽しいのか、辛いのか、後悔なのか、憎しみか、はたまた喜びなのか。
さまざまな感情が体内を巡り、泣きたいのか笑いたいのかも分からず、孝次朗はそのまま机の上に置いてあったタバコの箱を手に取った。
箱から一本取り出し、口に加えて火をつけた。
そして口から煙を吐き出すと、「・・・苦ぁ」と少し笑って涙を流した。
タバコを灰皿の中で消すと、まるで自暴自棄のように家にある酒を飲み出した。全てを忘れたかった。酔いのせいにして、正しさも苦しさも愛おしさも全て忘れたかった。そうすることでしか、この名もなき体に巡る”何か”を殺すことなんてできなかった。

次の日、孝次朗は初めて大学を休んだ。

写真を失くして数日たったある日、孝次朗が桜が満開に咲く河川敷を歩いていると、向かい側から1人の女が歩いてきて足を止めた。
孝次朗と顔を見合わせた女は、孝次朗に向かって何かを突きつけた。
「この写真、見覚えがありますか？」
女が突きつけてきたのは、孝次朗が失くした写真そのものだった。
孝次朗は驚いて声を出した。
「あっ！それ私のです！でも一体どうしてあなたが・・・。え？」
孝次朗は女の顔に見覚えがあった。女は少し微笑むと、写真をまた自身のコートのポケットに入れた。
「これ、うちの娘が拾ったものなんです、あなたの研究室で」
「あぁ、三角さんの。確かに言われてみれば面影が・・・」
女は孝次朗の目を見た。そして、
「久しぶりだね、孝ちゃん。こんな形で会えるとは思わなかったよ」
“芳野”は言った。芳野の言葉に孝次朗も
「こっちこそ。まさか自分のとこの学生になってくるとは思わなかったよ」と懐かしんだ。
芳野はそのまま話を続けた。
「華から聞いたけど、孝ちゃん。未だに独身なんだよね？」
「・・・」
「それって、まだ誠二くんのこと思ってるってことで当たってる？」
「えっ・・」
2人の間に沈黙と大きな風が吹いた。
芳野は深呼吸して口を開いた。
「ごめんね。ずっと気づいてあげられなくて。でも、もう大丈夫だから。」
「大丈夫って？」
孝次朗が芳野に聞いた瞬間、芳野の後ろの階段から1人の男が勢いよく駆け上がってきた。
「いた！芳野さん！机の上のあれ何？離婚届って、それに指輪！何があったの？それに急にこんなことにいるって・・・ってあれ？」
男は芳野と一緒にいる男性の存在に気づいた。芳野は男の方へ歩いていき、そして
「これ、あちらの人の落とし物なの。手帳に入れてたんだって。あなたが返してあげて。」
写真を男に渡した。
「これって・・・」男は写真を受け取ると、後ろのコメントを見た。
そこには”To Koujiro”という文字と芳野のコメント、
そして数十年前のあの日”自分が書いたコメント”が書かれていた。
芳野はそのまま誠二を強く抱きしめた。そして
「ごめんね、今まで。これで、誠二くんを解放してあげられるから」と誠二の耳元で囁いた。
「え？解放って」誠二がそれを問う前に芳野は誠二から離れ、
「それじゃ、あとは2人で。」
そう言って、誠二が登ってきた階段を降り出した。

残された2人に沈黙が走った。先に切り出したのは誠二だった。
「久しぶりだね、孝くん。今仕事何してるの？」
孝次朗は少し心を落ち着かせて口を開いた。
「今は、大学で教授してるよ。華さんはうちのゼミ生だったみたいで」
「へぇ。華の大学の先生だったんだ。あれからちゃんと夢叶えたんだね。すごいよ、さすがは孝くん。・・・この写真、手帳に入れてるんだってね。相変わらず大切なものは手帳に入れちゃう癖変わってないね、お互い」
「いや、えっと・・・あの・・・」
孝次朗は未だに誠二を見れずにいた。見てしまったら、また元に戻る気がしたからだ。その感情から逃げるために今まで連絡を断ち、忘れるために研究に没頭するようにしたのだから。

孝次朗を直視しながら、誠二は深呼吸をして話を始めた。
「孝くん。覚えてる？あの夏の日のこと」
「あの・・夏の日のこと・・？」
忘れるわけがない、忘れられるわけがなかった記憶。
忘れたくても忘れられなかった出来事だった。

誠二は孝次朗に向かって歩き出した。
「あの日、すごい暑くて蝉の声もうるさくて。汗もダラダラかきながら僕、レポート書いててさ。あんまりにも書けなくて悩んでたらチラッと孝くんが視界に入ってさ。そしたら、涼しげな顔して本を読んでいて、窓も開いてたから髪を少し靡いてて、後ろの樹木とそこからの日差しも相まって、まるで神秘的な絵画のように、孝くんがキラキラ光って見えたんだ。なんかそれ見たら変な気持ちになってきて、それをかき消すために水筒のお茶ぐびぐび飲んだんだ。そしたら、いきなり孝くんが近づいてきて。・・・孝くんの顔が目の前に来た時、[これはするんじゃないかな]て思った。そして”そうなればいいのに”て思った」
「えっ？」孝次朗が初めて誠二を見た。
「結局、芳野さんが入ってきて何事もなかったけど、その後も心臓のバクバクは止まらなくて、この気持ちはなんなんだろうってずっと思っていた。でも、次に会った時孝くん普通だったし、多分暑さでお互いおかしくなったのかなぁてことで一旦は落ち着いたけど、その年の冬。またしてもその感情と向き合うことになったんだ。覚えてる？ゼミ合宿で泊まりで長野に行ったこと」
「お・・覚えているけど、別にあの時は何も・・・」

忘れるわけがない。男子部屋と女子部屋を分けることになって、ずっと避け続けていた誠二と個室で2人で寝ることになった日のことを。緊張して眠れなくて、誠二が寝たことを確認して、寝顔を見て[これは、抱いてはいけない思い、気づかれてはいけない気持ち]と再度心に誓い、誠二の体に触れそうになった自分の手を引っ込めた夜のことを。

「あの日の夜、ふと目が覚めると、孝くんすごいうなされてて。あまりにも辛そうだったから、僕孝くんの手を握ったんだよ」
「え・・・」
「ちょっとマシになるかなぁと思って。もしあまりにも続くようなら起こそうなんて考えてた時にね、孝くんが
『ごめん、忘れるから。忘れるから・・・・俺のことを嫌いにならないで』て言って、涙流しながら僕の名前を呼んだんだよ」
「!?」孝次朗は口に手を当て下を向いた。
自分が隠し通していたはずの気持ちが、誠二に知られていることに驚きを隠せなかった。

「孝くんに対して抱いていた気持ちの名前が分かった。そしてそれと同時に隠し通さなくてはならないことであることも理解した。僕は長男で、世間は異性愛が普通で、僕らは友達で。この感情は決して許されるものではないと自分を押し殺した。それは孝くんも思ってたんだろうね。3人の関係を崩さないために、お互いにお互いのことを守るために、自分を偽り、周りを騙し続けたね。」
「そんな・・・」
誠二は孝次朗の前に立った。
「卒業したら芳野さんから付き合って欲しいと言われた、ちょうどいいと思った。”正しい”距離に、関係になれると思った。だから、そのまま結婚して子供ができた。結婚式は意図的に孝くんを見ないようにした。目を見たら多分、関係が崩れると思った。僕が出した"正しい"答えが、間違っていると僕自身が言ってしまう気がしてならなかった。でも、やっぱり自分を偽るって難しいね」
そして、芳野から渡された写真を孝次朗の前に出した。
「忘れたくても忘れられない人が、自分と同じ気持ちで、しかも未だに自分と同じように写真を大切に持っているなんて・・・。そんなの、忘れることも諦めることもできないじゃん・・・・」
少し震えた誠二の声に孝次朗は顔をあげた。誠二は少し涙ぐんでいて、孝次朗は息を飲んだ。
「写真返すよ。そして教えてよ、あの時の答え。僕はあの日からずっと君が頭の中から離れられなくて、芳野さんと・・・家族と一緒に出かけていても、どんなに景色を見ても「孝くんだったらどう思うのかな？」とか「孝くんにも見せたいな」とか無意識に思ってしまうくらいに、君のことが好きなんだよ、ずっと。あの時から」
孝次朗は誠二の言葉に少し考えると、何を決めたようにぎゅっと目を閉じ、そして、写真を持つ誠二の手を引っ張った。誠二はそのまま孝次朗の胸にぶつかった。
孝次朗はそのまま誠二を抱きしめ、言葉を発した。

「ごめん。好きになって。こんな感情持っちゃいけなかったのに。でもずっと忘れられなくて、研究に専念しても、別の人と付き合ってみても、酒を飲んでもタバコを吸ってみても、何をしても忘れられなくて。でも、どうしようもなく・・・嬉しくて。ごめん、ごめんなさい、好きになって」
孝次朗のずっと押し殺し続けた本音に、誠二は少し微笑むとそのまま孝次朗の背中に手を回した。孝次朗は少しびっくりして、正気に戻り誠二を自分の体から離した。
誠二は少し驚くと、いつものように柔らかい笑みに戻った。
孝次朗は手で鼻を拭った。
「芳野のことどうしよう。なんか・・・離婚届とかどうの聞こえたけど」
「そのことについてはこっちでなんとかするよ。彼女、相変わらず人の意見聞かずに突っ走るから。それより、これからどうする？僕たち、長い長い答え合わせの時間が必要そうだけど」
誠二の少し意地悪そうな笑みに孝次朗は少し笑って、
「そうだな。とりあえず、俺んちきて今までのことを話そうか」
と言って、2人で同じ方向に歩き出した。
2人の背中を押すように風が吹き、桜が門出を祝うかのように高く舞った。

階段を降りた芳野はそのまま停まっていた車の助手席側から乗り込んだ。
「悪いね、親の離婚話に巻き込んで」
運転席でハンドルに手と顔を乗せ、不貞腐れたような顔で華は芳野を見た。
「ほんとだよ、意味分かんない！朝っぱらに「ここの河川敷に行くから、お父さんが行きたがったら連れてきてあげて」って急に言ってきてさ。しかも離婚て！一体なんなの？なんで離婚なんかするの？仲良かったじゃん2人とも」
芳野は座席を少し倒すと、フロントガラス越しに桜を見た。
「誠二さんの家ってさ、元々”長男”って考え方も強い上に、お姉さん国際結婚して旦那さんの国に行っちゃったから、それもあって益々家の圧が強くなってね。とても自分の気持ちを優先することなんでできなかったし、多分分からなかったのよ、自分の本心。自分の気持ちをずっと他者のために抑圧してたから。私ね、子供が欲しかったの。だから大学卒業して、誠二さんに交際申し込んで、付き合って妊娠した。そして結婚式の時、祝いに来てた孝ちゃんの顔を見た瞬間分かったの。孝ちゃんが誠二さんのことを私以上に好きだったこと。私は"誠二さんの子供"が欲しかったんじゃなくて、”子ども”が欲しかったこと。私と孝ちゃんでは、誠二さんに対する”好き”の意味も度合いも違っていたこと。孝ちゃんが自分の気持ちを殺して、諦めと自傷を含んだような祝いの笑みを浮かべて立っているのを見た時に気づいたの。
『私は取り返しのつかないことをしてしまった』って。
私の身勝手なわがままで2人の人生を傷つけてしまったんだなって」
「でも、お父さんは違うかもしれないじゃん！その人じゃなくてお母さんを好きだったかもしれないじゃん！」
芳野は少し笑った。
「お父さんは優しいからね。私のゴリ押しに断れなかったんでしょう。今思えば、無意識だけど気になっていたとは思うよ、孝ちゃんのこと。視線とか、私はガサツで気がつかなかったけどね。なんとなく孝ちゃんを見る目と私を見る目は違ってたのかもしれないなぁて。だから、決めたの。子供が大きくなって手がかからなくなった時、まだ誠二くんが、孝ちゃんがお互いを好きなままなら解放してあげようって。20数年も私に縛られていた誠二くんを孝ちゃんの元に返してあげようって」
「・・・お父さんは私たちのこと好きじゃなかったってこと？離婚て。お兄ちゃんは？」
「葉仁にはもう伝えてある。少し驚いていたけど、あの子も大人だし。親が決めたことは受け止めるって。それと、お父さんはあなた達を愛しているよ。それだけは断言できる。私も、貴方も葉仁も、そして誠二さんを愛してる。それがどんな意味であろうとその事実だけは変わらないよ。さ、家に帰ろう。やることあるし」
「やること？」華は体をハンドルから戻した。
「そ、華も社会人になって家を出るし。みんな、次のステップに行かないとね」
芳野のその言葉に華は少し首を傾げると、車のエンジンをかけ、走り出した。

華はある日、高層マンションの一室を訪れていた。
「紅茶ができたよ」と住人からの一言でスマホをポケットの中にしまって、ソファーに座った。
そして紅茶を一口含み、口を開いた。
「結局離婚届出さなかったんだね。お父さん」
目の前には、孝次朗と誠二が並んで腰掛けていた。

あれから、しばらくして誠二は孝次朗の家で暮らすことになった。
当初、時々顔を出す程度の関係性だったが、芳野がある時海外に行くと言い出し、家に残るのは誠二だけになってしまった。
色々と話し合った結果、家を解約し、各々で生活することとなった。

誠二は華同様紅茶を口に含み、落ち着いた表情で話を始めた。
「離婚するってことは、僕が彼女のわがままで20数年縛られていたことを肯定することであり、それは彼女を罪悪感で一生苦しめることになる。そんなことはさせられないし、する気もない。僕が芳野さんを愛していることは事実だし、君と葉仁、子どもたちに会うことを選んだのも僕自身の意思。だからこれは、彼女のわがままでもないし、ましてや僕の今までの人生をまるで被害者のように扱われるのは侵害だ。大切な思い出として今も、そしてこれからも共にあるよ。これからはそれに加えて、孝くんとの思い出も作っていくよ、なんせ数十年越しに答え合わせもできたしね。本当に恵まれてるよ、僕は。だから、華。芳野さんに伝えといて。

「僕は、これまでもそしてこれからも君を愛してる。だから、君が僕に抱く罪なんて何もないんだよ」って。

芳野さん、孝くんとの仲を考えてか、なぜか最近連絡くれなくて。孝くんも僕も普通にまた3人で会って話したいし、僕らは3人で１つなんだから。自分が大学の時に言い出して僕ら巻き込んだんだから、逃げるのなしだよ。ってね」
誠二が孝次朗の方を向いて話すと、孝次朗は激しくうんうんと頷いた。
「振り回すなら最後まで責任を持って振り回してくれ、俺も芳野のこと好きだし。あいつがいたから今があるし」

「へぇ、じゃぁ今度会ったら伝えておくね、『お母さんに』」
空港の搭乗口付近のソファーで1人の女がスマートフォンを耳に当てて、静かに涙を流していた。そしてスマートフォンの通話ボタンを切り、カバンにしまった。そして入れ替わりに１枚の写真を取り出し、裏返した。

ーーー　Unforgettable

“To Yoshino

ありがとう芳野さん！僕たちは3人で１つだから。　誠二
またいつか3人揃って会おう。俺たちは3人で１つだから　孝次朗”

写真をカバンにしまうと、女は席を立ちキャリーケースを引き歩いて行った。

表紙：https://pixabay.com/ja/photos/%E5%86%99%E7%9C%9F-%E6%89%8B-%E6%89%80%E6%9C%89-%E5%B9%B4-%E5%8F%A4%E3%81%84%E5%86%99%E7%9C%9F-256887/ 様

内部画像：https://pixabay.com/ja/photos/%E7%94%B7-%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%B3%E3%82%B0-%E5%B1%B1-%E5%B2%A9%E5%B1%A4-731900/　様