センバツという舞台がさらに彼らを強くしていく
球春の訪れとともにキャンプやオープン戦、そして侍ジャパンと少しずつ野球にふれる日々が増えていて嬉しくもあり、目の前にせまったシーズン開幕が待ち遠しくもある。
そんな日々を過ごす中、この季節にもうひとつ待ち遠しいもの。それは春のセンバツ高校野球だ。
母の影響で野球が好きになったきっかけでもある高校野球。世間では、夏より春の甲子園は少し印象が強くないかもしれないが、野球を観る気候としては個人的に好きだ。いや、夏が暑すぎるのか。
それだけではなく、その先にある引退がかかった夏の大会、そして日本一に向けて、わくわくする気持ちがつまった大会でもあると思う。
センバツ大会でもいろんな試合を観てきたけど、そして試合内容はだいたい忘れているんだけれど、そんな中でもわたしにとってずっと忘れられない試合がある。
2006年に行われた早稲田実業と関西(カンゼイ)の試合だ。
斉藤佑樹投手がハンカチ王子として世間から注目を浴びるちょっと前。
わたしは地元岡山代表の関西(カンゼイ)高校を応援するためにテレビで観戦していた。
そのころの関西高校は、数年にわたり春夏連続で甲子園に出場していた強豪校だった。地元でも唯一の男子校(私立)で、関西のスクールバッグを持っていることが女子高生のちょっとしたステータスだったような気がする(残念ながらわたしは持っていない)。
そして野球部で一番の注目はピッチャーのダース(元日ハム)。そして安井キャプテンに、現ヤクルトの上田、ピッチャー中村くんなどが当時在籍していた。
3月29日、家に帰ってテレビをつけると中盤から終盤にかかっていたと思う。そしてそのときの関西は劣勢に立たされていた。先制点を取ったもののすぐに逆転され、追いついたとおもえばつきはなされ、点をいれても追いつかず、みたいな試合をしていた。9回にも早稲田実業にまたもや点をいれられ、さすがに最終回で3点差は厳しいだろうと思いきや、ノーアウト満塁、4番安井キャプテンの走者一掃の三塁打で見事同点に追いつく。
ただそのままサヨナラ勝ちとはいかず、結局延長15回引き分け再試合となった。
当時のわたしは、なんかすごい試合を観たぞという気持ちでいっぱいだった。
翌日の再試合。早稲田実業が7回表までリードしていたが、7回8回裏と関西が逆転し、残るは9回表。差は1点。正直わたしは心の中で「勝てる」と思っていた。けれども、これが、高校野球のおもしろいところでもあり、こわいところでもある。
1アウト一塁、まだヒットのなかった早稲田実業5番打者が打った打球がライト前へ。まあまだなんとか点が入らないとホッとしていたところ、ライトが後逸。そして同点のランナーと打ったランナーもホームへ帰ってきて逆転されてしまう。
ライトの彼のあの涙を観たわたしは涙腺が崩壊しかかる。いや、まだだ、まだ9回裏が残ってるやん。昨日だってあの3点差を追いついたんだから、この1点差だって絶対に大丈夫。
すると2アウト一、二塁から、現在は東京ヤクルトスワローズに在籍している3番上田が俊足を生かし、当たり損ないを内野安打にするという、すばらしい仕事をする。
そして4番、安井キャプテン。なんだこれ、アウトカウントは違えど、昨日とほぼ同じ状況じゃが(岡山弁)。
え!絶対逆転できる!!わたしはすでに泣いていた。しかし、野球の神様は気まぐれなのかいるのかいないのかなんなのか、キャッチャーへのファールフライで試合終了。早稲田実業が見事、文字どおり死闘を制した試合だった。
先ほど「野球の神様はいるのかいないのか」と書いたが、試合終了直後、神様はいるんだと思わされた出来事が起こった。それは試合終了と同時に、この時期では考えられない雪が降り始めたのだ。あの甲子園に鳴り響くサイレンと粉雪。そして関西の選手たちの涙。
その場面が映し出された中継を観ながら、わたしも涙が止まらなかった。野球を観てあんなに泣いたのはこれが初めてだと思う。それぐらい泣いた。
センバツは負けてしまったけど、これで終わりではない。夏の甲子園という大舞台がある。それでも関西の選手は号泣していた。
もちろんセンバツも大事な大会で、優勝という目標に向かって頑張った結果、夢破れたがゆえの涙だ。あれだけ選手たちが涙するというのは、本気で試合をした証拠だと思う。
毎年なにかで「今年も春の選抜高校野球が始まります」という言葉にふれると、この延長再試合の記憶とそのときの感情が蘇ってくる。わたしの中ではこの試合だが、別の人は違う試合の記憶が蘇ってくるかもしれない。人それぞれ「自分の中の名試合」はある。
だからこそ今年の、そして平成最後のセンバツで繰り広げられる試合も、当然誰かにとっての忘れられない試合になるだろう。そのどれもがかけがえののない大切な青春の1ページであり、未来永劫だれかに語り継がれる試合になっていく。
その時までもうすぐだ。