こんにちは、昨年末に講談社を退職し、現在はStudio ZOONでWebtoonの編集やっているムラマツです。
さて、今回は今話題のChatGPTのお話です。
ChatGPTのリリース以来、いや、それ以前のAIの驚異的な発展を目にする日々の中で
「将来、あらゆる作品がAIによって無限に自動生成されてコンテンツ業界や作家業や編集業自体が成り立たなくなるんじゃ…」
という不安を抱いている方も多いんじゃないでしょうか。
かく言う僕もその一人なわけですが、まず現状はどんなもんかを知ることが大事だな思い、ChatGPTとWebtoon新連載企画の打ち合わせを1時間してみることにしました。
今回はその打ち合わせの内容と、打ち合わせを通じて気づいたことについて書いていきたいと思います。
起点をどこにするか?
普段の新連載企画の打ち合わせの進め方ですが、まずは作家さんの話を聞きながら「なるほど、こういうことがしたい方なのか」とか「ここに執着があってこういうことが得意だったり苦手だったりするのだな」ということを掴んでいきます。同時に「この作家さんのやりたいことや得意なことで、自分の知ってるどの読者像がどういう喜び方をしてくれそうか」をぼんやり考えます。
この読者像ですが、「どこかにいる誰か」ではなくて、僕の場合は自分の知ってる人や自分自身だったりします。例えば、働く20代女性に向けた作品だったら、周囲の働く20代女性がどう喜ぶか、もしくは(40代男性である)僕の中にいる20代女性がどう喜ぶかに注目します。
まあ、そんな感じで、普段は作者のやりたいことを起点にそれを誰がどう喜んでくれそうか、そのクロスポイントを探っていくように考えていくわけですが、当たり前のことながらChatGPTにはやりたいことがありません。なので、「誰がどう喜ぶか」を起点として始めることにしました↓
というわけで、ちょっと売れ筋っぽい要素も入れた、マーケ志向のリクエストを入れてみました。さあ、金の雨を降らせてくれよ、ChatGPT…
第1稿
うーん、普通。
可もなく不可もなくと言いたいところだけど、リュウが何の説明もなく「誰も見たことのない強さ」だし、どんな強さかもわからないし、レイラとどんなやりとりがあってどんな関係性なのかわからないし、「謎の組織」とかも何の説明もないし…具体性が乏しく、どちらかといえば不可。
あと主人公の名前がリュウで、タイトルがドラゴンブレイドで、ドラゴンクリスタルって…この竜尽くしはなんかダサいような…。
とはいえ。最後までストーリーを描き切っているようだし、それを500文字で収めるとなると具体性も乏しくなるか、ということで新連載1話目くらいの分量のストーリーをより詳細に書いてもらおうと思い、以下のリクエストを入れました。
「世界観の提示〜」云々のくだりはマンガの新連載1話目の構成を僕なりに要約したものになります。構成案を提示すれば、もう少し新連載企画感も出るのではないかと思ったのですが…
第2稿
うーん、なんか今ひとつ伝わってなかったみたい。同じストーリーに見出しをつけただけ、みたいになってしまった。
ひとまずはキャラクターに具体性が欲しいので、主人公のことを掘り下げてみるか…。
第3稿
リュウの運命を変えてくれるはずの重要キャラ・女戦士レイラがスッとフェイドアウトしてしまいました。ただ「幼少期に両親を失い、孤独な生活を送っており、常に弱さを感じている」というのは、なるほど感情移入しやすくなりました。
が、圧倒的強さを手に入れられた理由が「鍛えていたから」って、お前は『仮面ライダー響鬼』か!と思ったので、ちょっとツッコんでみました。
第4稿
ここに来て「ドラゴンハーフ」という新概念が! 強さの理由に遺伝的な要素をとりれいたのは、なるほど、少年マンガの王道的な設定ではある。ちょっと褒めつつ、もうちょっとツッコミます。
普段の打ち合わせ通り、いいところは誉めたんですけど、AIにこういうのっているんですかね?こちらが何をいいと思っているかはデータとして与えた方がいいのかな?とは思うのですが。識者の方、もし読んでいたら教えてください。
第5稿
この世界でドラゴンハーフとして生きるとはどういうことか、がほんのり伝わってくるような設定になってきましたね。何の理由もなく圧倒的に強かったり、ただ鍛えていた頃と比べて、主人公のリュウに少し後ろ暗さが出てきました。リュウの過去にちょっと独自性が出てきたので、今のざっくりとしたあらすじでなく、具体的なエピソードが欲しいですね。お願いしてみました。
第6稿
孤独な少年時代に公園で倒れるも助けてくれない周囲の子供…そこに現れる謎の男性。ちょっと手触りが出てきました。なんとなく夕暮れの寂しい公園の光景が浮かんできますし、「男性」が自ら同じドラゴンハーフであると明かすところはちょっと泣かせます。
しかし、「男性」は何者なのか、なんでそんなことを教えてくれるのか、具体性がなくご都合主義な感じがあります。ここは重要な場面なので具体的なセリフのやりとりを書いてもらいましょう。
第7稿
うーん、なんというか、形にはなっているけどディテールがない…。必要最低限の会話というか。「男性」は「男性」なりの気持ちがあるのかもしれないが、急に来て重要なことを教えてくれた都合のいいキャラ感は否めない。キャラクターが生きていないプロットを読んでいるような感覚…。
ここまで来て、ChatGPTはアイデアを出しまくるが、こだわりがないのでリクエストすればするほどドンドン横滑りしていく、ということがわかってきました。一人一人のキャラクターや場面についてこれ以上ディテールを追うと、無限に横滑りして全体の制御ができなさそうだと思い、いったんここまでのエピソードを加えて全体を描き直してもらいました。
第8稿
なるほど。前半部分がリュウの内面の変化だけで話が動いてないですね。主人公の内面と出来事が連動するようなストーリーに描き直してもらいましょう。
第9稿
あれ、重要キャラだった「男性」が消えた…? まあちょっと気になるけど、このタイミングで「ドラゴン尽くしでなんとなくダサい問題」を先に払拭しておきます。
第10稿
ドラゴンハーフが鳥類とのハーフに!そうきたか!
余波でドラゴンクリスタルが消えちゃったけど、まあいっか…。
それよりも僕は一番面白くなりそうだった「男性」との場面が消えたことが気になるので、この新設定で書き直した「男性」パートを加えるようリクエスト。
第11稿
さて、この辺りまでで40分ほどが経過したのですが……
いい加減「結局、お前は何がしたいねん!」という気持ちになってきました。確かに言われた通りに修正するけど、ここは譲れないという部分が(当然ながら)ない。ここまでのやりとりで僕がChatGPTに抱いた印象は「芯のないアイデアマン」です。
翻って。
普段の作家さんとの打ち合わせでは何を足がかりとしていたのか、ということに思いが至りました。「こうした方がいいんじゃ」「ああした方がいいんじゃ」と色んな意見が飛び交う打ち合わせで「この作品はこういうことがやりたい」とか「このキャラクターはそういうやつではない」という作家さんの信念・価値観・性癖・生き様のようなものが、いつも最終的な決め手になっていた。そして、それこそが作品全体を貫くテーマや雰囲気になっていて、魅力になっていた。
前の修正で僕が「ChatGPTとこれ以上ディテールを詰めると全体が崩れる可能性がある」と思ったのは、ChatGPTには作品全体を貫く信念等が期待できないからでした(当たり前ですが)。
「神は細部に宿る」と言いますが、このような理由で「全体の良さが細部にも生きている」という状態をChatGPTに作らせるのは難しいように感じました。こいつは、ウケると思えば野球マンガの途中にダンクシーンを入れてきかねない…。
が、まだ時間も残っているので、もうひと粘りしてみました。信念がないのなら、こっちで指定してみてはどうだろう?
というわけで、以上のプロットから無理矢理テーマを読み取って、指定してみました。
さあ、芯のある物語を見せてくれよ…。
第12稿
めっちゃテーマをセリフで説明するやん…。しかも、僕が打った文章そのままやん…。もうちょっとこう、セリフで直接的に話すんじゃなくて、作品全体とかキャラクターの行動を通して伝えてくれよ!と思ったのですが、まあこの辺が限界なのかもしれません。
じゃあ、せめてもうちょっと具体的に書いてもらいましょう。
第13稿
ここで「男性」の正体が「狼とのハーフ」であることが判明しました。なるほど、これはちょっと面白い。鳥以外にも人間と色んな動物とのハーフが存在している世界で、彼らは差別的な扱いを受けているという世界観が見えてきました。これは主人公・リュウの抱える弱さや痛みとも関連してくるので、お話として少し深みが出てきました。
しかし、結局のところ、キャラクターが見えないんだよな〜、という感覚は払拭できません。プロットや世界観は理解できるが、魅力的なキャラクターが出てこない…というより魅力を感じられるレベルの具体性が備わっていません。
そろそろ打ち合わせ時間も終わりに差し掛かってきました。最後にキャラに具体性がないことを突いて完成としましょう。
完成稿
はい、ひとまず完成です。リュウもアルバートもバロンも…言葉を選ばずに言うと薄っぺらいですね。内容も説教くさいです。「説教くさい」とは、とどのつまり、キャラクターの魅力より作者の主張の方が勝っている状態なんだなー、と。
ちなみに知り合いに何も言わずにこの完成稿を見せたら「何この腹立つ文章」と口さがない感想を申しておりました。
打ち合わせを通して見えたこと
現時点ではどれだけ打ち合わせを重ねても、そのまま使えるような作品は生み出せなさそうだと思いました。まあ、僕の指示がマズい可能性もあるんですが、それを含めても多分無理だな、と。
理由としてはやはり「譲れない部分がないこと」。そうなると、キャラクターを魅力的に描いたり、テーマに一貫性を持たせることが難しいですね。
そして全体を描かせると具体性がなく、具体性を詰めようとするとディテールに合わせて全体が変わり無限に横滑りしていく…という問題もあります。
じゃあ、創作にChatGPTは使えないのか、というと現時点でも使えると思います。フラッシュアイデアを出しまくれるので、何を描くかぼんやり考えている時や展開に詰まった時などにアイデアを無限に出してもらう…そんな壁打ち相手として創作のヒントを得ることはできるでしょう。
あとは、構成を練る時にも使いようがあるかもしれません。例えば、まだ流れがつながっていないアイデアメモを適切な順番に並び替えてもらうとか。先ほどChatGPTを「芯のないアイデアマン」と評しましたが、「『ハリウッド脚本術』みたいな本を読みまくった、特に書きたいことのないやつ」でもあるので、構成力はありそうに思います。
何にせよ、AIと人間の創作を隔てるものは「こだわり」である、という結論は面白いな、と。創作においてのAI化は、まずは人間の「こだわり」が起点となり、その「こだわり」を形にしていく過程をAIが担い、最終的に人間が「こだわり」をもってチェックする、という形で進んでいくだろうな、と思いました。
AIが「こだわり」を持つ日は来るのか?
じゃあ、AIが「こだわり」を持った作品を作れる日は来るのか、というと来るだろうと思います。
もっと学習が進んだり、もっとコンテンツ作りに特化したAIが登場したり、もっと指示の仕方が磨かれていったら……小説でもマンガでも映像でもゲームでも、まるで生きた人間が自分の信念やこだわりを発揮して創作したような作品群をAIが生成する未来、というのは思ったより早く来るんじゃないかと。
たとえそうなったとしても、その作品群と自分の作品を隔てるものも、やはり「自分独自のこだわり」しかないわけで、自分の信じる作品にとことんこだわっていけばいいのかな、と思います。
というわけで、みなさん。もうこうなったら、やりたいことを全力でやっていきましょう。僕も現時点でやりたいことしかやってないですが、これからもやりたいことを全力でやっていきます。
ではでは、引き続きよろしくお願いします。