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[カレリア民話] 小鳥たちの予言(LINTUSIEN ENNUŠŠUŠ)

小鳥たちの予言

 むかし、じいさんとばあさんがいました。じいさんとばあさんには息子がいました。息子は小学生になるまで、いつでも一番賢い子でした。学校に通うことになりました。彼はあっという間に学び、習得しました。ところが彼は先生にこう言いました。
―父さんと母さんには、僕の出来は悪くて、読み書きもよく出来るようにはならないと言って下さい。
 そうして、母親にそう伝えられました。彼女はがっかりして、仕立屋のもとに学びに出そうとじいさんに言いました。息子は仕立屋のもとに出されました。彼はここでもすぐに習得すると、師匠に言いました。
―母さんには、僕は何も習得せず、仕立屋にはなれないと言って下さい。
 そうして、母親にはそう伝えられました。彼女はふたたびがっかりしました。(じいさんに)言いました。
―あの子を靴職人のもとに学びに出そう。
 そうして靴職人のもとに出され、息子はここでも良く学びました。しかし息子は、自分を追い出し、母親には彼が何も習得しなかったと言うよう、マスターに頼みました。ふたたび母親にそう伝えられ、彼女はがっかりしたばかりか、怒ってじいさんに言いました。
―あんな息子は殺してしまおう、あんな役立たず、もうどこにも学ばせにいかせられやしないよ。
じいさんは言いました。
―自分の息子を殺すなんて、わしには出来んよ。
―それならどこかに、森にでも連れてっておしまいよ。
ばあさんは言いました。

 じいさんは白樺袋に弁当をつめると、息子に言いました。
―木を伐りに行こう。
そうして出発しました。じいさんは、彼が戻ってこれないほど遠い森へ連れていきました。火をおこすと、息子に言いました。
―息子よ、お前はここにいるんだ。わしは森で木を探してくるよ。
そうして息子は残り、父は家へと帰りました。
 少年はずいぶん長い間森に留まり、そこで鳥の言葉を覚えました。お弁当も尽き、衣服もボロボロに破れました。彼が人を見かけることはまったくありませんでした。
 あるとき、犬が吠える声が聞こえました。犬の吠えているところまで行くと、猟師に保護されました。そうして猟師と一緒に家へと帰りました。母親は激しく怒りました。

 ある日、息子は窓辺で鳥たちが話しているのを聞き、笑いました。母親は息子が笑っているのを見ると、尋ねました。
―この役立たずはこんなところで、いったい何をニヤニヤしてるんだかね。
息子は言いました。
―鳥たちがこんな風に話しているもんだから、笑ったんだよ。息子は死ぬように森に追いやられたけど死ななかった、この家のおかみさんはいつかカシパイッカ(※)を手に、息子にひざまずくだろうよってね。
―あたしがお前にひざまずくだって!そんなことを言うなんて、今日こそは殺してやる!
そうしてじいさんに言いました。
―今すぐにこの息子を殺しとくれ、あんなことを言うなんて。
父親は言いました。
―恐ろしい、自分の息子を殺すだなんて。樽につめて、海においやればいいだろう。

 樽がこさえられ、息子は海へと追いやられました。樽はしばらくの間漂い、海(に浮かぶ)島に行きつきました。息子は樽を壊すと、海島へ上がりました。島を歩いていると、船が航行しているのが見えました。彼はボロボロの服を脱ぐと枝の先にとめ、(船から)見えるように、連れ出してもらえるようにそれを振りました。船が岸辺にやって来て、彼は船へと迎えられました。(それから)尋ねられました。
―お前は何ができるかね、我らはとても必要としているんだが、衣服を仕立てることはできるかね?
そうして少年は衣服を仕立て、その後に靴を作り、船の会計士の席におさまりました。しばらくして、彼は船の船長に任命されました。船のオーナーである商人はこんなように褒めたたえ、自慢しました。
―うちの船には、どんなことだろうと何でも出来て、おまけに鳥の言葉も知っている、そんなような少年がいるんだぞ。
 
(すると)皇帝が、少年を皇居に連れてくるよう命じました。彼は皇帝のもとに連れてこられました。(そこでも)少年は靴を作り、衣服を仕立て、あらゆる仕事をこなしました。
 皇帝は少年をとても気に入り、彼にこう言いました。
―お前にワシの娘をやろう。ワシには自分の息子がいるから、お前を皇帝の座にすえることは出来んからな。
娘と少年は、すでにそうなることを望んでいました。結婚式が執り行われ、暮らし始めました。

 ある日、彼は妻に言いました。
―良い機会だから、村々やほかの町を視察しに出かけよう。
そうして視察に出発しました。まるで皇帝一家が出かけるときのように、兵隊たちが護衛につきました。出身の村に、そして生家に行きかかりました。母親は驚きたじろぎました。少年は尋ねました。
―お家で一晩過ごさせてもらえまいか?
母親は困惑して言いました。
―ええ、可能ですけれども、ただ、うちにはあなた様方をお泊めするような部屋がございません、裕福な家の方がよろしいんじゃないでしょうかね。
少年は言いました。
―いや、この家に留まろう。
母親は寝室を掃除し、一行はそこに泊まりました。

 翌朝、(母親は)食事や飲み物を用意し、(洗顔用の)洗い水を皇家一行に運びました。少年にカシパイッカを渡し、ひざまずきました。
少年は言いました。
―ほら母さん、僕が鳥たちの会話を話したら、僕を樽につめただろう。今、ほらその鳥たちの予言が本当になったよ。
―お前があの子なのかい、息子なのかい?
母親は泣き始めましたとさ。
そんなような長さのお話だよ。

※)美しい伝統刺繍がほどこされた長い手ぬぐい

単語

ennušuš [名] 予言, 予見, 予想
kirjamies [名] 学識者, 読み書きの能力が高い人
kraatari [名] 仕立屋, テーラー
šiäntyö [動] 怒る
turakka [名] 愚か者, 間抜け, 鈍感
vejättyö [動] 運ぶ, 連れて行く, 輸送する
meččämies [名] 狩人, ハンター, 猟師
olla vihoissa 敵意をもつ, 反目する
muhahtoa [動] 微笑む, 笑う, 嗤う
irvistyä [動] ニヤニヤする
kumartua [動] ひれ伏す, 屈む, 深々とお辞儀する
počka [名] 樽
repaleh [名] 切れ端, ボロ
vapa [名] 竿, 枝
huiskuttua [動] 振る
kraataroija [動] 衣服を仕立てる
šuutaroija [動] 靴を作る
kirjanpitäjä [名] 会計士
piälikkö [名] 指導者, リーダー, 長
kupča [名] 商人
löyhkyä [動] 褒める, 称賛する, 自慢する
saltatta [名] 兵隊, 兵
vahtie [動] 守る, 護衛する
korniča [名] 寝室
šen tähen ~の理由で, ~のために

出典

M. Remsu: Karjalais-Suomalaisia Kansansatuja, Petrozavodsk 1945
採取地:カレヴァラ地区
採取年:-
AT(後ほど更新)

父からの遺産(PERINTÖ)』と同じく、マリア・オントロの娘・レムス(Maria Ontron tytär Remsu; 1861-1942)によるお話で、『カレリア・フィンランドの民話集(Karjalais-Suomalaisia Kansansatuja)』からの1話です。

日本語出版物

割と日本語に訳された世界の民話でも見かけます。ロシア民話の本のどこかに載っていたような…後ほど確認します。

つぶやき

少年が能力を親に隠していたのには何か訳があったのでしょうか。もっと勉強するためですかね。役に立たない息子は捨てて(殺して)しまえ、というのは物語では良くありますが…実の子に対して愛情はないのでしょうか。最後の母の涙は果たして再会を喜んでいるのか、自分の罪を悔いているのか、はたまた…?

目標まで残り12話!

>> KARJALAN RAHVAHAN SUARNAT(カレリア民話)- もくじ

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