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[カレリア民話] 貧しい弟と金持ちの兄(KÖYHÄ VELLI TA POHATTA VELLI)

貧しい弟と金持ちの兄

昔、貧しい弟と金持ちの兄がいました。彼らはそれぞれ自分の畑にライ麦の種をまきました。どちらの畑も、同じ柵に囲まれた土地の中にありました。ある凍えるような秋の夜、貧しい弟の畑に霜がおり(ライ麦に被害を与えてしまい)ました。(貧しい弟の家族には、)口にするものが何もなくなってしまいました。いっぽう、金持ちの兄の畑には、霜(の被害)はいっさいありませんでした。貧しい弟は畑から戻ると、妻に言いました。
―せめて粉をひくために穂を集めるんだ。
(ふたたび)畑から戻り、妻に言いました。
―霜害にあってしまって、今やどうやって暮らしていけばいいんだ?
貧しい弟の妻は、夫に言いました。
―パッカネン(※1)のところへ行って、畑をだめにした代わりに食べ物をくれるよう言ってくるんだよ。

夫は夜中に支度を整えると、パッカネンを探しに出かけました。森へ行くと、小さな細道に沿って進んでいきました。森には小さな小屋がありました。小屋の中へと入ると、そこにはとても小さな太った婆さんが、床の上を歩きまわっています。
―旦那さん、いったいどこから来たんだい?何の用でここへやって来たんだい?
―女将さん、パッカネンがどこにいるか知っていますか?
婆さんは言いました。
―知っているさ、うちの旦那がパッカネンだよ。ここはパッカネンの家さ。
―(パッカネンが)私の畑に霜をおろしていったんです、すぐ横にある金持ちの兄の畑には何もしなかったというのに。うちには子どもがたくさんいますが、今じゃ何も食べるものがありません。食べ物を恵んでほしくて来たんですよよ、せめてライ穂だけでももらえないでしょうかね?
婆さんは言いました。
―夜に旦那が帰ってきたら、あたしが叱りつけてやるよ。貧しい人の畑をダメにして、金持ちの人の方には触れないなんてね。

パッカネンの妻は貧しい弟に食事を与えると、ペチカで横になるよう言いました。貧しい弟は満足しました。
ツララのような(に貧弱で)ぼろぼろの爺さんが帰ってきました。パッカネンです。妻はパッカネン爺に言いました。
―お客さんだよ。貧しい弟(の畑)に霜をおろすなんて、お前さんは何てことをしてるんだい。
パッカネンは言いました。
―どれが金持ちの(畑)で、どれが貧しい者の(畑)かなんて、どうやって分かるというんだね?そりゃあ、もし分かっていたなら、金持ちの畑に霜をおろしただろうさ。とはいえ、貧しい者に何か良い物を与えんとな。
そうして、妻に言いました。
―納屋から、そこにある物の中でいちばん古くてみすぼらしい樹皮カバンを取ってくるんだ。畑をダメにしてしまった代わりに、それを与えよう。
妻はカバンを取ってくると、貧しい弟へ言いました。
―さあ(ペチカから)下りといで。このカバンをお持ち、この中に、収穫に代わるお前さんへの報酬があるよ。

弟はどっこいしょ、と下りてきました。背中にカバンを背負うと、家へと向かっていきました。貧しい弟は考えました。
―いったいこれ(カバン)でどうしろっていうんだ?これじゃ、暖炉の火を1度おこすくらいしかできないじゃないか。
カバンを手に取ると、放り投げました。すると、カバンからたくさんの、たくさんの食べ物が出てくるじゃありませんか!弟は(出てきたもの)すべてを集めると、カバンをしっかりと掴み、家へ帰っていきました。子どもたちが走って出むかえました。
―何か助けになるようなもの、もらえた?
―この、みすぼらしいカバンをもらってきたよ。
妻は言いました。
―このバカ、何だってそんな壊れたカバンをもらってきたのさ、それじゃたった1回火を起こすくらいしかできないじゃないか。
弟は言いました。
―そう心配するなよ。
そうしてカバンを開けると、テーブルの上でカバンを振りました。中から、鳥のミルク(美酒;※2)以外のものが落ちてきました。妻は驚きました。
―いったいこれは、どこから出てきたんだい?

それから、彼らは食事をとりました。長いこと空腹を抱えていたので、何日にもわたって食べました。そうして(元気になって)子どもたちは庭へと走り出ると、金持ちの兄のところへ行きました。兄は尋ねました。
―しばらくの間見かけなかったが、お前たちはどこにいたんだ?それにそんなに元気になって。どんな食べ物を手に入れたっていうんだ?
子どもたちは言いました。
―ああ、おじさん、パッカネンが僕らの畑を霜でダメにしたんだ。父さんが助けを求めてパッカネンのところに行ってきたら、どんな食べ物でも出してくれる樹皮カバンをくれたんだよ。
金持ちの兄は言いました。
―待て、ワシが貧しい弟のところへ行って、そのカバンを買おうじゃないか。あの貧乏人に何ができるっていうんだ。

金持ちの兄は貧しい弟のところへ行きました。貧しい弟はカバンから食べ物やワインなど、ほしい物を何でも振り出しました。彼らはワインを飲みました。貧しい弟は何も理解できなくなるほど、酔っぱらってしまいました。(いっぽう)飲まずにいた金持ちの兄は言いました。
―弟よ、どうだい、このカバンを売ってくれないかね?ほら300ルーブルだ。
そしてお金を(弟の)手に渡しました。

こうして貧しい弟はカバンを売ってしまいました。妻は嘆きました。
―この300ルーブルで、いったいいつまで食べていけるっていうんだい?
そのお金(で買った物)は、すぐに食べつきてしまいました。ふたたび貧しくなると、妻は言いました。
―もう一度行って来なさいよ。パッカネンからカバンをもらってこないと、私たちは飢えで死んじまうよ。
貧しい弟はパッカネンのところに出向き、言いました。
―あのカバンを売ってしまってね、別のものを頂けませんかね?飢えで死にそうなんですよ。
パッカネンは言いました。
―お前はなんて愚かなんだ、売っただって?
そうして妻に言いました。
―(納屋へ)行って、新しくて立派なカバンを取ってくるんだ。それをコイツに与えてやりな。
妻がカバンを持ってきました。パッカネンは言いました。
―さあ、このカバンを持っていくんだな。さらに良い食べ物を得られるだろうよ。

貧しい弟は、さらに良い食べ物を与えてくれる、こんなにも上等なカバンを手に入れて満足げに立ち去りました。家に帰るとカバンをドシンと机の上に置き、言いました。
―さあ、食べようじゃないか!

ところが、カバンからは2人の男が飛び出してきて、棒で主人を叩きはじめました。
「ほらここに、カバンの持ち主がいるぞ!」
貧しい弟はからくも男たちをカバンに押しこむと、カバンをしっかりと閉じました。そして子どもたちに言いました。
―おじさんのところへ行って、さらに良い上等なカバンを手に入れたって言ってくるんだ。
金持ちの兄は、「そのカバンも買いに行こう。アイツはカバンなしで、食べ物もない状態がお似合いだ」と考えました。
金持ちの兄は、貧しい弟のところへやって来て言いました。
―弟よ、どうだい、あの新しいカバンを売ってくれないかね?
―いいや、売らないでおこう。けれど兄さんは裕福だから、この上等なカバンを持っていきなよ。僕にはボロボロのやつで十分さ。お互いの(カバン)を交換しようじゃないか。

金持ちの兄は新しいカバンを手に入れ、貧しい弟へ以前のカバンを持ってきました。新しいカバンを家に持ち帰ると、妻へ言いました。
―あらゆる人をご馳走に招待しなさい。前のカバンが出したのとは違う、(もっと良い)食べ物がこの中にはあるんだ。
妻は村の身分の高い人々や、裕福な人を招き、皆がゲストとしてやって来ました。人々は食卓につくよう言われ、最高の料理を待っています。
金持ちの兄がカバンを振りました。すると中から鉄の棒を持った2人の男が飛び出して、まず主人を、それからゲストみんなを殴りはじめました。ある人は窓から飛び出し、ある人は入口から逃げていきました。金持ちの兄は、貧しい弟のところへ行きました。
―カバンを交換しようじゃないか。
―いいや、結構だよ、兄さん!

その後は決して古いカバンを金持ちの兄に渡すことはありませんでした。そうして彼らは暮らしていきましたとさ。これで物語は終わりです。

※1)パッカネン:霜や吹雪をつかさどる神。「寒波」を意味する。
※2)鳥のミルク:入手が困難な極上の飲み物を指す。古くはお酒に関わる。

単語

aitaus [名] 柵に囲まれた土地, 区画
halla [名] 霜, 凍害, 霜害
lihava [形] 太った
lanketa [動] 落ちる, 倒れる, 当たる, 行き当たる
assa [名] 用事, 物事
paharaiskani [形] 役に立たない, 惨めな, ボロボロの
jiätukku [名] つらら
hapata [動] 腐る, こわれる, だめになる
puissaltua [動] (手に持って)振る, 激しく振る
riškistyä [動] 身体を強くする, 丈夫にする
tiätä [名] 叔父, 伯父
puistua [動] 振る
humala [形] 酔っぱらった
köyhtyö [動] 貧しくなる
tuškin [副] ようやく, かろうじて, からくも
umpeh [副] ぴったりと, 隙間なく, しっかりと, 固く
meinata [動] ~するつもりである, ~しようと思う, 企てる
välttyä [動] ~で十分である
vajehtua [動] 取り換える
järelläh [副] お互いに
arvoni [形] 高価な, 価値のある, 身分の高い
mäčöttyä [動] 打つ, なぐる

出典

所蔵:ロシア科学アカデミー カレリア学術研究所(KarRC RAS)
採取地:カレヴァラ地区のウフトゥア村
採取年:1947年
AT 564

日本語での出版物

おそらくなし。

つぶやき

以前紹介した「ひき臼のお話」とよく似た流れのお話ですね。男たちが出てくる袋は、民話の中でときどき登場しては、欲深い人たちを懲らしめています。

朝の自由勉強時間が十分にとれなくなってきて、更新頻度が落ちていますが、自分にとっても息抜きになるカレリア語時間、少しでも続けていきたいものです。

>> KARJALAN RAHVAHAN SUARNAT(カレリア民話)- もくじ

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