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ナチスSSのカレリア遠征① イントロダクション

Kieli

アーネンエルベという機関をご存じでしょうか。

アーネンエルベ(”祖先の遺産”の意)は、「チス親衛隊(SS)全国指導者ハインリヒ・ヒムラーの主導により、ドイツ先史時代の精神史研究を目的として設立された研究機関。

当初はゲルマン民族の歴史・民俗を主に研究したが、次第にオカルティックな研究を含め、ユダヤ人を使った人体実験や気象学、化学、軍事研究などの分野にも拡大し、大学への介入も強めながら、ドイツ支配地域に多数の支部を有する巨大機関に発展」したそうです。

上記は「SS先史遺産研究所アーネンエルベ」(ミヒャエル・H・カーター著, 森貴史監訳, ヒカルランド, 2020)の版元紹介文よりの引用です。

このアーネンエルベ、オカルト的な話題ばかり注目されていますが、民俗学的なフィールドワーク調査も行っており、その中では“アイアンマン”(鉄の男)と呼ばれる隕石を彫ってつくられた仏像彫刻を持ち帰ったチベット遠征(1938年)が有名です。

チベット遠征に関しては「ナチスと隕石仏像 - SSチベット探検隊とアーリア神話」(浜本隆志著, 集英社, 2017)をご参照ください。

チベット遠征の以前、アーネンエルベの設立にも関わったヘルマン・ヴィルト(Herman Wirth)によるスカンディナヴィア調査旅行が1935年8月、1936年8月に行われていますし、1938年にはアイスランドへの遺跡調査隊が送られています。これらは、「北欧のインドゲルマン性の空間、精神、行動を究明する」という機関の規約に基づいており、アーリア人種主義を掲げていたナチスの文化政策のため「アーリア人の北方ルーツを探る」ことを目的としていました。

1937年2月、アーネンエルベに「インドゲルマン・フィンランド文化関係の学科」が創立され、その指導者の座に若きフィンランド人学生ユルヨ・フォン・グロンハーゲン(Yrjö von Grönhagen; 1911-2003)が就くことになります。

1937年夏、グロンハーゲンはアーネンエルベの活動としてカレリア遠征を行います。この遠征について、先述の著作でカーターは「この研究協会にとって重要でなかった」とし、グロンハーゲンについても「アーネンエルベの階級組織のなかで非常に控えめ」な目立たない存在とし、多くは触れていません。

「アーネンエルベが行った活動」としてのグロンハーゲンの業績は振るわなかったかもしれませんが、彼はアーネンエルベに入る前の1936年6月、SS党員でベルリン先史博物館で近隣東部域部門を管理していたアレクサンダー・ラングスドルフ(Alexander Langsdorff; 1898-1946)の依頼により、ドイツ人音楽学者フリッツ・ボーズ(Fritz Bose; 1906-1975)と共に最初のカレリア遠征を行っています。

この遠征ではルノラウル(フィン・カレリアの伝統詩歌)、呪い、泣き歌、民謡やカンテレ演奏などが、当時開発されたばかりのAEG社のマグネトフォンで100近くも録音され、1000枚以上の写真を撮影し、展示品として多くの物が集められ、大きな成果をあげました。とりわけ、フィン・カレリアの民俗音楽・口承伝統が初めて録音されたこれらの音源は、今でも極めて貴重な資料です

既にヒムラーと知り合っていたグロンハーゲンは、この最初の遠征の成果を受け、アーネンエルベの任を命ぜられることになります。

さらに1938年にもグロンハーゲンはアーネンエルベの「研究」としてカレリア遠征を行っています。

SSナチスによるカレリア遠征とグロンハーゲンの存在を知ったのは2014年、彼にまつわるドキュメンタリー映画がフィンランドで製作されたことがきっかけです。

その後、グロンハーゲンが戦後に著した「ヒムラーの秘密結社(Himmlerin salaseura)」(Yrjö von Grönhagen, Kansankirja, 1948)を読み、どうにも素通りできなくなってしまいました。

グロンハーゲンという人物のこと、カレリア遠征で得た膨大な民俗学資料のこと、遠征中に出会った伝統音楽の歌い手・弾き手たちのこと、さらにカレリアから奏者たちを招いて開催された、北欧社会協会(Nordische Gesellschaft)主催の北欧イベント(1936年6月、リューベック)のこと、お忍び行われたヒムラーの”カレリア休暇旅行”のこと、そしてハーケンクロイツ《ナチス鍵十字》を刻まれたカンテレのこと、その製作者のこと等々…どれをとっても、好奇心がそそられてしまいます。

正直 SS関連資料を読むのは気が滅入ることも多いのですが、情報整理を兼ねつつ、少しずつこのNoteに記録していこうと思います。

リソースは現時点で主にフィンランド語、英語、日本語で書かれた文献です。いずれドイツ(語)の資料にも…手を出したいような、出したくないような。

次回は、興味のきっかけとなったドキュメンタリー映画「Instrument of Himmler(原題:Himmlerin kanteleensoittaja)」について。

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