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『闇の底にて与えられん〜発達障害の陰陽』第7話「次男の問題」(note創作大賞ミステリー部門)

【次男の問題】

「………それは、どういうこと?」

馬鹿なのか?…そう、馬鹿なのだ。

俺は千佳を傷つける覚悟で、コンサルを続けさせるために、
「コンサルを止めるなら、結婚生活の維持は難しい」と伝えたんだ。

具体的な考えなどない。

「ええと………、自分がしんどくなるから、私にコンサルを続けろって言うの……?」

「そうだ!
お前はな、自分の意見だけにこだわって、押し付けてきて、俺の意見を無視するようになるんだ。

お前は自分の状態が分かって無いんだ!
赤賀さんも、真未さんも、そう仰っていたぞ!」

「………自分の意見だけを押し付けて、周りの意見を聞かない?

ん?………それって………普段のあなたが家族全員にしていることじゃないの………?」

「それは、お前が悪いんだ!
お前がそうだから、俺までそうなるんだ。」

「………私が原因ってこと…?」

「もう出て行け!苦し過ぎて、話したくない。お前がいるとしんどいんだ!」

やっと、千佳が部屋から出て行った。

倒れるように、フローリングの固い床に寝転んだ。
休みたい。
仕事もキツいのに、休みの日もコレだ。



…少し眠っていたようだ。夢を見ていた。

去年の、次男が起こしたトラブルの夢だった。
あの日も、こんな風に寝転んでいたら、妻が俺を起こしにやってきたんだった。

「寝てるとこ、ごめんね。

あのね………さっき、小夏ちゃんのママが玄関に来られて、
………玲二が小夏ちゃんともめて、
………ケガさせちゃったみたいで。」

「は?」

次男の玲二は、小学校に入学したばかりだった。
放課後も休日も、近所の女の子、小夏ちゃんとよく遊んでいる。
彼女は1学年上で、玲二が3月生まれだから…1歳半ほどの月齢差がある。

俺が公園遊びに玲二を連れて行くときに、小夏ちゃんも一緒に行ったりして、小さい頃から姉弟のように遊んでいた。
たいてい千佳はついて来ないから、よく小夏ちゃんママと夫婦に間違えられたものだ。

「………さっき私達が話してる間は、覚が見守っていてくれたんだけど
………覚と私が入れ替わろうとした間の出来事で、
………誰も見てなくて。」

なかなか話が見えなくて、千佳のゆっくりした口調にイライラする。

「玲二が急に帰ってきて………
珍しく無口に沈んでいたから………
不思議に思って話を聞き始めたところだったんだけど……
ちょうど、小夏ちゃんママが来られて。」

「俺が菓子折りを買ってくるから、お前は赤賀さんに。」

車のキーを用意しながら妻に言い、俺はすぐに出かけた。

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