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理学部物理学科(学部)で学ばないこと~数学編 さぁモグるんだ!

一般的な大学では、大学学部卒業を目的にカリキュラムが組まれています。大学院進学や特殊な分野を研究したい、と野心を抱く人にとっては、学科で用意された講義では足りません。

大学生ともなれば、本当に必要なことは、待っているだけでは降ってこない。大学は、研究機関であって、お客様第一の予備校ではない。

TDRだって、満喫したければ、事前の調査を綿密に行い、当日の動線しだいで柔軟に戦術を変えて挑みます。

4年生になってから始めるのでは遅い。

大学数学は、高校数学のように数日徹夜して学べる内容ではありません。
消化すべき内容は並行して習得できません。複数年かけて学ばなければならない。そして、学んでから大脳皮質に染み込むまでに、長い時間を要します。

ボリュームを前もって自覚していれば、黒船到来までに対策はできます。3年生頃からは大学院入試対策が始まる。時間は思っているほどに多くはありません。

2年生ごろから始めれば、4年次卒論や博士前期課程で満足のいくスタートを切れるはず。

今回は数学編。

物理学科が設置される規模の大学であれば、必ず数学科があるはずです。以下で挙げる数学分野では、数学科で講義が開講しているほどで、挫折する数学科の学生もいます。講義を受けられる学生時に受講していると、それは一生の知的資産になります。数学科の先生と仲良くなっておくと、大学生活の充実度が増します。

成長したければ、自分より頭のいい人とつきあいなさい。

さぁモグるんだ!

※ モグる=履修登録せずに聴講すること。担当先生によっては、聴講を断られることもあります。わたしは他学部の講義を聴講していると、(院生なのに学部1年の講義に出ていたものだから)「君はだれだ? でていきなさい」と叱責&退場をさせられたこともあります。事前に担当教員へ挨拶しにいっておくとトラブルを避けられます。


集合と位相

大学数学の基礎だけれど、物理学科ではなぜか開講されません(そりゃそうですけど)。物理の理論系先生は必ずやっています。本で独習できます。独学で進めて、分からないところを、数学科先生にピンポイントで質問しに行くのがいいでしょう。一冊だけ持つなら金子先生の『数理基礎論講義』をオススメします。数理論理・不完全性定理が載っているからです。

数理論理

物理学では使いません。数理論理を、本来は1~2年次に理系全学科でやっておくべきなのでは? 『論理学をつくる』は骨太な内容ですが、どうせならこのレベルまでやっておきたい。井上真偽『恋と禁忌の述語論理』筒井康隆『モナドの領域』にも使えます。

偏微分方程式

流体力学、電磁気学、量子力学で多用するのに、物理数学として講義ではあまり深入りしてくれません。やったとして、複素関数、フーリエ級数・変換、この後に充てられるのケースがほとんどです。深入りしすぎると消化不良になりますので、薄めの本で全容を知っておくのがいいでしょう。

線形代数(アドバンス)

スペクトル分解、特異値分解をやっておく! 量子情報でしれっと出てきます。機械学習・人工知能でも多用します。この本は量子力学と親和性が高く、取り組みやすいです。この分野は独学になるでしょう。

複素関数・複素解析(アドバンス)

場の量子論で使用するレベルの複素関数を学ぶ機会がない!
物理数学で習う内容では、大学院以降の使用に耐えられません。数学科の複素関数ニーズとズレるので、独学になるでしょう。

この本を消化できると、『詳解物理応用数学演習』を有効に利用できるレベルに達します。

ルベーグ積分(測度論)

鬼門です。数学科でも挫折者が続出します。数学猛者は伊藤清三『ルベーグ積分入門(新装版)』へどうぞ。99%の方につぎをオススメします。

数学科でわかりやすいと評判の講義があれば、ぜひお邪魔しておきましょう。

関数解析(量子力学の数理)

量子力学はヒルベルト空間での固有値問題です。線形代数からヒルベルト空間へと言葉を変えなくていけません。関数解析の直接的な実用性はそれほど高くはありません。分野によっては関数解析の用語で物理が語られます。対照表を見る感覚で、一読しておくのがいいのでしょう。この分野は独学です。

上記の本は、アマゾンで1つ痛烈なレビューが書かれています。「強くてニューゲーム」でなにが悪い。どんな勇者だって、はじめはレベル1からです。2週目に下記を取り組めば、十分です。

超関数論・汎関数

"場の量子論"のテキストかな。。。どの"場の量子論"の本が良いのか、思い出せません。和書で最も詳細に書かれている本はこちら。岩波さん、高すぎます。

確率過程・確率微分方程式

確率過程は物理学でもっと使われるべきなんです。数学屋さん、ツールとして使いやすい本を書いてください。"非平衡"、"測定"、いずれも、研究者の確率過程習得がボトルネックになって、科学が停留しています。

群論とLie代数

この分野は数学科の方と全くニーズがあいません。数学科向け専門書を取り組むのは上級者になってからでいいです。この分野も独学です。

リーマン幾何学

数学の専門書で学習するのは、初めは避けたほういいです。理論物理学で使いたい・欲しい知識を得るためには、数学の専門書や数学科講義は遠回りです。現代幾何学の知識は、一般相対論を学んで物理学修学レベルを底上げしていないと無用の長物になります。テンソルの基礎的な書籍、そして、MTW、いわゆる電話帳

を買いましょう。MTWは大学院に進めば、必要になります。MTWは高価ですけど、学生であれば、単発バイトを2~3日もすれば買えます。

微分位相幾何学

この分野には有名な中原幹夫『理論物理学のための幾何学とトポロジー』があります。この本に書かれているように、現代の幾何学は多くの分野があります。数学科にはそれぞれ専門の先生がいます。『中原本』は初めての人にはあまりにとっつきにくい。効果的な使い方は、本からキーワードを抽出して、数学科で関連分野の講義を受講して、それから『中原本』に戻って物理とミックスする、です。

この頃になると多次元に住みたくなります『三体 III』でもいいですが、専門書では、こちらの本で多次元人と会話ができるようになります。

微分位相幾何学の学習を進めると、数学の専門書に頼る機会が増えます。数学視点での現代幾何学をインストールしておきましょう。

圏論

人類は、圏論を物理学で多用する段階には、残念ながら達していません。数年~数十年後、いつかは、圏論により数学が書き換わるのでしょう。

谷村省吾,物理学者のための圏論入門 (PDFがDLされます)
谷村省吾,幾何学から物理学へ,SGCライブラリ,サイエンス社

圏論が数学構造をどのように変えてしまうのか、については

圏論的量子力学』なる新たな量子力学が生まれています。この量子力学な圏論は、上記の数学の「圏論」とは若干違います。「圏論的」量子力学とは中平健治 『図式と操作的確率論による量子論』のように、操作的に量子演算を行うことです。数学・物理概念を使わず、操作的であることから、量子コンピュータや量子テレポーテーションへの応用が期待されています。

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