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東京 / 自選短歌


真っ暗な部屋で目覚めるとき泥はそっと私のかたちに戻る

透きとおる水を揺すって水出しのパックは底へ沈む静かに

コピー機は光ってくれる紙束を抱きしめ生きるわたしのために

店員に1人も日本人はいない魚の骨をゆっくりと抜く

卵をかるくにぎるくらいの手加減ときいて卵を両手ににぎる

にぎやかな四人が乗車して限りなく透明になる運転手

いつ何が別つのだろうエリンギは身を寄せ合って収まっている



いますぐに殺めることをためらえばゆっくりと死ぬ真水のあさり

ゴミだって思ってみたび触れてしまう表紙の中の小さな鳥に

入口で待ってる犬の飼い主が出てくるところまで見てしまう

パレードの音はここには届かない痛いだろうな螺旋階段

梨ならばきっと独りが浮き彫りになってしまうねみかんを選ぶ

山手の全体像が見たいのに次の駅名ばかり出てくる

さわれないたとえのひとつ反対の車線を走り去るターャジス



丸ノ内線が地上に出るときはみんなあかるい方を見ている

感情をあまり出さない君がする嬉しいときのへたなスキップ

無駄なことばかりしようよ自販機のボタン全部を同時押しとか

戸を開けて出て行く人のそれぞれの額にそれぞれ注ぐ陽光

天国と書かれた紙を引き当てて迷うことなくきみにあげたい

ありえないくらい眩しく笑うから好きのかわりに夏だと言った



冷蔵庫唸ってくれてありがとう明かりの前で引き裂くチーズ

花束はパンのかわりになりますか辿って会いに来てくれますか

もうきみに伝えることが残ってない いますぐここで虹を出したい

こぼれてくものがあまりに多すぎて抱きしめていい犬をください

おやすみと唱えたあとのおやすみのことだま眠るまでそこにいて

まぼろしのマトリョーシカを開け放ちあなたと会った日の花ふぶき




 まほぴ(岡本真帆)

漫画編集者をやっています。短歌をつくったり、映画をみたり、漫画を読んだりしています。最近サウナーになりました。今年はnoteをがんばりたい。よろしくお願いします。
@mhpokmt

犬の短歌をまとめたもの↓
https://note.mu/mhpokmt/n/n71e671842c6c

読んでくださってありがとうございます!