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父のメロディーライン③(終)

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少し話は逸れるが、私は「死」について人より随分と楽観的に考えてしまうところがある。

小さい頃からずっと、父から仏教の話を聞いていたせいだ。

父はよく輪廻や業(カルマ)の話を聞かせてくれた。

何やら人というのは輪廻転生しているらしい。
前世のカルマにより今生の恵まれてる度合いが変わるらしい。
(私も個人で勉強したわけではないので間違っているかもしれない)

例えば
命が宿っても生まれてこれない子がいる。
生まれてきても五体満足でなかった子がいる。
生まれた家庭の環境が劣悪な子がいる。
裕福な家庭に生まれ何不自由なく暮らすが、愛情を貰えない子がいる。

それは全て前世の自分のカルマを消化しているのだ。

なので今生では与えられた命でカルマを消化し、情けは人の為ならず、を実行して来世に期待というわけだ。

そもそも、魂が人間に転生できるのは、
1匹のウミガメが息継ぎのために水上に顔を出した時、たまたま漂っていた浮き輪の中に出てしまう、
そのくらい確率が低いらしい。

とてつもない奇跡だ。

そして死というものは、次の生までようやく少し休める時間らしい。
(お釈迦様が解脱したというのは、この辛い輪廻から解放されたということだ。だから凄いらしい。)


そんな考え方を幼い頃から聞かされていた私は、死に対して"悲しい"という感情が欠落している。

小学生の頃飼っていた犬が死んだとき、少し寂しかったが悲しくはなかった。
祖父や祖母が亡くなった時も悲しくはなかった。

自分の家族のことなら大したことはないが、これが友人の家族の訃報となるとやっかいだ。

高校生の頃、友人の飼い犬が子犬を産んだ。

しかし生後数日経って死んでしまった子犬がいた。
友人はとても憔悴していた。

私はそんな友人の気持ちが少しも分からなかったので、なんだか変な声のかけ方をして別の友人に指摘されたような気がする。

私にとって死=休息の時間なのだ。
今生のカルマを消化して徳を積めたのかな?お疲れさま!くらいの感じだ。

ただ、悲しくはないが、残された家族は寂しい気持ちになることくらいは分かる。
でもその程度だ。


話を戻すと、父が死んでも私の感情はこんな感じだった。

苦しい入院中の父に「頑張れ、もう少しだよ」と声をかけていた。

亡くなったと聞いた朝は

「やっと楽になれたんだね、本当にお疲れさま」
と安堵した。

父は父の今生を全うした。

そこに悲しみはない。

いろいろと恵まれない環境の中、必死に生きていた。

そして私を育ててくれた。


ただ時間が経った今でも、父の事を思うと涙が出てくる。

まだまだ父との時間があるものと思っていた私にとって、やはり突然すぎた。

父が死ぬ前に、旦那と結婚して良かった。
孫の顔を2人も見せられて良かった。

と思うが、

孫の成長を見てほしかった。
子育てで悩んだときに相談に乗ってほしかった。
旅行に連れて行ってあげたかった。
色んな人に父のギターを聴いてほしかった。
もっと感謝を伝えたかった。
もっと父の話を聞きたかった。


我が家はビデオカメラを持っていなかったし、スマホが普及しだした時は大学卒業を控えている時だった。だから父の写っている写真や動画が少ないのがとても寂しい。

ふと父の声が聞きたいと思っても叶わない、、と思っていた。

しかし父は意図せずも私たちに残していた。

数年前からYouTubeで自分のチャンネルを作り、自宅で撮影したギターを弾いている動画を数十本と投稿していた。

さらにおやじバンドのチャンネルでも自分たちのライブ映像を投稿していた。

そこには、まだ元気な頃の父から、具合が悪くなり痩せ細った父まで残されていた。

まさに抗癌剤治療中の、歩くのもままならない父のライブ映像もあった。

どの動画を開いても、流れてくるメロディーは私の知っているもの、

父のメロディーラインだ。

毎日父の部屋から聞こえていた、あのギターの音色だ。

私はいつでも父に会える。



父の死後、母は1人でブティックを経営している。

もう40年近くやっているので、大体の客は母と世間話をするついでに服を買っていくような感じだ。

その中になにやら霊感がある人がいるらしい。

母は彼女に父が死んだことを話した。
「全然主人の気配を感じないの」

彼女曰く、死ぬ間際苦しい期間が長かった場合はしばらく魂は眠っているらしい。
そんな話を聞いて、母は少し安心していた。


数ヶ月後また彼女がやってきた時、突然こう言ったそうだ。

「ご主人、生前は少し怖い方なのかしら?という印象だったけど、とっても優しい方だったのね。あなたの周りにとっても優しいオーラが溢れているわ」

どうやら眠りから覚めて、母を見守っているらしい。


そして別日、母は彼女に不満を漏らした。

「数ヶ月経っても夢にも出てきてくれないのよ!」



「あらあら!亡くなってからも人助けのために、あちこち奔走してらっしゃるわよ」

ああ、父らしいな〜と2人で笑ってしまった。

おわり。

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