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(職場と学校のリーダーシップ開発:その5)大学職員研修と企業研修の共通点

前回は大学の授業でアクティブラーニングを促進するときにTAが発揮するリーダーシップについて書いた.(社会人を含む)学生・院生や教員と同じ大学という場所を職場とする大学職員のリーダーシップ研修は,何度かお引き受けしたことがある(早稲田大学の職員研修は現在でも毎年担当している).それとは別に,企業からもリーダーシップ研修の依頼を受けることもあり,これは学生対象におこなっているリーダーシップ教育が見当外れなものになってないかどうかをチェックし続けるという積極的な意味もあって,時々はお引き受けしている.

企業でも大学でも,私の知る限りリーダーシップ研修依頼の大半は人事部付近からいただく.(「付近」と書いたのは,人事担当役員だったり総務部人事課だったりもするからである.)そしてリーダーシップ研修効果を強烈に左右するのは,(研修講師の力量はもちろんだが)研修依頼側がどのくらい本気かである.「本気」の意味は,社員や職員の効果的なリーダーシップ研修は,個人個人の能力開発にはとどまらず,組織内・社内における人々の関係性をも変えてしまうことを知っていて敢えてそれを狙っているかどうかである.つまり職場のリーダーシップ研修は組織開発を伴うということの認識である.それが無い場合には,受講生はリーダーシップ研修の終了後に職場に戻って,上司や先輩の承認や理解がないまま「権限によらないリーダーシップ」を発揮しようとすると白い眼で見られる.例えば未熟な提案を試みると,さまざま欠陥を指摘され木っ端微塵にされる.ちょうどこれはこの連載の第1-2回にも載せた下図の左下つまり②に研修受講生が置かれることになる.

下半分の領域では右方向への風が吹くのでした

「権限によらないリーダーシップ」発揮が当たり前と思って入社してきた新人が配属された職場で,他にそうしたリーダーシップの理解者がいない場合,強烈な右方向の風が吹いて,④に追いやられる.リーダーシップ研修から戻った受講生はまさしくこの立場に置かれてしまうのである.

私の企業研修や職員研修の講師歴はたいしたものではない.年数で言っても十数年程度だし,頻度で言ってもプロの研修講師の皆さんの足元にも及ばない.ただ逆に,比較的少ない研修機会なのだからこそ,受講者の方々に受講して時間の無駄だったとか,人事部に言われたから受講したが,受けてみたら,可能なら回避したかったとか思われるような研修になることは避けたい.そう考えて研修自体を設計し実施もするのであるが,いかにベストを尽くしても,集合研修当日の時間が始まる以前から,既に研修効果が冴えないものになることが運命づけられているようなリーダーシップ研修もある.その典型が,このように,研修を講師に依頼する部署と,研修受講者を送り出す現場のリーダーシップに関する考え方が一致していない場合である.

リーダーシップ研修を無駄にしないために,というか,それ以上に組織開発効果を一緒に生むために,管理職やトップのリーダーシップ研修を同時に,あるいはできれば先行して繰り返し行うことが必須である.そうすれば,人事部と現場の乖離,人事部とトップの乖離はせばまって,VUCAへの対応に強い,イノベーティブな職場への第一歩が始めるだろう.


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