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カステラなる名の酒の肴

よく行くというわけではないが、時々思い出したように行きたくなる飲み屋がある。
場所は千日前相合橋入り口付近、すぐ近くに丸福珈琲本店がある。

なんばエリアがエセ大阪人の私には大阪らしく思え時々ウロウロするのだが、正確に難波、日本橋、千日前のエリアの区分をいまだ知らない。
この飲み屋はそれらのちょうど中途半端くらいのところに立地しているのではないだろうか。
だから、繁華街のど真ん中でもないのである。

それなのにいつ行っても一杯のお客さんで賑わう店なのである。
鰻の寝床のような細長い店内には片側に続く板場に貼り付くように長いカウンターが伸び、板場の反対側にはこじんまりとした四人掛けのテーブルが並ぶ。

ここでしか飲めないような名酒を置いているわけではなく、取り立ててきれいな女将がいるわけでもない(失礼かな?)、一見どこにでもあるような飲み屋だと言えばそう言えないこともない。

しかしながら、一言では表すことの出来ない飲み屋の魅力を持っているのである。
そんな店は少々不便な場所であろうと、少々狭かろうが、少々小汚なかろうが(ここはきれい)、酒飲みは吸い寄せられていくのである。

魅力の一つは雰囲気だと思っているのだが、この雰囲気はもちろん人が作り出す。
大手チェーン店とは違い、システマチックな教育など無いだろうから経営者の魅力なのかも知れない。
そして、親父か女将の背中を見てその店の雰囲気を共に作れる店員は優秀だと思う。
考えれば、居ていやな感じを受けたことが無い。

いつもそんなことを考えながら一人酒を飲むのだが、もちろん自身で飲み屋を経営したからでもあるが、もともとそんなことを考えるのが好きなのである。

ずっと籍を置いた建設業の売り物は技術であり、営業時には形になっていない。だから営業手法に定石は無かった。
だから、絶えず考えていた。人の考えない営業方法を考えていた。

そして、この店には私のお気に入りの肴がある。それが見出し画像の『カステラ』である。魚卵を固めてその上にカニ味噌を塗ったものである。切って出て来る形は『カステラ』そのものである。これを突きながら熱燗を飲むのである。

私にはそんな肴も店の魅力なのである。
山海の珍味ではなく、気を衒う料理ではなく、どこにでもある材料を使い「これは、」と思わせ口に運ぶと笑みがこぼれる肴なのである。

思えばこの『カステラ』の姿を眺めたくて、箸で突きたくてこの店に行くのかも知れない。
こんな店とこんな肴は私の密かな小さな楽しみである。
店はもちろん、店の皆さんにもお元気でいつまでも続けてもらいたい好きな店なのである。


※オマケ
この『おてだまさん』、私よりかなりお若いとお見受けするが、来阪時にわざわざこの正宗屋に足を伸ばされカステラを食されておられる。
ダイナミックな料理と癒される旅行記は私の心のオアシスとなっている。


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