見出し画像

少女☆守護者 デスティニースタァライト【後編】

承前

谷底に衝突直前、ハンタークラスであるヒカリは軽業のごとく壁面を蹴り、空中で再度ジャンプ。勢いを殺して着地し……”ズドギャン!”……マヒルも無事墜落、もとい着地してきた。彼女は鉄壁のタイタンクラスである。

二人の元へ坂道を作る様に細長い鉄骨組が瓦礫から突き出ており、アーマー備え付けの投光器でその根元を辿る。「あそこから入れるかな……?」と言うマヒルの視線の先には、円筒形の構造物が瓦礫の斜面から顔を出していた。
あの先は真っ暗だねえ……とマヒルは怖がる一方、「さあ、行くわよ」と、ヒカリは怯むこと無く鉄骨の細い足場を跳ぶように駆け上がる。

「え!? ま、まってよぉ……」マヒルは言い募るが、既にヒカリは件の構造物側面のガラスを踏み割り、侵入していた。
《なにかを”予感”しているのでしょうか? わかります》
ヒカリのゴーストが超然とした様子でそう言う。相変わらず何を言ってるのかわからない。
「ええー? ていうか、ゴーストさんは早く行かなくていいの?」
重々しい噴射音をたてながらリフトを発動させ、一気に飛び上がりながらマヒルはヒカリを追う。
《I see……あちらにはもう一体のゴーストが付いています。位置は把握しているので、トランスマットは一瞬です。……それはともかく、フォールンです。食い止めてください。では》
「え、ええー!?」
マヒルのゴーストは、ビープ音を発して今しがた目の前に降り立ったフォールンの一隊に、敵性マーカーを表示させた。

ヒカリは構造物内で見つけた横坑へ進んでいた。直線距離では300メートルほどもないだろうが、高さはジャンプできないほど低いうえ、穴が唐突に現れては何度も落下しかける。肝を冷やしたその構造は、おそらくかつては縦横を違え、エレベーターシャフトだったのだろう。

そしてその突き当りの開口部から、本来フロアの壁面にあたる面に降り立ち、今や垂直に行く手を阻む仕切り壁を伝って反応のある箇所へ跳躍する。

三段ジャンプの頂点で辛うじて掴んだへりから身体を引き上げ、顔を上げたそこには、不自然な光景が在った。

「これは……ベッド? それと……」

場違いなほど平凡な……否、今この時代にあれば奇異極まりない、シングルベッド。施設の趣も、時代も、場所でさえ完全に無視して、鎮座ましましていた。
そしてその上には、王冠を戯画化したような髪飾り。

《これです! これが今回のトップタァゲット!》
「うひゃあ!」
突然、ゴーストが現れハイテンションでそう叫ぶ。

「今までどこ行ってたのよ!」
そのヒカリの言葉に答えず、二基のゴーストはそれぞれ、蘇生作業とそのベッドごと地上へと転送する準備をする。

「ちょっと!」ヒカリは怒り気味に更に問い質そうとするが、『ヒカリちゃん! フォールンだよ! いっぱい来てる!』マヒルからの通信がそれを中断した。

「っく!」
ヒカリは言葉を飲み込んで先程の道を逆走し、マヒルのもとへ戻ると、そこには大量のフォールン。

「何におびき寄せられたんだろう……とにかく……殲滅しよう!」
ヒカリのゴーストの手引きで先手を打ったおかげか、数の割には拮抗していた。ロケットランチャーを担ぎ、遠距離型のバンダルを重点的に吹き飛ばしている。
「中はもう大丈夫。神楽ひかり……入ります」
ヒカリは愛用のピストルを腰から抜き放ち、そう宣言してタワー基部から身を躍らせんとする。
「ヒカリちゃん……泣いてる……?」
「え?」
そこで初めて、ヒカリは知らず泣いていることに気付いた。

「え? え?」ヒカリは、頭が混乱する。それにさっきの宣言……知らない。”そんな言い方”、覚えがない。
「あれ……わたしも泣いてる……なんで? 変だよこんなの」更にはマヒルまで、いつの間にか涙を流していた。
けれど、これは悲しみの涙じゃない。そう二人は確信していた。

《お二人とも、地上に一旦引き上げます。先程の方を蘇生完了しました》

そして、時は始めの時点に戻る。

谷を挟んだ向こうの山に、増援のドロップシップが現れる。

さすがに、そろそろ打ち止めでなければ、あちらの被害が大きすぎるのではないか。そうヒカリのゴーストが推察したとき、一際大柄なフォールンがドロップシップから飛び降りてきた。
彼らフォールンの社会では、高位の者ほどエーテル……生体エネルギーの恩恵で身体が大柄になる。そして目の前の者は、キャプテンと呼ばれる位階よりも一回り大きい体躯を誇っていた。彼女たちが遭遇したなかでも最大級のサイズだ。

《あれは……バロン級かもしれません。識別信号を仮に、バロンとマークします》

二人の網膜表示が通常と異なる危険性を表す黄色に切り替わり、先手必勝、マヒルがロケットランチャーでバリアを破壊しにかかる。今更だがタイタンの鑑のような勇猛さである。しかし、それを短距離ワープでやり過ごしたバロンは、すばやく榴弾ランチャーをこちら側に向け発射しようとする。

《まずい! 防いでください。今は”ひかり”の加護が効かない!
そう、こちらの後方には未だ目を覚まさぬ少女がいるのだ。その上、トラベラーからあまりに離れすぎたこの地では、彼らは定命の者に等しい。
マヒルは大急ぎでスキルパスを切り替え、大型のバリケードを建造する。だが、榴弾は二人の目の前で急激にホップしたかと思うと、頭上で炸裂し、子弾をばらまく。

「危ない!」無意識のうちにヒカリは少女に覆いかぶさる。背中で炸裂する爆弾は、小型なお蔭で致命傷には程遠い。
しかし、彼女を逸れた爆弾が周囲で連続的に爆発し、結果、瓦礫が崩落する。
「あ……」
目の前で、少女が転がり落ち、背中から落ちていく。
「だめ……落ちちゃう……だめだよ……起きて……起きてよ……」
ヒカリの手を、かろうじてマヒルがつなぎとめる。二人を守るバリケードも、ヒビが走りもう耐えきれそうにない。

ゆっくりと、ひどくゆっくりとヒカリの視線の先で少女が落ちていく。

「起きてよ……起きなさいよ……ばっかれん!

ヒカリが叫んだその瞬間、少女が溶鉄の如き光に包まれた。

☆☆☆

――アタシ、再生産……!

☆☆☆

赤色の閃光が弾け、ヒカリとマヒルはあまりの眩しさに瞑目する。
しかしそれにとどまらず、少女を……かれんを中心として”ひかり”の衝撃が瓦礫の層を貫き、残余のフォールンを消滅帰さしめる。

《おお……”ひかり”の再生産……!? その身を蘇生させるために使われたはずの”ひかり”を再生産し、トラベラーの加護なきこの地で自らをガーディアンに作り変えたというのですか!?》

ヒカリのゴーストが、かつて無いほど興奮した様子で雄叫びをあげた。

「星屑溢れるステージに、可憐に咲かせる愛の華。
生まれ変わった私を纏い、キラめく舞台に飛び込み参上! 」

”ひかり”の衝撃で空の一点が払われ、満点の星空からスタァライトが華恋をスポットライトの如く指し示す。

「99期生、愛城華恋。みんなを……あなたを、スタァライト、しちゃいます!」

ゴーストのデータベースのどこにも載っていないアーマーをまとって、愛城華恋が名乗りを上げる。

唯一残ったバロン……バリアが破壊され、もはや四腕のうちの二つが砕けたフォールンへと、瞬間移動の如きグラン・ジュテ。

炎のサーベルが、その頭を砕いた。

「華恋……」「華恋ちゃん」

ミッション完了。ジャンプシップを呼び寄せ、ヒカリとマヒルは……否、神楽ひかりと露崎まひるは、全てを思い出していた。

「久しぶり、ひかりちゃん、まひるちゃん。って言っても、どのくらい経ったかわからないけど」
華恋が恥ずかしそうに笑う。

「じゃあ……おはようだね、華恋ちゃん!」
「もう……寝坊しすぎよ。寝坊しすぎて……わたし……あなたのこと……忘れちゃってた」
三人はお互いをいつまでも、いつまでも抱きしめあっていた。

「ほんとうに、ばっかれん」

【おわり】

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。