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少女☆守護者 デスティニースタァライト【前編】

「ばか! 早く起きなさいよ!」
四本腕にショックライフルを把持した異星からの略奪者……フォールンらの眉間をアーク属性ピストル【カルキュルス・ブライト】で三点射し、死体を量産しつつヒカリ・カグラはそう叫んだ。
「ヒカリちゃぁん! キリがないよぉ!」
一方、ボイド属性オートライフル【ラヴ・ジャジメント】を膝丈のシールドの陰から乱射しながら、マヒル・ツユザキが泣くような声で叫ぶ。
二人の後ろには、白い無地のワンピースの少女。今さっき蘇生されたての。……そして近い将来、二人と同じ【ガーディアン】となるであろう。

大いなる探訪者……トラベラーとその膝下の都市は遠く、ここは……酷く寒い。

時は遡る。

人類の守護者にして過去からの蘇生者である【ガーディアン】は、原則”生前”のことを詮索してはならない。それは他人も、自身も、どちらのものに関してもだ。

トラベラーの大いなる力と奇しくも同じ名の少女、ヒカリ・カグラもその例に漏れず、日々何かが欠けている感覚にモヤモヤとした気持ちを抱えていた。

最後の人類安息の地、シティの襲撃から始まったカバル大戦から数ヶ月後。トラベラーの声が聴けぬ中、已む無い判断の末、その禁を半ば破るミッションが発令されたのは、そんな頃だった。即ち、失われたガーディアンの補充のため、各々がかつて蘇生された地を探索せよと。

【FEADZ】――極東亜細亜暗点地区と呼ばれる場所の一角。
驚くべきことにトラベラーとの遭遇より更に前の時代……もはやメトシェラすら呆れるほどの大過去と推定される年代から、ヒカリを始め彼女らは蘇生された。
探索者ロード=ネルケ・ブシの功績と二人は聞いている。再び会う前にまたどこかへ去って行ったが。

ランディングポイントから数時間。地形の問題で個人用高速ビークル【スパロー】は使えなかったが、走り詰めでもガーディアンに疲れは無縁だ。たとえ彼女らがアーマーを脱げば華奢なティーンエイジの少女の姿だとしても。

《ここが目的のポイント近くです。以前とはまた地形が変わっています。懐かしいですか? ……わかります》
「……うるさいわね」傍らに浮遊する小型メカニック【ゴースト】の無闇に耳障りの良い声がオープン回線で流れ、ヒカリは憮然とした様子でそうつぶやき、隣のマヒルは苦笑する。ゴーストの性格は様々だが、彼(?)の超然とした性格を、ヒカリは少し苦手と感じていた。
懐かしい? わからない。こんな風景が、そんな思い出の対象になるわけがない。
そう言い切ってもいいはずであるのに。

ここは平たく言えば人工建造物の瓦礫でできた渓谷だ。
瓦礫、都市施設、瓦礫。その地下をを各陣営がくり抜き、埋められ、破壊され、また瓦礫。新旧の人工物が地層をなして降り積もった山と、崩落した谷。それらの光景は、地球ならではと言えるだろう。

そんな光景を、なぜ懐かしむことがあろうか。そのヒカリの思考をよそに、ヒカリとマヒルの、そして主人不在のゴーストの三体が、二人のそばを掻き消え、鳥瞰高からそれぞれスキャンする。扁平なネコミミ状のパーツが特徴的なマヒルのゴーストはめったに喋らないが、意思疎通はいつも完璧だ。

「あれは……フォールンの船だっけ?」
「ドロップシップね。カバルとは見た目がぜんぜん違うじゃない」
「いやあ、船から降りてきたのを倒すことにしか興味ないから」
「……見た目によらず脳筋よね」
《反応、ありました》
ややあって、そんな女子力あふれる会話をしている二人のもとに、ヒカリのゴーストが再びトランスマット(瞬間移動)してきて声を掛ける。

《ここからはだいぶ深いようですが、横からアクセスするルートがありそうです。どうやら、太古の大型建造物が瓦礫を支える枠組みのように作用して、道を形作っているようです》

横倒しですが、これは……タワー?

そのゴーストの言葉を聞き終えるか聞き終えないかのところで、ヒカリは谷へと身を躍らせていた。

【続く】

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。