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公共事件解決人・シロフォン エピソード0【常務】 #AKBDC

 新聖暦300年。階層都市【アリアドネ・ヘプタゴン】第三層、外縁部自動車専用路《オートウェイ》。
 制限速度を遥かに超えたスピードでそこを疾走する電気自動車の運転席に、血の華が咲いた。

 目出し帽姿にそれぞれ銃器を携えた男4人……もう3人だが……と、手足を拘束されアイマスクと猿ぐつわをした上で更に頭部を麻袋で覆われた女性を乗せたワンボックスカータイプの車である。

「カルロ……?」
 ほぼ垂直に押し潰され、運転席と一体成型されてしまった仲間の名を、助手席に座っていたチャールズだけが虚しく呼ぶ。そのときにようやく後部座席の女性……アリョーナは”なにか”が起こっていることに気付いた。
 そして、コントロールを破壊された車が思い出したかのようにデタラメな軌道を描き始める。もう止めることは出来ないだろう。運転席に突き刺さっているものがヒトである事にチャールズが気付くのはそんな瞬間だ。

「なんだて……ぁがあッ!」
「こっち……なわけないな。そっちか」
 襲撃者のその声は高く澄んでいるが、昏い墓場を思わせる雰囲気を纏った女性のものだった。しかし男の顔を検めるため無造作に覆いかぶさった掌は異常に大きく、硬質なそれは人工の産物である高度化義肢【AAL】であることを物語っている。

 ホプロマクス級戦闘AAL。重装剣闘士の名を冠するその機械の身体は、跳び移るだけでその身を砲弾と化して容易く自動車を穿つ。

「っざっけんなよ!!」
「誰だてめえ!!」
 後部座席でアリョーナを抑えていた男らの片割れ、シャルルが襲撃者に短機関銃を向けガムシャラに連射する。だが反射的に生身の部分を防護するため掲げられた腕を貫通すること叶わずその大部分はひしゃげ、床面に乾いた音を響かせる。
 もう片割れの拳銃も同様だった。彼はとてもものぐさだったので、彼ら自身の襲撃の際に使った弾丸を再装填しておらずその射撃数はたったの4発だ。腕を一振り、翻してもう一振り。二人は左右の窓ガラスに人生で一番熱烈なキスをした。

 電気自動車の最期が近い。車路の側壁を削って奏でられる破滅的な音が響く最中、彼女は親指付け根のマイクロナイフで後部座席のシートベルトを切り裂き、アリョーナを抱え、来たときと同様跳ぶ。一見ランダムに迷走する車の前方に張り付けられた様に走行していた重二輪のシートに膝立ちになると、制御が追いつかず一度二度とふらついた。

「誰……誰……?」
『アリョーナさんですね。こんにちわ! ワタクシは第六世代機械知性・グロッケンシュピール。貴女を抱えているのが公共事件解決人・シロフォン。ついでにこのコは重二輪のランドイール9600。ワタクシ共は貴女の保護を依頼され、実行しました!』
 麻袋と猿ぐつわを外され未だ拭えぬ恐怖で声を震わせながら尋ねたアリョーナの言葉に、背中側の重二輪から晴れやかな声が応える。同時に、電気自動車の衝突音。

『ところでシロフォンさん~? また体重増えました? 今の制御機動ワタクシじゃなければ危なかったですよ』
「強襲用装備だから。いつもより重いのはしょうがない」
『いやいやそれも勘案してもですよ? 昨日の夕食の最後のパフェ、あれがいけなかった』
「見解の相違だな。今日のための活力だ」
「あの……女性……ですよね?」
 軽口の応酬をし始めそうになる二人に割り込んで再度尋ねる。シロフォンは着座し、器用にも片手でアリョーナの手足は拘束を解かれていたものの、未だその顔にはアイマスクが着けられていた。
 彼女を片手で抱えることで押し付けられる堅柔らかい胸は、女性の象徴に他ならないのだが、銃器を装備した男らを強襲したその威力たるやアリョーナの理解を拒んだ。

「ん……ああ……騒がないでくれよ」
「へ? どういう……」
 そういうわけでアリョーナの言葉は信じがたいことを信じるための確認に過ぎなかったのだが、言葉を言い切る前にアイマスクを剥がされ、視界に飛び込んできたのは高速で流れてゆくオートウェイの景色。

「ひ、ひやああああああああ!!!」
「うわ! だから暴れるなって! グロッケンシュピール! 制御!」
『やってます!』
 まさに頬を叩くという表現が正しい豪風の中、アリョーナはパニックを起こして先程の比でないほど車体が揺れる。自由可動関節を持つ重二輪がなんとかそのアンバランスを吸収して疾走を続けることが出来た。

「あまり暴れると、お腹の赤ちゃんにも悪いだろう。それで狙われて、折角助けたのに、それじゃ意味がない」
 そう言ってシロフォンが示したアリョーナのお腹は、たしかに僅かな膨らみを帯びていた。彼女は妊娠しているのだ。
「は、はい……」
 アリョーナは息を大きく吸い込み、半ば無理矢理に視線を路上から引き剥がしてシロフォンを見た。

 黒髪、かなりの長髪(車輪に巻き込まれないのだろうか?)のワンレングス、意外なことに眼鏡をかけている、肌はやや日焼けしケアは最低限。
「ん?」
 ノースリーブのカットソー、甲冑の如き腕は無骨な複合金属の塊、明らかにバランスを欠いている、下半身の衣装は視界の範囲外。

「視線がくすぐったいぞ」
「あ、ごめんなさい」
 癖で一通り観察したアリョーナはそう言って視線を下向き……は怖いので上向きに外す。第二層の底面裏に並べられた模擬太陽スペクトル灯が視界一杯に広がり、設定時間に従って暮れの色に変わり始めるそれは、一瞬本物の空に見えた。

『お二人共! そろそろゲートです。引き返しますよ』
「ああ、じゃあ、戻ろうか」
「……はい」
 そして、三人と一両は戻ることとなる。オークションハウス【メトセラ】へ。
 アリョーナの声に含まれた翳りに、二人と一両は気付くことがなかった。

 二人と一両と【インキュベーター】アリョーナの接点は、これで終わりだ。

エピソード0【常務】おわり

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これはなんですか?

凄まじい大遅刻をやらかしましたが本来 #AKBDC を祝うために書かれた作品です。なんかこういうキャラ好きじゃないですか? どう?
また、同時に、将来的に展開する作品のプロローグのようなものでもあります。剣闘要素とイールが含まれています(うっすい!)が、これは正式に話に組み込まれ改変される予定はありません。
最期に、ハッピバースデー!

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。