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おねショタ108式の106『メトシェラ 愛しきあるじ』

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 夜明けとともに起き出した村の少年、マルクが水を汲みに外へ出ると、戸口に矢が刺さっていた。深々と刺さったそれは鏃が半ば貫通しており、何故打ち込まれたときに誰も気づかなかったのかと不思議に思った。

「とうさん。誰だか知らないけれど家の戸に矢を打ち込んだ奴がいるよ」

 汲んだ水を桶から水瓶に移しながらその不可解な出来事を父に報告する。弓矢を持っているのは狩人のおにいさんか兵士のおじいさんか。しかしどちらもこんな悪ふざけをするような人物ではない。
 そして、父親が顔を青くしたのはその悪質な嫌がらせのためではなかった。

「イーイシュナー様だ……」

 そう呟くなり、母が朝食を用意し終えそうだというのに、家を飛び出して行った。

● ● ●

 その村には”主人あるじ”が二人いるとされていた。

 すなわち、第一の主人とは一帯を広く所領するブルーフィールド伯バルトロマイ。
 数年に一度、この村を視察にやってくるのでマルクも顔だけは知っていた。
 ……ただし、伯爵がただの村をそう頻繁に視察する異常性など、子供の彼には知らなかったが。

 そして第二の主人とは村の北東に広がる青黒の森に佇む館の女主人 イーイシュナー。
 彼女の姿を見た者は一人も居ない。十三年に一度という周期でその館に招かれる生贄で帰って来た者はいないからだ。
 その生贄は、時期が来るといつの間にか戸口に矢が打ち込まれており、それによって選定される。

 つまり、今朝のそれが、そうだ。

 彼女は長命の化生……吸血鬼ヴァンパイアだと言われていたが、これもまた誰も確として知っている者は居ない。

● ● ●

 それからはあっという間だった。

 村長を中心とした寄り合いが開かれ、すぐその話し合いは終わった。彼を森へやるかやらないか等という話し合いではなく、”主人”の機嫌を損なわないために、誰が、いつ、どうやって森の館へと届けるか。そういう話し合いだったからだ。
 そしてマルクは祭り上げられ村で取っておきのご馳走を食べさせられ、泣き叫ぶ父と母を置き、少年の口に上った二人……兵士のおじいさんと狩人のおにいさんに付き従われ、森の館へと送り届けられたのは、矢が打ち込まれてから一両日も経たない頃だった。

● ● ●

「ようこそ村の者よ。我はイーイシュナー様の従者が一人、ティールーセである。供物、しかと受け取った。村には変わらぬ加護があるであろう」

 影だ。とマルクは思った。
 館でまず出迎えた女性は顔ばかりが新雪のように白く、その他は全て漆黒のエプロンドレスに包まれていた。しかも、その”給仕の服”は、少年の見たこともない上質な生地に見えた。

「この入口より先は供物以外は、通れぬ。さあ、この”しるし”を疾く持ち帰るがよい」
「は、ははあ!」

 血が凝ったような赤黒く鈍く光るブローチのような物を受け取るや、地面を舐めるがごとく兵士のおじいさんは低頭し、おにいさんもそれに倣った。
 見たことのない姿だな。と引き入れられた少年は思い、そして、館の扉は音もなく閉まった

【つづく】

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むつぎはじめ
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