2016年の手記
生きるということは、何度も開く傷口をそのたびにやさしくつなぎ合わせることだ。奇跡は時々呪いになる。
呼吸も浅いまま夏と別れ、秋を待たずに冬がきた。色を失くした世界で、空気はやさしいが、寄り添ってはくれない。
僕は試されている。
壊れた蛍光灯の下でページをめくる。
まだ風の生ぬるい9月、由比ヶ浜で、知らない人が灯す花火を見ていた。そこは水平線も見えない真っ暗な夜の底で、潮の香りに目眩がした。500mlの缶チューハイではたいして酔えない。波の音が轟々と響くのが怖くて、べたつく髪が頰にまとわりつくのが不快で、ひとりで小さく毒吐いた。
結局、「変わったね」という言葉が僕を変えていたのだ。変化は必ずしも進化じゃない。自分の棄てたものさえ忘れてしまう僕だから、君が笑って言った「相変わらずだね」の一言で、相変わらずな自分に戻ってしまう、こんなに簡単に。
知らないふりをすることだけが僕の唯一の特技だった。 浅い思い遣りなんて、猫の餌にもならない。
評価や視線が苦手なのは昔のままで、いつだって怯えているし、強くもやさしくも賢くもなれていない。きっと愛し尽くす前に冬は終わるだろう。
春が嫌いな、そんな僕でも、誰かのばらばらになった心の破片を探せるだろうか?
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