KOKI

人生はノンフィクションの散文詩

KOKI

人生はノンフィクションの散文詩

最近の記事

2020年の手記

眠れないまま明けた朝を煙草で誤魔化して、馬鹿だった私は甘い地獄に居続ける方法を必死で探していた。割れたガラスの破片を適当に集めながら、言い訳の代わりに花を飾る人生で、夜明けに射す光を無垢に信じていた。 全部が過去形。それでも、心の皮を一枚づつ剥いでは海に浮かべて、じっと春を待ったあの虚しさのことを、まだ愛してる。 太陽みたいな人のために雨になりたかったただけの長くて短い季節だった。もう、思い出さない。 消えゆく三月に。

    • 歌集「青猫の像」

      2021年11月5日から7日の3日間、 初めての個展を開催しました。^ ^ 開催に際し、今までどこにも公開せず細々と詠んできた短歌をまとめ、歌集を出版しました タイトルは「青猫の像(せいびょうのかたち)」。 萩原朔太郎氏の詩「舌の無い眞理」からお気に入りのワンフレーズを拝借致しました。 処女作であるその歌集から、いくつか抜粋して掲載します ------------- だから、貴方を愛せない。五十二ヘルツの鯨はまだ生きている 美しいと思うものだけ一心に集めた筈のがらくた

      • この街

        この街のいちばん古い記憶。 革のひび割れたソファの上で白衣姿の祖父の背中を眺めている。 読み飽きた絵本の手触り。あまいトローチ。消毒液の匂い。 小学校に上がる前の私に、大人にするのと同じような言葉で話しかけてくる祖父が苦手だった。 高円寺はいつも静かで、寂しくて、つめたい香りがした。 15歳になり、この街の寂しさの理由を知った私は滑稽な自己投影をするようになった。臭い古本屋で買った中古の学ランを着て、喫茶店の背の低いテーブルに膝を乗せ、むずかしい詩集をドヤ顔で読んだ。そんな

        • シド

          冷え切ったキャラメルを口の中で融かす。真白い壁を睨みつける。ピアスホールを開けた冬の25時を思い出す。踵がすり減った赤い厚底のパンプスを思い出す。なにもかもがそれだけで、どこにも居場所がなくて、誰からも嫌われて誰もを嫌って、友達がライブ会場にしかいなかった、大事な青春を思い出す。やさしくて幼い記憶で心に傷を付ける。喉に絡まるあまい絶望に魘される。意味もなく涙が出る。もう何も、何ひとつも残ってないけど、帰る場所があってよかったって、思う、きっとこれは、悪あがきみたいなものだけど

        2020年の手記

          2017年の手記 改作

          ㅤ惑星は呼吸をしないということをもう随分前から忘れていた気がする。幾年ぶりかに、星が空を滑るのをみた。 死んだ星が願いを叶えるなんて、つくづく笑える。 飛び降りるために開けた窓から見えた空が美しく思えてしまう私の根っこは、至って健康的にこの地と精神とを繋いでいる。 彼と私は仲が良かった。そのことは誰も知らない。 一度だけキスをした。私がつまらないことで泣いたので、慰めのつもりだったのかもしれないが、色めくものは何も無かった。お互い一緒にいるときは最大の理解者のような顔をす

          2017年の手記 改作

          2016年の手記

          生きるということは、何度も開く傷口をそのたびにやさしくつなぎ合わせることだ。奇跡は時々呪いになる。 呼吸も浅いまま夏と別れ、秋を待たずに冬がきた。色を失くした世界で、空気はやさしいが、寄り添ってはくれない。 僕は試されている。 壊れた蛍光灯の下でページをめくる。 まだ風の生ぬるい9月、由比ヶ浜で、知らない人が灯す花火を見ていた。そこは水平線も見えない真っ暗な夜の底で、潮の香りに目眩がした。500mlの缶チューハイではたいして酔えない。波の音が轟々と響くのが怖く

          2016年の手記