見出し画像

手話から生まれる自然な生活文化の風景を探して|ホームビデオ鑑賞会2023

めとてラボ」は2022年4月より東京アートポイント計画のアートプロジェクトのひとつとしてスタートしました。視覚言語(日本手話)で話すろう者・難聴者・CODA(ろう者の親を持つ聴者)が主体となり、一人ひとりの感覚や言語を起点とした創発の場(ホーム)をつくることを目指したラボラトリーです。コンセプトは、「わたしを起点に、新たな関わりの回路と表現を生み出す」こと。素朴な疑問を持ち寄り、目と手で語らいながら、わたしの表現を探り、異なる身体感覚、思考を持つ人と人、人と表現が出会う機会やそうした場の在り方を模索しています。

めとてラボの活動のひとつ「アーカイブプロジェクト」では、「手話から生まれる自然な生活文化の保存」をテーマに、手話やろう者の生活文化の新たなアーカイブ手法とその活用についてリサーチやディスカッションを重ねています。
2022年度は、「ホームビデオ」に着目し、ろう者の家庭で撮影されたホームビデオに記録されているろう者の自然な姿や会話のやりとりの様子を見ながら、めとてラボメンバーと語り合う会を開催。

2023年度には9月と12月の2回、2組のご家族にご協力いただき「ホームビデオ鑑賞会」の公開イベントを開催しました。
今回は、2023年度に取り組んだ2つの鑑賞会の様子について、めとてラボメンバー・根本和德がお届けします。

根本和德は、現在、福島在住。手話やろう者の生活文化の新たなアーカイブ手法とその活用について興味関心を持ち、「めとてラボ」では、アーカイブプロジェクトなどを担当。個人でも、文章から想起された心象風景を手話で表現し、おすすめの書籍をSNSで発信する活動を行うなど、手話の可能性を模索している。

※本記事に掲載する動画には字幕がありません

ホームビデオ鑑賞会とは

みなさん、こんにちは。めとてラボの根本です。「アーカイブプロジェクト」の担当をしています。
2023年度は2回「ホームビデオ鑑賞会」を開催しました。「ホームビデオ鑑賞会」とは、ろう者の家庭で撮影されたホームビデオを、そのホームビデオに映っているご本人にゲストとしてお越しいただき、一緒に鑑賞するというものです。
例えば、家の中で食事をとっている風景や、兄弟、姉妹、親子などの自然な会話のやりとりの様子を、参加者と共に見ながら語り合います。
2023年度は、井岡さんと那須さんという2組のご家族にご協力いただき、開催しました。それぞれのホームビデオ鑑賞会では、「なるほど!」と新しい発見もありました。今回は、その2つの鑑賞会の様子をまとめてご紹介します。

9月2日 井岡さん家のホームビデオ鑑賞会

まずはじめに、「井岡さん家のホームビデオ鑑賞会」です。
めとてラボのメンバーである那須穂のお母さん・岩泉由美子(井岡さん家の姉)さんと叔父さん・井岡一雄さん(井岡さん家の弟)をゲストに迎え、お二人の幼い頃の様子が記録されたホームビデオを鑑賞しました。

そこには、たくさんの家の行事の風景が映っていました。例えば、節分や七五三などです。井岡さん家では、毎行事を家族一丸となって行うそうです。こどもの頃から一つ一つの行事を大切にし全力で楽しむこと、それがとても大切なことだとご両親から教わったのだと、岩泉由美子さんは語られていました。映像を見ていても、とても楽しそうに行事をされていて、こうして家族みんなで行事に取り組むことで、家族の絆が深まっていくのだなと感じました。

それから、井岡さんの姉弟のお母さん(那須穂にとっては祖母)は9人兄弟で、そのうち半分がろう者で、半分が聴者だったそうです。当時(特に女性)は、学校に行くことができず文字を書くことが難しく、家事をやることが当たり前の時代でした。そうした背景のなかで、家の中でのコミュニケーションはどのように取っていたのかというと、「ホームサイン」というものを編み出してコミュニケーションしていたそうです。

「ホームサイン」とは、家族間だけで使われる言語で、他のろう者には伝わらない、井岡さんの家族の言葉です。映像を見ていると、これはわからないな、なんだろう?という表現が出てくるのですが、その映像や姉弟の対話から、これがホームサインか!と、いろいろなホームサインがあることに気づいていきました。

ろう者や聴者も関係なく、家族で楽しくおしゃべりができる方法だったというお話も伺い、家族という関係性や生活のなかで育まれてきたコミュニケーションの在り方について、とても学びのある時間となりました。
同じく「アーカイブプロジェクト」担当の那須穂にとっても、今回の鑑賞会を通して、過去の喜びや成長を振り返る貴重な時間となり、改めて家族同士のコミニュケーションの大切さを感じていたようです。

ゲスト:岩泉由美子(姉|写真左)と井岡一雄(弟|写真右)
壇上の右側が、那須穂

12月16日 那須さん家のホームビデオ鑑賞会

続いては、「那須さん家のホームビデオ鑑賞会」です。
ゲストに、那須善子(母)さんと那須元紀(息子)さんをお迎えし、元紀さんの0歳から小学校に入る頃までの様子が収められたホームビデオを鑑賞しました。

映像を見ながら、さまざまなエピソードを共有してくれました。
中でも印象的で面白いなと思ったエピソードは、ある日、お父さんと幼い元紀さんが外を歩いていた時のこと。元紀さんが突然、両手のひらをお父さんの方に向けて見せてきた(上記YouTubeの画像のように)そうです。最初は、なんだろう?とお父さんはわからず、また歩きはじめると、再び元紀さんが同じ表現を繰り返し、繰り返し示すのだそう。実は、元紀さんが両手で表していたのはBMWの車のエンブレム(車体の前方についているマーク)でした。まだ、手話での伝え方がわからなかった元紀さんが、お父さんになんとか伝えようと、見て、考えて表現していた方法だったのだ、というエピソードを伺って、興味深いなと思いました。
あと、ビデオカメラで撮影しようとするとき、元紀さんは、ビデオカメラに付いている可動式の小さなモニター画面を自分の方に向けて、自分がどう映っているのか確認していたというエピソードなどもはじめ、視覚的にものごとを捉えているたくさんのエピソードを共有いただきました。

ゲスト:那須善子(母|写真右)さんと那須元紀(息子|写真左)
幼い頃の元紀さんが映っているホームビデオを鑑賞しながら、親子の視点を交えて語り合いました

2023年度の手応えと今後の取り組み

ここまで、井岡さん家と那須さん家の2組のホームビデオ鑑賞会の様子をご紹介してきました。振り返ってみても、本当に面白かったです。
ゲストご本人の姿や語りを見るだけでなく、これまでご本人が見てきた風景や記憶が記録されたホームビデオを一緒に見ながら、その目の前で直接お話を伺えるというのがとても良かったなと思いました。なぜなら、そこから自然な生活文化がだんだんと見えてくるからです。このように、ろう者の生活文化を知り、考え、新たな発見を参加者と共有していくことがとても大切で、必要なことだなと改めて感じました。

◼️2024年度に向けて

2023年度は、ホームビデオをお持ちかどうかなど個別にご相談し、鑑賞会を実施してきました。
2024年度は、この活動をもっと幅広く知っていただきたい、いろいろな人と活動を共にしたいと考え、ろう者のご家庭のホームビデオを募集する方法を計画中です!どうぞお楽しみに!

最後になりましたが、改めて、2023年度ホームビデオ鑑賞会にご協力いただきました井岡さんご一家、那須さんご一家のみなさまに御礼申し上げます。

【「めとてラボ」noteについて】
このnoteでは、「めとてラボ」の活動について、実際に訪れたリサーチ先での経験やそこでの気づきなどを絵や動画、写真なども織り交ぜながらレポートしていきます。執筆は、「めとてラボ」のメンバーが行います。このnoteは、手話と日本語、異なる言語話者のメンバー同士が、ともに考え、「伝え方」の方法も実験しながら綴っていくレポートです。各回、レポートの書き方や表現もさまざまになるはず。次回もお楽しみに!

関連記事