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ファンファンの拠点「藝とスタジオ」へあそびにいく

めとてラボ」は、視覚言語(日本手話)で話すろう者・難聴者・CODA(ろう者の親を持つ聴者)が主体となり、一人ひとりの感覚や言語を起点とした創発の場(ホーム)をつくることを目指したラボラトリーです。
コンセプトは、「わたしを起点に、新たな関わりの回路と表現を生み出す」こと。素朴な疑問を持ち寄り、目と手で語らいながら、わたしの表現を探り、異なる身体感覚、思考を持つ人と人、人と表現が出会う機会やそうした場の在り方を模索しています。

2023年6月25日にファンファンの活動拠点である「藝とスタジオ」のオープンスタジオの企画にめとてラボがゲストとして呼ばれ、参加してきました。
今回は、「藝とスタジオのひらきかたを考える」「言語を超え他者と出会う」をテーマとしたワークショップを行いました。
その様子を、めとてラボメンバー 根本和德 と 勝野崇介 がお届けします。

根本和德は、現在、福島在住。手話やろう者の生活文化の新たなアーカイブ手法とその活用について興味関心を持ち、「めとてラボ」では、アーカイブプロジェクトなどを担当。個人でも、文章から想起された心象風景を手話で表現し、おすすめの書籍をSNSで発信する活動を行うなど、手話の可能性を模索している。

勝野崇介は、現在、東京在住。遊びから見えてくるこどもたちの生活文化や発想に焦点をあて、誰もがありのままの自分を出せるアソビバを模索している。「めとてラボ」では、キッズプログラムを主に担当。その傍ら、0歳から2歳の遊びを通したコミュニケーションコンサルタントとして活動中である。

◾「学びの場」を生み出すファンファンの活動

まず、ファンファンとは、「ファンタジア!ファンタジア!ー生き方がかたちになったまちー」の略称で、運営メンバーをはじめみなさんからそう呼ばれているそうです。
「墨東エリア」と呼ばれる墨田区北東部でファンファンはスタートし、墨東エリアに住む人々がアーティストや研究者との出会いを通じて、豊かに生きるための創造力を育む「学びの場」を生み出す試みを実践しています。他者との対話で生まれる気づきを通して、自分自身の想像の幅を広げ続け、自分のなかの常識や「当たり前」を解きほぐす小さな実験を仕掛けている魅力的なプロジェクトです。
ファンファンの活動拠点である「藝とスタジオ」では、さまざまな人々に活動を楽しんでもらうために定期的にオープンスタジオを開催しています。

【「め」と「て」で伝わり合う世界へ】

そんなオープンスタジオで、めとてラボによるワークショップを行いました。
まず、アイスブレイクとして『SHAPE IT!』を参加者のみなさんとやりました。
さまざまな大小の形、模様、色のパーツを机の上に散りばめ、ツタエテがカラダを駆使して、机の上にある形から生まれるイメージをウケテに身振り手振りで伝えていくというコミュニケーション・ワークショップです。

今回の参加者は、音声言語のみで過ごしている人がほとんどです。
ワークショップでは、これまで音による情報で不自由なく過ごせていた環境から、突然、音に頼らない世界に切り替わり、音声を使わないコミュニケーション方法に触れることになりました。
そんな環境のなかで、最初は参加者も戸惑いの表情をみせていましたが、
次第に目で捉えることに慣れてくると、ツタエテが伝えようとしている形のイメージと机上に散りばめられた色とりどりの形が徐々にリンクしていく様子がみられるようになりました。

 言いたいことがわかったよというような首振りを示す人
 OKサインを示すジェスチャーを出す人
 指さしで意図を伝えようとする人

参加者同士で、身体を使ったさまざまな方法でコミュニケーションが図られるように変わっていきました。

【自分のイメージを相手に伝える】

次に、自分の手で自分のイメージを伝えてもらいました。
例えば、「桃太郎」を「め」と「て」だけで伝えるにはどうしたら良いのか?
イラストや文字で伝えれば、すぐに「桃太郎」のことを伝えたいということがわかるかもしれません。
しかし、今回は音声でもなく、イラストや文字で伝える方法でもなく、
「め」と「て」だけでいかにして伝えるかがテーマとなっています。
参加者は聴者がほとんどです。
聴覚優位で生活している人にとって、
「め」と「て」で何かを伝えることは、あまり日常的な行為ではありません。
だからこそ、参加者はなんとか伝えようと
頭のなかをフル回転させながら
空描きのように指で形を伝える、そんな様子もみられました。

『SHAPE IT!』のワークショップを積み重ねるごとに、参加者の伝え方にも変化がみられるようになりました。
最初は理解しようと読み取るのに精一杯な印象でしたが、だんだんと慣れてくると必要に応じて頷きによる相槌を打つようになったり、理解しているよとOKのサインを示したり、反応の仕方にも変化がみられました。さらに、伝えるという点においては、自分のイメージを伝える方法が指さしのみと限定的だったものが、徐々にジェスチャーなどの自分の持つイメージを身体で伝えようとする伝え方の姿勢にも変化がみられました。
同じ物をみているとはいえ、イメージしているものが人によって違うのだということをはっきりと実感できたのではないかと感じています。

【お互いのイメージを擦り合わせていくことからはじまる】

コミュニケーションを取るうえでお互いのイメージを擦り合わせていくことは、とても大事な要素だと思っています。
ワークショップの最後は、形から連想できるものを少しずつ出していきながら、そのイメージを擦り合わせるということを体感してもらえるようなワークを行いました。

ファンファンの青木さんと、めとてラボの根本とのやりとりです。

本を確かめた後「この本、青木さんがつくったの?」「そうそう」
みんなに向かって「この本、青木さんがつくったんだって!すごいね!」
本をめくった後「いくらするの?」「〇△×※…」
「え、もしかして無料?」(ほんとかな…)
「0円?」「そう、0円だよ」(合ってた!)
「そしたらもらっちゃっても?」「どうぞどうぞ」
みんなに向かって「え、まじかよ」
「みんなに配っても?」「どうぞどうぞ」
みんなに向かって「これはすごい!みなさん拍手を!」

青木さん(左)がつくった本を根本(右)が見ている様子
「この本つくったんだって!すごいね!」という根本の様子

このように、お互いに形や動きからイメージを少しずつ伝え合いながら、「合ってるかな?」「伝わった!」とやりとりを重ねて、すり合わせていきます。こうしたイメージを擦り合わせていくプロセスが、きっと、伝わり合うことの第一歩になるのだと思います。

今回のワークショップを通して、「め」と「て」、身体から生まれる世界を、イメージを、目に見える形で触れることができたのではないでしょうか。また、一度では伝わらないことが当たり前だということに気づき、それを実感することで、そこから対話がより深まっていくことを感じてもらえていたなら嬉しいです。短い時間でしたが、わたしたちも参加者一人ひとりが持つ文化的背景が、垣間見えたような気がします。
こうしたお互いのイメージを擦り合わせていくコミュニケーションが、言語を超えて他者と共存できる場、新たな文化が生まれる場へとつながっていくのではないかなと感じています。

改めて、このような「め」と「て」で出会う機会をつくってくださったファンファンのみなさま、ありがとうございました。
実は、ファンファンのみなさまとは、今回のワークショップで終わらず、いつでもひらかれた場であり続けるために、一緒に「コミュニケーションキット」をつくろう!と話が弾みました。今後どんなアイデアが生まれるのか、これからの関わりもとても楽しみです。

最後に・・・
ファンファンチームの視点から綴られた【公開ミーティング】「藝とスタジオのひらきかたを考える『言語を超え他者と出会う』」実施レポートも公開中です!
ファンファンのみなさんにとって、どのような発見があったワークショプだったのでしょうか。ぜひ合わせてご覧ください!

【「めとてラボ」noteについて】
このnoteでは、「めとてラボ」の活動について、実際に訪れたリサーチ先での経験やそこでの気づきなどを絵や動画、写真なども織り交ぜながらレポートしていきます。執筆は、「めとてラボ」のメンバーが行います。このnoteは、手話と日本語、異なる言語話者のメンバー同士が、ともに考え、「伝え方」の方法も実験しながら綴っていくレポートです。各回、レポートの書き方や表現もさまざまになるはず。次回もお楽しみに!

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