見出し画像

俳優演出【入門】:【キャラクターがどのように世界を見ているか】の提示/補足

【シナリオに書かれた事に対する指示としてベストではない】

とは、どういう意味でしょうか?

キャラクターがどのように世界を見、他の人を見、行動しているのか。
いわゆる性格を形成するための手段です。これをしっかりと確立することで役者はいちいち監督の指示を仰がなくても自分で考えて行動できます。

なんども言いますが『〜だと思う』は、完結した感想であり、行動原理とはなりません。

では『平日にわざわざ婚約者が晩ご飯を作りに来てくれた』 というシュチュエーションを具体的にシナリオとして見ていきましょう。

⚪️Aの家 玄関/午後10時頃/内
 鍵を開けてAが入って来る。手にはカップラーメの入ったコンビニの袋。
 うっすら開いたキッチンの扉から灯りが漏れている。驚て目をこらすA。
B「お帰りなさい!」
 キッチンの扉が開き駆け寄ってくるB。
A「びっくりした…。今週は仕事で忙しいんじゃなかったの?」
B「ちょっと手が空いたから。(Aの荷物を引き取り、キッチンに戻りながら)どうせ、あなた、忙しさにかまけてロクな物食べてないんじゃないのかと思って、作りに来ちゃった。」
 A靴を脱いで、Bの後についてキッチンへと向かう。


さて、ここだけではAが何を考え、どのような表情をしているのか想像できません。しかし、役者は画面に写っています。どのような指示を出せば良いのでしょうか?

ここでは【嬉しくて、相手にも喜んでもらえる事を考え始める】という設定でキャラクターを動かしてみましょう。もちろん、上記の指示はNGです。

まず、役者に与える指示の順番として以下になります。

①ストーリーが何であるか(何についての映画なのか)
②ストーリーを通しての主人公の目的(スーパーオブジェクティブ)
③キャラクターがどのように世界を見ているか(キャラクター形成)
④各シーンの登場人物の目的(オブジェクティブ)
⑤そのシーンに至るまでのファクト

ここで、ファクトを補足。

・Aは30代、一人暮らし
・婚約者とは付き合って7ヶ月ほど、婚約して一ヶ月
・最近、仕事が忙しく疲れが溜まっている

もちろん、ファクトは役者と話し合いながら、足りないと思えば増やしていきましょう。

・BはAにとって、初めての恋人であり、やっとできた、婚約者。
・二週間ぶりに会う etc...
(ここでいう”増やす”は情報公開の分量のことであって、その場で考えることではありません

⚪️Aの家 玄関/午後10時頃/内
 鍵を開けてAが入って来る。手にはカップラーメの入ったコンビニの袋。
 うっすら開いたキッチンの扉から灯りが漏れている。(今朝、電気を消す  
 忘れたかな?と、思う)
驚て目をこらすA。
   (いや、誰か人のいる気配がする。泥棒が入っているのか?と、思う)
B「お帰りなさい!」(声に驚く)
 キッチンの扉が開き駆け寄ってくるB。
A「びっくりした…。今週は仕事で忙しいんじゃなかったの?」(Bの顔を見てほっとする)
B「ちょっと手が空いたから。(Aの荷物を引き取り、キッチンに戻りながら)どうせ、あなた、忙しさにかまけてロクな物食べてないんじゃないのかと思って、作りに来ちゃった。」 (嬉しさに感動する。癒されるような感じ。)
   A靴を脱いで、Bの後についてキッチンへと向かう。
   (ワクワクしながらキッチンに向かう)

さて、括弧に入った太字は役者への指示です。
おそらく、みなさんこんな風に指示してしまうのではないでしょうか?
もちろん、上記は悪い例です。

『〜と思う』から始まり『驚く』『感動する』という完結の動詞、あまつさえ『癒される感じ』という、意味のわからない"感じ”なんかが出てきます。
実はこれらは通常会話ならなんら問題ない形容、説明です。言葉というのは人々の共通認識によって成り立っています。ですので、言葉で説明されれば Aがどのような状態だったかは【理解 】出来るのです。

演技の難しいところは状況が【理解】 できても演技のデティールに直接はつながらないところです。それでは、どのように役者に指示を出すのがベストなのでしょうか?

それは【オブジェクト指示】 です。
次回、演技指導の肝、オブジェクト指示について解説します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?