気象大学校進学メリット・デメリット

これまで気象大学校の概要、受験方法、入学難易度などについて解説してきた。

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今回は気象大学校に進学するのにはどんなメリットがあるのかを、一般大学へ進学した場合と比較しながら考察してみたい。

気象大学校進学のメリット

①気象庁で働くことが確約される

以前の記事で述べたように、気象大学校入学は気象庁職員としての採用となる。
したがって、将来、気象庁に勤めたいという明確な目標がある人、地球惑星科学(気象、地震、火山など)や防災行政に関わる仕事に就きたいと夢を持っている人にとっては、その夢の実現が確約されるということである。

一般の大学に進学した場合、気象庁で働くためには、大学卒業もしくは大学院卒業時に国家公務員採用試験を受験して合格する必要がある。
その場合は大学に通いながら公務員試験の勉強をする必要があるため、気象庁で働くという明確な目標がある場合は、気象大学校に入学するのが一番の近道だといえる。

なお、気象大学校4年次に、国家公務員総合職(いわゆるキャリア官僚)の試験を受けて合格すれば、総合職へ任用変更することが可能なので、将来的に総合職の仕事がしたいという人も気象大学校という選択肢を考えても良いと思う。

②入学直後から専門分野を学べる

気象大学校では入学直後から地球惑星科学にかかわる専門分野の授業がはじまる。もともと、気象、地震、火山等に興味がある人にとっては、早い段階から専門分野を学べることは大きなメリットであろう。

一般の大学においては、1年、2年次は一般教養の授業が多くなることから、専門分野の勉強開始が遅くなる。また、東大などの場合、地球惑星科学を専攻するためには、入学後に進学振り分け制度を経る必要があるが、1年次、2年次の成績によっては地球惑星科学系の学科を専攻できない可能性もある。

なお、気象大学校は文部科学省所管の大学ではないが、卒業すると一般の大学を卒業するのと同様で学士(理学)の学位を取得することができる。

③手厚い指導を受けることができる

気象大学校は定員60名に対して、専任教官が約25名、他大学等からの非常勤講師もいる。教官1名あたりの生徒数が少ないと言う事は、手厚い指導を受けることができるということだ。

特に最終学年の卒業研究では、気象学、地震火山学、地球環境科学など各分野の教官からマンツーマンに近い指導を受けることができる。

一般の大学ではゼミに所属して卒業論文を提出することとなる場合がほとんどだと思うが、教授の指導は受けることはできるものの、気象大学校の場合のような、マンツーマンに近い指導は難しいと思われる。
ただし、一般の大学の場合は、大学院に進学することで、特定の教授や特定の研究室で自分の学びたい分野をじっくり研究することが可能といえる。

④金銭面に余裕が生まれる

(1)学費がかからない
気象大学校は気象庁職員の教育機関であり、入学料、授業料が不要である。
必要なのは授業に利用する教科書代などだけである。

一方、一般の大学は当然入学金、授業料が必要となる。
例えば某国立大学であれば入学時に入学料282,000円。授業料が年額535,800円×4年=2,143,200円が必要となる。

つまり、気象大学校に進学した場合、国立大学に進学した場合と比較して、4年間で入学料、授業料合計242万円の支出が不要となる。

(2)生活費を抑えることができる
気象大学校には敷地内に「智明寮」という学生寮が設置されており、学生は入寮することができる。

寮費は自治会費等々で年間1万円ぐらいの個人負担はあるものの、水道光熱費は無料。通学も徒歩1分で電車賃もかからない。その他に生活にかかる費用は基本的には食費と携帯電話料金ぐらいである。

一般の大学においても学生寮はあるが、大学運営のものでも寮費・光熱費・通学費用は必要となる。また、民間運営の学生寮やアパートでの一人暮らしを選択した場合、家賃・光熱費・通学費用だけで毎月10万円近くは必要となるだろう。

単純に考えても、気象大学校に進学すると一般の大学に通うのに比べて、毎月10万円×12カ月✖4年間=480万円の出費が抑えることができる。

(3)給与がもらえる
気象大学校の学生は学ぶことが仕事である。したがって、入学(採用)した月から給与が貰える。

気象大学校の学生は国家公務員の行政職俸給表(一)5号俸の給与が支給される。給与を試算してみよう。

【月額給与試算】
令和5年4月1日時点の行政職俸給表(一)5号俸 月額154,600円。
千葉県柏市の地域手当は6%と定められているので、154,600円×6%=月額9,276円が手当として加算。

合計月額163,876円(年額1,966,512円)

また、いわゆる民間企業のボーナスにあたる期末手当・勤勉手当が1年間に俸給等の4.40ヶ月分(令和4年度)が支給される。

【期末手当・勤勉手当試算】
月額給与163,876円×4.40ヶ月=年額721,054円

年収(額面)を計算すると、1,966,512円+721,054円=2,687,566円。
4年間で約268万円×4年=1,072万円の給与・賞与が支給される。

もちろん、一般の大学に入学した場合でも、アルバイトをおこなえば収入は得られるだろうが、学業に専念したうえで、給与が貰えるというのは、かなりのメリットだと言える。(ちなみに、気象大学校の学生は国家公務員であり、アルバイトはできない。)

以上の(1)(2)(3)の金額を合計すると約1800万円となる。
気象大学校に進学すると大きな金銭的メリットが得られるのである。

⑤濃密な人間関係が築ける

気象大学校の学生数は4学年で定員60名であり、1学年の平均学生数は15名程度である。少人数であるからこそ、学校生活、寮生活、サークル活動を通じて、否応なしに先輩・後輩・同期との繋がりは深まっていく。

また、教官一人あたりの学生数は一般の大学よりも小さく、教官との距離も近い。

気象大学校卒業後も同じ気象庁職員として働くことも考えれば、学生時代にこういった濃密な人間関係が築けることは大きなメリットであろう。

気象大学校進学のデメリット

①自分で仕事を選ぶことができない

気象大学校卒業後、気象庁職員として本庁や地方気象台などに配属され、気象、地震・火山、海洋等の観測、予報、防災、調査、技術開発等の業務に従事することとなる。一般的には地方の気象台で数年勤務して、管区気象台や気象庁本庁で勤務するようである。

組織の一員として仕事が与えられるので、例えば特定の分野の研究がしたいと希望していても、気象研究所などの研究に携われる部門に配属されるとは限らない。

②学べる分野が限られる

気象大学校のカリキュラムには教養課程もあるが、一般の大学よりも選択できる授業は少なく、学べる分野は限られてしまう。例えば、第二外国語はフランス語か中国語のどちらかしか選べない。

気象庁職員の教育機関であるから、当然、専門分野は気象業務の基礎となる数学、物理、化学などの理系基礎科目と、気象学、地震・火山学などとなる。選択科目もあるが、ほとんどが決められた授業となる。

したがって、例えば東大のように専門分野以外の一般教養の授業を色々受けてみたい、専門分野もその後に決めたいという人については、一般の大学に進学した方がよいだろう。

③大学院がない

気象大学校には大学院がないことから、卒業後、大学校にとどまって研究を続けることはできない。

卒業研究で専門的な研究を行うことから、引き続き研究を行いたいという人もいるだろうが、卒業後は気象庁職員として基本的には気象庁の業務に就くこととなる。(いずれ気象研究所等に配属されて再び研究に携われることはあるかもしれない)

どうしても研究が続けたいという場合は、気象庁を退職して、他大学の大学院に進学することとなるが、気象大学校で学びながら給与を支給されてきたことを考えるとあまりおすすめできない選択肢ではある。

なお、気象庁職員として一定期間勤務した後は、国家公務員の自己啓発等休業制度を利用して、2年もしくは3年間休業することができる。実際に気象大学校卒業者で当該制度を利用して留学したり、大学院で博士号取得している人もおり、活用を考えても良いだろう。

④長期休暇が短い

一般の大学では夏季休業が2ヶ月、春季休業が1ヵ月あることと比較すると気象大学校における長期休暇は短い。
7月下旬から8月までは夏期学修期間として通常授業は行われないので、実習がある期間を除いて年休暇を取得することができるが、年次休暇は20日までとされている。

ただし、「就職活動をしなくてもよい」、「アルバイトをしなくてもよい」、「(入寮した場合)通学に時間がかからない」ということから、日々の生活に関しては一般の大学に通うよりも、時間的な余裕があるとはいえるだろう。

⑤新たな人と出会う機会が少ない

知識・見聞を広げて豊かな人生を歩むという点においては、学生の間に色々な人との出会いが不可欠だと言えるが、気象大学校では学校内で濃密な人間関係が築ける一方、学校・寮中心の生活で、アルバイトもできないとなると、どうしても新たな人と出会う機会が少なくなってしまう。

この点を解消するためには、例えば興味のある分野や趣味でインカレサークル、社会人サークルに参加する、ボランティア活動に参加するなど、自らが意識的・主体的に行動することが大切となってくるだろう。

まとめ

あえて意識的に記載したが、気象大学校進学のメリットは、反対に考えればデメリットになっている。実際の進学決定にあたっては、結局は何を優先するかということになるだろう。

将来、気象庁で働きたい人や、早い段階から地球惑星科学などの専門分野を学びたいという人にとっては気象大学校進学が一番の近道である。

また、家庭の事情などで金銭面の負担を抑えたい、早く自立したいと思うのであれば、気象大学校進が良い選択となるだろう。

大学では幅広い分野を学びたい、専門分野も入学してからじっくり決めたいという人や、長期休暇や自由な時間を使って、色々な人に出会ったり、色々な経験をしたいという人は、一般の大学への進学を選択した方が良いかもしれない。

本記事が気象大学校に興味を持っている受験生の参考となれば幸いである。

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