気象大学校の概要

気象大学校の存在を知っている人が世の中にどれぐらいいるだろうか。名前すら聞いた事がない人がほとんどで、名前は聞いた事があってもどういう学校なのかを知っている人は身内に気象庁出身の人がいるか、気象に強い興味を持っている人だけであろう。

そんな知る人ぞ知る気象大学校であるが、知らない人に一言で説明するなら

「地球惑星科学を学びたい、仕事にしたい人にとって最高の学校」

である。

本記事を通して気象大学校の魅力を紹介すると同時に、受験制度、難易度などについてもお伝えしたい。中高生、大学受験生の方の進学先の候補、志望校のひとつとして考えていただけると幸いである。
(なお、気象大学校の受験資格は高卒2年以内(いわゆる2浪まで)となっていることに注意)


気象大学校って何?「大学」なの?

気象大学校(千葉県柏市)は文部科学省所管の学校ではなく、国土交通省所管の学校である。

気象大学校は、気象庁の職員(気象大学校学生を含む)に対して気象業務に従事するために必要な教育及び訓練を行う気象庁の施設等機関です。気象大学校には将来の気象庁の中核となる職員を養成するための大学部(修業期間4年)、全国の気象官署に勤務する職員に対して気象業務に必要な専門の知識及び技術を教授するための研修部(修業期間1年以内)を置いています。

気象大学校HPより

つまり、気象大学校は一般の「大学」ではなく、気象庁職員が教育・訓練を受けるために設置された気象庁の機関なのである。

気象庁HPより

前述の引用のとおり気象大学校には「大学部(修業期間4年)」と「研修部(修業期間1年以内)」があるが、「研修部」では一般的に大卒・大学院卒で気象庁に入庁した人が短期間で教育を受けるのに対して、「大学部」は高卒で入学して一般の大学と同じ期間(4年間)をかけて教育を受けることとなる。
「大学部」は4学年合計60名が定員となっており、一般の大学とは違ってかなりの少人数であるが、教官が約25名おり、かなりの密度で勉強に打ち込める環境が整えられている。以降、本記事では「大学部」について記述する。

気象大学校では何を学ぶ?

気象庁職員の教育機関であるから、当然、気象庁の業務に関連する分野を学ぶこととなる。

大学部では、学生採用試験によって国家公務員として気象庁に採用された職員(学生)に対して、気象業務の基盤となる地球科学、基礎学術、一般教養に加えて、防災行政など気象業務への理解を深める科目を教授しており、将来の幹部職員として必要な知識・技術を身に付けて、気象業務に関する技術開発や企画・指導を行うことのできる人材を育成しています。

気象大学校HPより

具体的な授業は教養、基礎、専門の3系列で構成される「教育課程」と気象庁職員として必要な知識を習得するための「特修課程」がある。

「教育課程」の専門系列では気象学、地震火山学、地球環境科学など気象業務に密接に関連した専門的な教育が受けられる。一般大学では入学時は一般教養科目が多く、学年がすすむにつれて専門科目が増えてくるカリキュラムが多いと思うが、気象大学校の場合は1年次から専門分野をどんどん学んでいく形である。
また、「教育課程」は大学設置基準に基づいており、一般の大学の学部と同等水準と認められており、気象大学校を卒業すると学士(理学)の学位が授与される。

気象大学校案内パンフレット(2022)

教育課程の科目を見ると、教養科目については一般の大学と比べると選択できる授業の種類は少ないものの、外国語、第二外国語のほか文系の授業がいくつか選択できる。
基礎科目については数学、物理、化学、情報処理など気象学の基礎となる理系科目をがっつりと学んでいる。
専門科目では気象、地震、火山など地学系の専門的な分野を学び、4年生では卒業研究を行う。

一方、「特修課程」では気象庁業務、防災行政に必要な知識の習得のための授業が行われる。

気象大学校案内パンフレット(2022)

学びながら給与がもらえる!

気象大学校は気象庁の職員に対しての教育機関である。したがって、気象大学校学生=気象庁職員ということ。

つまり、気象大学校へ入学するということは、気象庁職員としての採用(学生採用)されるということだ。
実際、気象大学校入学のための試験は「国家公務員 気象大学校学生採用試験」となっている。ちなみに公務員採用試験なので試験は無料で受けることができる。

なお、気象庁は国土交通省の外局であることから、入学(=採用)後の正式な身分はというと「国土交通技官(学生課)」となる。

さて、くどいようだが気象大学校の学生は気象庁職員として採用される。そう、なんと学びながら給与が支給されるのだ。
令和4年時点の入学後の給与は月約15万円、年2回のボーナスも支給される。給与・ボーナスを合計すると年額では200万円を超える。
健康保険・年金については、国土交通省共済組合員に加入することとなり、両親の扶養から外れて、完全に自立した社会人としての立場となる。

なお、国家公務員として給与が支給される身分なのでアルバイトは禁止されている。

入学金、授業料など費用はかかる?

気象大学校の学生として採用されて教育を受けることとなるため、一般の大学のような入学金・授業料は発生しない。ただし、授業で利用する教科書代は自費での購入となる。

気象大学校の敷地内には「智明寮」といわれる寮が設置されており、学生は入寮することができる。寮費は無料、光熱費も無料である。(ただし、自治会費として年間1万円程度の負担はあるようだ)
「智明寮」は「大学部棟」といわれる気象大学校の学生用の棟と、「研修部棟」(気象庁職員の短期研修)の短期宿泊用の棟に分かれている。
学生は「大学部棟」で1部屋に上級生と下級生の2名で生活することになっているが、新型コロナ発生以降は「研修部棟」の部屋も利用して、1名1部屋での生活となっている。(令和4年度時点)
各部屋には机とベッド、クローゼット、エアコンが設置、共同スペースとして自炊場(共用冷蔵庫、IHクッキングヒーターあり)、風呂場、洗濯機・乾燥機がある。
なお、寮内には女子学生用の区画が設けられており、女子専用の自炊スペース、洗濯機・乾燥機、バス、トイレがあるとのこと。

食堂スペースもあり、以前は食堂が利用できたようであるが、現在は食堂を営業する業者がいないため、食事については自炊するか外食するほかない。

ただし、現在、「智明寮」の設備は老朽化が進んでいることから、必ずしも快適とはいえない状態にあるらしいので注意が必要。

なお、希望者は入寮せず、自宅から通学したり、アパート等を借りて1人暮らしすることもできる。

卒業後の進路は?

前にも述べたとおり、気象大学校入学は気象庁職員として採用されるということであり、当然、気象大学校卒業後は気象庁に勤務することとなる。つまり、就職活動は不要なのである。

卒業後、まず全国各地の地方気象台での勤務した後、管区気象台や気象庁本庁で勤務するのが一般的なようである。また、将来的に気象研究所に配属されることもあり、実際に研究所に所属する卒業生も少なくない。

一方、気象大学校には大学院がないことから、卒業後、大学院に進みたい人は、気象庁職員を退職したうえでの進学となる。(なお、実際に大学院に進む卒業生もいるとのことであるが、国から4年間給与を貰いながら学士号まで授与されて退職する人が増えていくと気象大学校の存在意義が無くなってしまうと懸念する。)

筆者は詳しくないのだが、気象大学校の卒業時に学士号を取得し、その後、気象庁に勤務しながら特定分野の研究を行って修士、博士号を取得される方もいる。
ひとつの方法としては、国家公務員の「自己啓発等休業制度」を利用するというのがある。この制度を使えば、気象大学校を卒業し、気象庁職員として2年以上勤務した後、大学・大学院等の修学のために休業できる。休業期間中の給与は支給されないが、修学後、気象庁職員として復職が可能となる。

「地球惑星科学を学びたい、仕事にしたい人にとって最高の学校」

今回は気象大学校とはどんな学校なのかを紹介した。
最初にお伝えした通り、地球惑星科学を学びたい、将来、地球惑星科学に携わる仕事がしたい人にとっては最高の学校だといえるだろう。

ただし、一般の大学とは違い、試験の方法や入学の仕組みが特殊である。次回はそのあたりについての説明を行いたいと思う。
進学先として興味を持ってくれた方は、ぜひ読んでもらいたい。

「気象大学校の受験方法」はコチラ


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