見出し画像

掌編‐アイノアイ

前回に続き懲りずにめげずに応募します第2回コルクラボ覆面編集者大賞のために書き下ろした作品です。初めての掌編小説ですが、少しでもいいな、応援してやろうかなと思って下さった方にはこちらのツイートをRTして頂きたいです。RT数によって審査対象となるかが決定します。
1906字

×××××

「そういえばあんたって機械なんだっけ?」
「やめてください、機械なんて低水準の無感情な物体とは同じにしないで欲しいわ……」

自然に発生されるとは思えない、淡い桃色の虹彩がこちらに鋭く向く。

「あはは、ごめん。だってあんたがAI組み込まれた擬似人間だってこと、ついつい忘れちゃうんだもん。人間か機械かでしか区別つけられない遅れた純人間で悪いね」

純人間の私はつまみの揚げ豆腐を突っつき、

「ふん……まあいいのよ。どうせあと10年としないうちに私のような擬似人間はより一般的になるわ。純人間よりも高効率で純人間と同じ解に辿り着ける私たちが」

同僚である擬似人間のアイはもろきゅうを突っつき、ハイボールを呷る。

「うーん、高効率で同じ解、かあ」

要領が良くないという自覚がある私には耳が痛い話だ。事実、アイはあらゆる仕事上の問題に適確に対処し、全ての行動に無駄がなく思われる。でもどうなんだろ、今もろきゅう掴み損ねたのはうっかり無駄しちゃったのかな、それとも「人間らしく」というプログラムのもと行われた意識的ミスなのかな。

「それさあ、解ってさ、どう効率良く出してんの?私って仕事の効率悪いじゃん、純人間にもできそうな行動のコツあったら教えてよ」

欠点を欠点と認めつつ克服を諦めない。学生時代から貫く人間的向上心は私の自慢でもある。

「……多分あなたには出来ないわ」
「ちょっ!!何でさ、やる気と向上心は自信あるんですけど」
「回路の問題ね」
「それはやる気と向上心じゃどうもならないな、お手上げだ」

そうかあ、そういうとこか。

「純人間と同じ解を導くよう設計された私の『脳』は、純人間と同じものではないわ。純人間の脳は進化の果てに恐ろしい数の細胞や神経接続を得ていた。それらを全て再現しようだなんて到底無理で、私の開発者たちはとにかく脳の機能を再現することを優先したのよ。プロセスはどうあれ、与えられた要素から人間が選ぶであろう解を最短で導く。それがAIという人工物を社会で人間とともに活躍させるという開発者たちの夢を叶えるための最適解とされたわけ」
「ああ……ふわっとしか理解できないけど、私らが余計なこと考えて遠回りしちゃうのをあんたは真っ直ぐ突き進めるんだ。いいなぁ」

そのうち私の仕事なんて書類の二度手間チェックとかの儀式的なものしか無くなるのかなと虚しくなり、ジョッキに残っていた生ビールを飲み干した。

憂さ晴らし半分人情半分で本題に斬り込んでやろ。

「んでもあんた、恋しちゃったんだっけ?」
「ええ、そのようです」
「最短ルート、見つかりそう?」
「…………。」

あら、一丁前にフリーズか。AIもフリーズすんのか?

「あなたは、恋をした時どのようにしてその後の行動を決めようとしますか?」
「どえええそりゃまた……うーん……聞かれると……何だ?散々思い悩んでみたりするけど結局その場の勢い任せになってばかりかもなあ」
「そういうことです」
「どういうことです」
「プログラム設計のもとになる純人間の行動がそんななので、そんなふにゃふにゃの解を演算モデルにしないといけないの」
「……あら、ごめんね。そうか、あんたにも出せる解出せない解が純人間並みにあるってことなのね」
「ええ、あまり完璧を求められても応えかねるわ。だってモデルの純人間が完璧でないのだから。プロセスを最適化して効率を上げられることはあっても、擬似人間のAI搭載思考回路は純人間の想起システムをベースにしたものに過ぎないとも言えるの……たとえば、純人間は文章から物事の動きの指定を読み取って物語をイメージする。私はソースコードから命令を読み取ってプログラムとして実行する。ものを読み取って実体のないものを再生してるという点では純人間も私も変わらないことをするのよ。人間は人間の経験に基づく発想しかできないのよ」
「んん……なるほどねえ。純人間が純人間として得た経験から作られたものだから、あんたの出せる解も純人間が出し得るものを超越せずあくまで純人間的な解をなるべく最短で、しかいかないのね」
「まあそうなるわね」

純人間と擬似人間。同じなのに違うし、違うのに同じって感じが強まったな。分かるようで分からないし、分からないようで分かる。
そして私はアイのコイバナを根掘り葉掘り懇切丁寧に聴取してあげた。

「……もうこんなもので充分でしょう。終電も近いですし、お開きにしましょう、今夜はありがとうございました」
「うん、こっちこそ面白いこと聞けたし、何より……恋の解、導けたら教えなよね!バッチリ記録してやるから」
「何よそれは……まあ見ててください、最短で求めてあげますから」

その解については、私とアイのみぞ知る。



#覆面編集者に投稿02 #覆面掌編部門02 #掌編小説 #短編小説  

#AI #人工知能

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?