ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー

今日は映画のレビューです。

この映画は、アメリカの小説家であるJ・Dサリンジャーの半生を描いた映画です。

わたし、サリンジャーは読んだことがありません。
大学生の頃、フィッツジェラルドのグレート・ギャツビーと一緒に購入したのに、先にギャツビーを読んでいる間に母に貸したら、いつのまにか行方不明になってしまいました。

結局、今は見つかったのだけど。
機会を逃して実家に眠ったままでいる、「ライ麦畑でつかまえて」。


そろそろいい加減読みたいな、と思ってるところに、書店でサリンジャーコーナーに出会いました。

ライ麦畑はまた今度にして、

「フラニーとズーイ」を読み始めました。

ブルーとオレンジの表紙がかわいくて素敵で、村上春樹訳だったこともあり、意気込んで手に取ってみた次第。



しかし、数ページ読んだだけで、うっかり眠りの渦に巻き込まれそうになりました。海外文学あるあるですね。


一行たりともありふれた表現はしません!みたいな、
ことどとく隙のない独特な文章で溢れていました…。
元々英文だからか、サリンジャー節なのか、一文に修飾句がやたらと入っていて、先頭で何を言っていたのか忘れてしまいます。

日本語なのに、なかなか意味が入ってこない…

電車の中でさくさく読める本じゃないってことに気づき、
スキマじゃなくて、読書のための時間を確保すべきタイプの本だ、と思い直す。

また、挫折本を増やしてしまうのか、という焦り。


ここは、モチベーションを上げるために、先に映画をみよう…
と思い、一時休戦してサリンジャーの半生を描いた映画を見ることにしました。
それが「ライ麦畑の反逆児」

星4つ以上で、評価高めだったのですが。





めちゃめちゃよかった〜。

もともと、作家を扱った映画が大好きなんですけど、これも名作でした。
物語はもちろん、テンポも、おしゃれさも満点な作品でした。
お気に入りに加えよう〜。

ちょっと調べてみると史実とは違うところもあるようですが…
映画軸で書いてみようと思います。

これをみてサリンジャーさんにより一層興味が湧きました。
サリンジャーマイブームがきそうです。


◇サリンジャーとはどんな人?

作品も全く知らないまま、映画を見たのですが、
個人的に勝手に最初に持っていたイメージについて語りたいと思います。
皆さんはこの作家に対してどんなイメージを持っているでしょうか。

わたしはまず、穏和なおじいさんみたいな人物を想像していました。
ライ麦畑という牧歌的な単語のイメージが先行して、麦わら帽子をかぶった素朴なおじいさんが浮かびます。

でも、一方で作者の名前だけ見ると、そういう穏和なイメージに反して、なんとなく荒っぽそう…。
マフィア映画とかに出てきそうな名前に感じる。

有名な泥棒にデリンジャーとか、いたきがするんだけど。
響きが似ているからかな。

と、勝手に取り止めもなくあれこれ考えていたのですが。
映画を見ると、なるほど。

どちらのイメージもあながち間違ってはいなかったようです。



裕福な家庭に生まれ育ったサリンジャー。1919年生まれです。
第一次世界大戦が終わった年ですね。

フルネームは、ジェローム・デイヴィッド・サリンジャー。
作家志望の青年でした。

親は工場を経営するとか、牧場を買うとか、建設的な職業につけ!というのですが、これに強く反発。

創作を学びに大学に行くことにします。

しかし、気の強い性格で、口も達者。
入学しても学業不振ですぐに退学してしまいます。
ちょっと周りを馬鹿にしているような、「あんな大学こっちから願い下げ!」と啖呵を切るような、荒っぽくて自信満々な性格でした。

2度目の大学に入学し、創作を学びながら執筆活動を続けます。
書いて応募して、書いて応募して、何度となく不採用通知を受け取るを繰り返し、作家になるために苦闘の日々を送ります。

ペンネームについて、

なんで、J・Dってイニシャルにしちゃうの?

と聞かれるシーンもあるのですが。
不敵に笑って、

その方が不良っぽいだろう?

と返します。

マフィアっぽい…は間違っていなかった?
名前の雰囲気も、ご本人が意図していたことだったとは!
ちょっとドキッとした瞬間でした。



しかし、この強気な気風が変わってしまう出来事が起こります。

◇第二次世界大戦に参加

ヨーロッパの戦争には参加しないとしていたアメリカも、日本軍の真珠湾攻撃をきっかけに戦争に繰り出すことになりました。

サリンジャーは、ようやく作品が認められ始めた頃にありました。
少しずつ日の目が出そう!という時に、突然社会の荒波に翻弄されます。


憧れの雑誌「ニューヨーカー」に掲載してもらう話も、戦時中にはふさわしくない内容として、たち消えに…。

彼は戦場に駆り出され、ノルマンディー上陸作戦にも参加しました。

たまに、世界史の受験で「この戦争に参加した作家は誰?」みたいな意地悪問題があったように記憶してますが、答えはサリンジャーですね。(余談)
知識詰め込みのテストの紙面の裏には、壮大でリアルな人生が隠れていることを実感できるような気がします…


戦争の経験は彼の精神に大きく影響しました。
戦地でも書き続けろ!!という師の言葉を胸に、密かに創作を続けますが、環境は過酷そのもの。

一緒に過ごしていた仲間がいきなり目の前で殺されたり、常に生きるか死ぬかの極限状態に晒されたり。
まずい軍のご飯も、派手な出撃前にはステーキがでる!とは言いつつ、いざ出ると死の宣告そのもの。喜ぶどころか絶望的な気分になったり。

それでも彼はなんとか生き延びて、家族の元に帰ってきました。

しかし、心身ともに疲弊し、神経衰弱と重い後遺症に悩まされます。
ことあるごとに戦地での悲惨な状況がフラッシュバックし、こころにひどいトラウマを抱えることになってしまいました。


以後、執筆が全くできなくなってしまったのです。

第二次世界大戦となると、どうしても日本視点の作品に触れることが多くて、アメリカはどこまでも強いようなイメージになりがちだけど。
アメリカの市民だって殺し合いは怖い。
何より、自分人生を中断しなければならないという苦痛がひしひしと伝わってきます。もう何回抱いた感想かわからないし、ありきたりだけど、戦争ってダメだな…とつくづく感じます。



精神を病んだサリンジャーでしたが、宗教的な世界に救いを求めます。
瞑想したり、悟りを学んだり。
少しずつ、少しずつ、執筆する力を取り戻していきます。

そして、戦時中に命がけで考えていた物語、世に残る名作、「ライ麦畑でつかまえて」を書き上げました!

サリンジャーは仏教とか、禅の世界にも詳しくなったみたいです。
読み進めているフラニーとズーイにも仏教的ことがたくさん出てくるし、松尾芭蕉?の俳句が入っている小説もあるとか。
日本と戦争していたけど、日本の文化は好きだったのかもしれません。



◇隠遁生活に入る

ライ麦畑捕まえてで名声を手にしたサリンジャーでしたが、出版に対する嫌悪感は付き纏いました。

物語の内容を変更するように、という編集者からのメモ。
売り込むために、不本意ながら、登場人物のキャラクターの絵を表紙に載せること。キャラクターは読者の想像に任せるべきなのに!

あっていいのは物語だけだ。批評も編集も宣伝もいらないんだ!


才能は認められても、編集者によって言いたいことを捻じ曲げられてしまう。
従わなければ掲載してもらえない。


真実の物語を書くためには、余計なものは取り除かなければならない。


彼は物語のために、田舎に引きこもり、隠遁生活を送る選択をしました。
出版されることに拘らないことにしたのです。

ニュースがねじ曲げられることがあるのは承知してますが、創作物も世風に合わせてストーリーを変えることを強要されることがあるのだと、この作品を見ていて初めて知りました。
映画化すると雰囲気変わる作品とか結構あるけど…
原作でもそうだと、世の中どこまで操作されているのか、本当にわからなくなるな。


そうして、出版業界に顔を出さないまま、2010年に亡くなるまで。
田舎の家でひっそりと執筆活動を続けました。


田舎で暮らすおじいちゃん像…合ってました。


以上が映画の内容でした〜。
まずい文ですが、気になる人は見てみてください。
特に、作家志望の人!!!!

広く読まれることや、名声より、自分の本当の気持ちや、真実の物語を選んだかっこいい作家だと思います。



上には概要をまとめてみたのですが、特に面白かったところあと二つだけ!紹介します。

一つ目は、授業風景。

サリンジャーが大学で出会った師は、ホイット・バーネット。
このバーネットという人は、雑誌ストーリーの編集者であり、駆け出しの作家を見つけてきて一番に最初に世に紹介することで有名でした。
(掲載された人には、トルーマン・カポーティやノーマン・メイラーがいます)

書いて書いて書きまくること!それが作家の道!

という作家の極意みたいなものを講義するシーンがあるのですが、とってもワクワクします。作品を通して、作家とはどういう仕事なのかということを伝えてくれるところもこの映画の見どころです。




あと、もう一つ興味深かったところは、

サリンジャーの恋人。

サリンジャーは恋愛にも積極的でした。ダンスフロアでかわいい女の子を見つけると自信満々でアプローチしに行きます。
そして恋人になったのが、女優のウーナでした。

戦争から帰るのを待っててね!と言って出ていくのですが、戦争中にあっけなく破局。(恋に敗れたから戦争に行った、という説もあるようです。)

破局の理由は、ウーナが結婚したから。
そしてその相手は…



チャールズ・チャップリン!!!!!


そこ、恋敵だったんかーい!という衝撃でした笑
ウーナちゃんのこと全然知らなかったんだけど。
出てきた時はちょい役かとおもったら、超有名人だったんですね…

チャップリンとウーナはかなり歳が離れています。
離婚歴が多いチャップリンでしたが、ウーナとは生涯連れ添ったのだとか。


かわいそうなサリンジャー。

ちなみにサリンジャーも、何度か結婚はしているようですが、2度離婚しているようです。しかもこれまた年の差婚。
謎に共通点のあるチャップリンと、サリンジャーです。


ところで、この映画にはちょっとフィクションが入っているようです。
この戦争に行くことに決めた件も、映画の中では明示されていないものの、徴兵されているかのような雰囲気でした。
でも実際は自分で行くと決めたようなんですよね…。

ライ麦畑の原稿を戦禍で書きながら生き抜いた話も、戦争の影響は受けていることは確かですが、本当に戦禍で書いていたのかはわかりません。
何より、ちょっと齧っただけでもわかる、サリンジャーという人の、物語に尾鰭がつくことを酷く嫌う性格や厳しさを考えると、このフィクションを交えた映画を見たら怒り出しそうな気がするのはわたしだけでしょうか。


ぜひ、みた際はライ麦畑も読んでみるのをお勧めします。
わたしも俄然読みたくなりました。


フラニーとズーイも気が向いたら、感想を書こうかな。



お読みいただき、ありがとうございました。




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