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「ドル円相場と○○の関係」という都市伝説⑩QE(量的緩和)

素朴に考えると、量的緩和とはお金の供給量を増やすことだから、お金の価値は下落するはずである。たとえばFRB(アメリカの中央銀行)が量的緩和を行うと、ドルの価値は下落して、円高ドル安になるはず。
本当なのか調べてみた。

§ 概説

・量的緩和とは:
中央銀行が国債や証券を買い入れることで、市場に資金を供給すること。
従来は金利を引き下げることで金融緩和を行っていたが、すでにゼロ金利に近い状況では金利を引き下げることができないため、資金を供給することで景気刺激を図る。
FRBによるドル供給は「QE」と呼ばれる。
日銀による日本円の供給は「異次元の金融緩和」と呼ばれ、アベノミクスの一環として行われた。

・日本の異次元の金融緩和:
2013年~2018年で400兆円を供給。2019年から規模を縮小していた。

・アメリカのQE

QE1:
2008年11月~2010年6月。総額1.7兆ドル

QE2:
2010年11月~2011年6月。総額6000億ドル

QE3:
2012年9月~2014年10月。月額850億ドルで開始、徐々に縮小し、2014年10月に終了。総額1.8兆ドル

QE4:
2019年10月から月額600億ドルを供給。実質的なQEであるにもかかわらず、FRB議長が「これはQEではない」と述べたことから「ステルスQE4」と呼ばれた。
2020年3月、FRBは1.5兆ドルの追加供給を実施。また今後数ヶ月で7000億ドル以上の追加供給を決定。
同3月、供給額を無制限とすることを発表。


さて、量的緩和は、政策金利の引き下げと組み合わせて行われる。
アメリカ政策金利が低下した時期は、2007年7月~2008年12月と、2019年7月~2020年3月。
時系列に整理すると、こんな感じになる。

・2007年7月~2008年12月:米金利引き下げ。

・2008~2014年:米金利がゼロに到達したので、米QE発動。

・2015~2019年:資金供給を終了し、米金利を徐々に引き上げる。金融引き締めとまでは言えなくとも、金融政策は中立的となる。一方、日本は、2013年~2019年頃、本格的なQE発動。

・2020年3月:コロナショックを受け、アメリカは本格的なQEを発動。一方、日本はQEを縮小しつつあったところにコロナショック到来。アメリカほど大規模かつスピーディなQEは実施されないか?

§ チャートで比較


量的緩和を実施すると、中央銀行の資産残高は増える。

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日本にとって量的緩和とは、日米間で行われる綱引きのようなイメージかもしれない。
アメリカが本気で量的緩和の綱を引くと、日本は勝てるわけない。
でもアメリカが量的緩和をやりすぎると共産主義っぽくなり、市場原理を尊重する国是に反する。このあたりがアメリカのジレンマかも。

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ドル円相場の決定要因は多数あるが、日米の量的緩和の度合いは、かなり強く作用しているらしい。
「アメリカが量的緩和を行うと、ドルの価値は下落して、円高ドル安になる」という冒頭の仮説は、おおむね正しいといえる。

画像32009年~2011年、アメリカが量的緩和を行ったとき、円高が進んだ。
2013年4月から日本が量的緩和を開始すると、円安が進んだ。
そうすると、もし今後(2020年3月以降)、アメリカがより強力に量的緩和を実施する時期に入るのであれば、円高要因となるはず。


画像4ところで、2016年の円高進行が気になる。
同年、米金利の引き上げが開始された。この期間、日本はずっとゼロ金利。
俗説では、米金利を引き上げるとドル高が進むはず。しかし逆に、円高が進んでいる。

名目金利ではなく、日米の実質金利差で考えると、このときアメリカの実質金利は、日本の実質金利に比べて低下していた。
つまり、アメリカの実質金利低下(対日本)が、円高要因となっていた可能性がある。

今後のドル円の動きを実質金利差から考えてみよう。
2018年~2019年頃、日米の実質金利差は横ばいが続き、ドル円相場は安定していた。
2020年3月現在、アメリカの実質金利は、日本に比べて低下しつつある。そうすると、やはり今後の円高要因となるはず。

※ここでの実質金利は、《3ヶ月LIBOR-CPI (前年同月比)》で算出。
詳細はこちら。
「ドル円相場と○○の関係」という都市伝説⑤日米の実質金利差

§ まとめ

日米の量的緩和の相対的な度合いは、ドル円相場に強く作用する。
その効き目は3年で切れる。


§ 今後のドル円見通し

●2020年3月の動き
2月末から急激な円高に。米株価急落時の円高進行は、近年のセオリー通りである。
3月10日以降、米株価急落中にもかかわらず、急激なドル高が進行(対円・対ユーロ・対レアル)。
報道によれば、世界同時株安を受け、各国の金融機関や企業が手元資金(ドル)の確保に動き、ドル需要が増加していたためらしい。
つまり、株・債券・他国通貨などすべての資産が、ドルに換金されていたということだ。
このように3月のドル円相場は激しく動いたが、3月末、ようやく落ち着きそうな気配である。

●2020年~2022年
アメリカの景気後退を受け、FRBはなりふり構わぬ金融緩和を実行(ゼロ金利、量的緩和など)。一方、日銀の金融緩和は、アメリカほど大規模かつスピーディには実施されないと思われる。
→2020年~22年頃にかけて、円高ドル安が進む可能性が高いか?


§ 追記

私はFRBの力を過大評価しているかもしれない。でも民間の動きをコントロールできないなら、FRBの存在理由はないじゃん…。


§ 参考webサイト

日銀のバランスシート(2010年~2020年) 
日銀のバランスシート(2009年以前) 
FRBのバランスシート
3ヶ月LIBOR
CPI(前年同月比)
日本CPI 総務省統計局
ファイナンシャルスター



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