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「ドル円相場と○○の関係」という都市伝説⑤日米の実質金利差

前回の調査では、次のことが分かった。

・過去20年の中期的なスパンでみると、日米の政策金利差とドル円相場は、さほど連動していない。

・ただし、2004~2009年頃の短期的なスパンにおいて、両者は一時的に連動していた。

さて、過去20年を通じて、アメリカの物価は緩やかに上がり続けている。つまり、アメリカは毎年2%ずつインフレを続けている。
一方、日本のインフレ率はほぼ0%で、マイナスのときもある。つまりデフレである。

したがって、2000年の1ドル=100円と、20年後の1ドル=100円は、名目上の値は変化していないが、実質的には変化しているといえよう。

たとえば「2000年に日本人がアメリカ旅行に行くときに100円を1ドルに両替するとハンバーガーを買えた。しかし20年後には、ドルから見たハンバーガーの価値は値上がりしており、日本人が100円を1ドルに両替してもハンバーガーを買えなかった。一方、日本円から見たハンバーガーの価格は、20年間ずっと変わっていなかった」的な話である。

日米の金利差を比較するとき、この日米インフレ率の差を考慮する必要がある。
このインフレ率の差を考慮したものが、実質金利差である。
ドル円相場と比較するときには、前回使用した名目金利差ではなく、この実質金利差を使用する必要がある。


●日米の実質金利差とドル円相場――短期金利の場合

ここでは短期金利の代表として、政策金利を使用する。
まず、アメリカの政策金利からインフレ率を差し引くと、アメリカの実質金利が導き出せる。日本も同様。

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次に、アメリカ実質金利から日本実質金利を差し引くと、日米実質金利差が導き出せる。

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ドル円相場(左軸)は、上がドル高、下が円高。
日米実質金利差(右軸)は、上が米金利高、下が日本金利高。
このチャートが示すとおり、インフレ率を調整した実質金利差は、ドル円相場ときれいに連動している。とくに2005年~2020年あたり。
思った以上に連動してて、ちょっとビビった。

しかし、ドル円相場の予測に使えるかといえば微妙である。
こちらが拡大図。画像8

2012年~2015年の円安局面では、ドル円相場と日米実質金利差が、抜きつ抜かれつしている。
つまり、どちらが先行指標か不明である。

ところで、実質金利を計算するときに使用される指標は一つではない。
ここでの米ドル実質金利は《FF金利-CPI》で、また日本円実質金利は《3ヶ月LIBOR-CPI 》で算出した。

・CPIとは:消費者物価指数(対前年同月比)。いわゆるインフレ率。

・LIBORとは
:ざっくりいえば、政策金利(短期金利)のこと。厳密には違うけど、本題に差し支えないので詳細は割愛。


●日米の実質金利差とドル円相場――長期金利の場合

次に日米の長期金利差を見てみよう。

・長期金利とは:1年以上のお金を貸し出すときの金利のこと。代表的な指標として、10年物国債の利回りが使用される。

まずは日米10年物国債の利回り差を見てみよう。
下図は、米国債10年物利回りから、日本国債10年物利回りを差し引いたもの。ドル円相場と並べて表示。
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インフレ率を調整せずとも、日米10年債利回り差は、ドル円相場とかなり連動している。とくに2002年~2009年あたり。その他の期間については、連動しているかといえば微妙である。

日米の長期金利差を比べるときにも、実質的な金利差をみるために、インフレ率の差を調整する必要があるはずだ。が、むしろインフレ率を調整した方が、ドル円との連動性は低くなっているように見える。どの期間を切り取るかによって見え方は変わってきそうだが…。画像6

通常、長期金利(10年物国債利回り)は、短期金利(政策金利)より高い。その要因の一つとして、10年物国債利回りには、10年後のインフレリスクが高金利として上乗せされていることが考えられる。そうすると、下手にインフレ率を加味せずとも、市場のインフレ予想がすでに国債利回りに織りこまれていると見るべきかもしれない。

インフレ率はともかく、日米10年債利回り差の場合もやはり、ドル円が先導しているのか、それとも利回り差が先導しているのか不明である。両者が一定のボックス圏内で連動していることは間違いないのだが…。

下図はソニー社のレポート「Quarterly Market Outlook」より。

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同社のレポートでは、《長期的なスパンでみれば、日米の実質金利差(10年)とドル円レートの連動性は高いが、その連動性は時々崩れる》と指摘する。たとえば2014年頃、および2018年頃に連動性は崩れているとのこと。
「いつ、その連動性が崩れるのか」を私は事前に知りたいのだが、それができるなら誰も苦労しないよね……。


§まとめ、雑感

・ドル円相場と日米実質金利差は、きれいに連動している。ただし、その連動性は時々崩れる。

・日米の実質金利差について、過去のチャートを見る分には面白いが、3年以内の短期的な相場予測、とくにドル円相場の予測に使えるかといえば疑問である。あくまで目安の一つに留めておくべきか。

・過去30年の傾向として、先進国の政策金利はゼロに近づきつつある。2020年現在、金利調節より量的緩和の方が、ドル円相場に与える影響は大きいかもしれない。


§ 参考レポート、ブログなど
ファイナンシャルスター
ソニーフィナンシャルホールディングス社のレポート「Quarterly Market Outlook」

§ 各種データ出所
・アメリカFF金利、10年債利回り、CPIなど:FRED(Federal Reserve Economic Data)
・日本10年債:Investing.com
・日本CPI:総務省統計局
・LIBOR:global rates.com

§ 2020.03.26 加筆修正



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