「ドル円相場と○○の関係」という都市伝説①世界経済

「世界経済が不況になると、安全な円資産が買われて円高になる」という説がある。本当なのか調べてみた。

下図は1994～2020年のドル円相場。2020年1月現在、1ドル108円。

世界株価とはほぼアメリカ株価のことなので、アメリカの代表的な株価指数であるS&P500を並べて表示してみる。

なるほど、たしかにアメリカが不況に入ると、その翌年から円高が進んでいる。

下図はJ.P.モルガンのレポート「Guide to the Markets」より（赤い矢印は著者が付した）。黒い曲線と右側の縦軸が「ドル円相場」を表す。青い曲線と左側の縦軸は「10年国債利回り差」を表すが、今回は無視する。

過去30年でアメリカの景気後退期（青い網掛け部分）は、91年・2001年・2008～09年の3度。

赤い矢印で強調した通り、アメリカが景気後退期に入った翌年に円高がはじまり、以降3～5年間を通じて、一方的な円高が進行している。
ちなみに「景気後退期（リセッション）」とは、「好況期→景気後退期→不況のどん底→景気回復期→好況期」という景気循環モデルの一局面のこと。主にアメリカ人が好んで使用する。

過去30年における、アメリカ株価とドル円相場の関係を整理してみた。

・1991年 アメリカ不況期：
円高ドル安に（1990年1ドル160円→91年130円）。1ドル130円台で円高はいったんストップしたかに見えたが、この後、さらに円高が進む。

・1992～95年 アメリカ株価は緩やかに上昇：
円高がとまらず、95年に1ドル80円に達する。その要因は複雑で、簡単には説明不能。

・1995～2000年 ITバブルでアメリカ株価急上昇：
円安の後、円高に。95年1ドル80円→98年140円（円安のピーク）→2000年105円（円高のピーク）。ちなみに97年7月のアジア通貨危機では、新興国通貨がドルに対して急落。ついでに円もドルに対して下落、つまりドルのみが高くなった。

・2001～02年 ITバブル崩壊期：
円安に（2000年初1ドル100円→2002年初130円）。S&P500（アメリカ株価指数）は2000年夏ごろに高値ピークをつけた後、2002年まで急落し続ける。ちなみに2001年9月の同時多発テロ発生時、アメリカ株価はすでに急落中であった。

・2003～05年 アメリカ株価上昇期：
円高に（2002年初130円→05年初100円台）。

・2007年 サブプライムローン問題の表面化：
円高に。

・2008年 リーマンショック（世界同時不況）：
さらに円高に（2007年1ドル120円→13年80円）。

・2009～13年 アメリカ株価急上昇：
円高はとまらず。

・2013～15年 アベノミクス（異次元の金融緩和）：
円高から円安に反転（13年1ドル80円→15年120円）。この期間、アメリカ株価は上昇し続ける。

・2016～20年 アメリカ株価急上昇：
ドル円相場は動きなし。

§まとめ

・アメリカ不況の発生した年（91年・2001年・2008年）は、円安のときも円高のときもある。その翌年（92年・2002年・2009年）に円高がはじまり、以降3～5年間は円高が一方的に進んだ。少なくとも過去30年を見るかぎり、「世界経済が不況になると円高になる」という説は正しい。

・たしかにチャートを見るかぎり、この説を反証することはできない。ただし、ほかの要因がより強く作用している可能性がある。詳細は別記事（第6回）で述べる。

§ 補足
・ちなみにアメリカ株価の変動幅に比べて、ドル円相場の変動幅は極めて小さい。下図は過去30年の変動率を示したもの。S&P500（アメリカ株価指数）の値動きに比べて、ドル円相場の値動きは極めて小さいことがわかる。

黄色の線で示した「S&P500×ドル円相場」とは、ドルで取引されるS&P500を円換算したものである。

もし日本人がアメリカ株に長期投資する場合、最終的に日本円に戻すことを考慮する必要がある。しかし過去30年を見るかぎり、ドル円相場の影響は無視できるほど小さい。したがって、今後も1ドル100円±20円のボックス相場が続くと予測する場合、アメリカ株を購入する際に為替の影響をヘッジする必要はないといえる。

なお、私は長期投資を10～30年程度のスパンで考えている。3年以内の短期的なスパンでは、為替相場など予測できるわけがない。もし来年のドル円相場を予測できる者がいるとすれば、彼は詐欺師か、さもなくば預言者にちがいない。

§参考webサイト
・「Guide to the Markets」https://www.jpmorganasset.co.jp/GTM/jp.pdf
・チャート作成には「TradingView」を使用。