見出し画像

静かな夏

 空を見上げると大きな入道雲がひとつ。
 そこにいつにも増してギラギラと輝く太陽が見え隠れをしている。

ーーザァーン、ザザァーン…

 目の前に広がる大海原の地平線には太陽の光が反射し、キラキラとし、手前では白い波が砂浜を湿らしている。


 僕らは自動販売機と、白いベンチしか無い小さな無人駅で列車を待ってた。

 決して気持ちの良いとは言えない、生温かい風が2人の頬を撫でる。

 君は、微妙に残っている缶ジュースを手に持ち俯いている。
 僕は…俯いている君を見ていた。


 僕らはこの駅に来てから一言も発していない。
 これといって話すこともない。
 かと言って、無理に喋ろうとも思わない。
 別に気まずいわけでもない。

 むしろ、僕は波の音、風の音、木の葉が擦れる音しかないこの時間が愛おしく思えた。

 言葉を交わさずとも、心は勝手に通っている、そんな風に思った。


「暑いね。」
 急に君が言った。


「うん。」
 僕は答えた。


……そして、また、静かな時間が訪れた。


 程なくして、列車が来た。
 一両しかない、小さな、レトロな列車。

 僕らは、それに乗り込んだ。
 車内はクーラーが効いていた。

「涼しい…。」
「涼しいね。」

 2人はハモリ、顔を見て、クスッと笑った。

 僕らは、赤いシートに腰かけた。


 僕は海を見ていると、隣から視線を感じた。

 君が見ていた。

 目が合う。


 君は、静かに笑い、目を瞑った。

 僕は、静かに手を握り、顔を近づけた。


ーー列車はゆっくり、静かに進み出した。