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2021上半期ベストアルバム〈1〉

1月から6月までの上半期に出たアルバムの中で、最も優れていたと思ったアルバムを無作為にジャンルの分別もせずに、ダラダラといくつかのパートに分けて書き記したものなので読みにくいものですが楽しい音楽を聴くのきっかけになれば幸いです。

1月

1月の下旬にリリースされたBiosphereの「Angel's Flight」は、2002年にリリースした「Shenzhou」を、喫緊の疫病の状況をAlex McCulloughのアートワークと共に変異させた。彼の代表作「Microgravity」や「Substrata」とも異なった側面が創られた。

去年にも増してアンビエント・ダブやブレークビート、エレクトロの動きが活発になったと思った作品にナイジェリア出身のアーティストEmeka Ogbohの「Beyond the Yellow Haze」がある。A-Tonというレーベルの特色の中で、拠点なき漂泊民のように彷徨い土着の喧騒すらMumdance & Logosのような冷たい世界で鳴る。

新しく生み出されたジャンルに対して年齢を問わず世に膾炙された(ジャンルの細分化だけで無く)事を考えると、かつて藤田省三が論文ではなく短く纏まった書評にこだわり、書評をトレルチやマイネッケのように一つの確固たる作品として残す事を抱負とした事(藤田が考える日本の風土に合った形式が書評だったと推測)が、音楽においてはある通過点に到達したのでは無いかと思う。アンビエント・ダブというジャンルひとつをとってみても、Yu Suのように個々の要素自体は微小で短くても、膨大なそれらを無数に取り入れる事で聴く人にとって広汎に拓かれた音が展開される。そうした動きが多くのジャンルで行われている。

ブレークビートの新しい動きとして考えられる一つのきっかけはSkee Maskの「Compro」がきっかけになったかは定かでは無いが、Skee Maskというアーティストが起因の一つとして機能している事は間違いない。Cloudsの初期のアルバム「Ghost Systems Rave」は、インダストリアル・テクノ性が強かったが今作「The Parallel」は「Compro」以後のブレークビートの運動の流れに棹をさす。

Arnaud Rebotiniの「Shiny Black Leather」(EP)は、エレクトロの復権を端的に表す。Hercules and Love Affairの持つエレクトロ・ディスコ性にも通ずる抑制の効いたビートと冷静さが近年のエレクトロの特徴のように思う。

Karoline Wallaceの「Stiklinger」はThiago Françaの2020年の作品「Kd vcs」から拡がる肥沃な大地の恵みをアヴァンギャルド・ジャズに見出した。それはノルウェイのØra Fonogramというレーベルが醸成してきた事が大きい。

Onsyの「MetaConc」はMatmosの「The Rose Has Teeth in the Mouth of a Beast」と「Ultimate Care II」をコラージュしたようなグリッチの連続性を表現した。そこからミニマルなテクノを媒介して表現したLaima Adelaideの「Modern Nature」はアウトサイダー・ハウスの鋭敏さを強化している。

2008年のMGMTの作品「Oracular Spectacular」でネオ・サイケデリアを糸口に潜勢的なインディトロニカの動きを飛躍的に促した。その動きは2012年にPassion Pitの「Gossamer」でシンセ・ポップに顕れる。他方でThe Postal Serviceが2003年に「Give Up」で、インディトロニカをチップチューンと結びつけた土壌が、2013年のAnamanaguchiの「Endless Fantasy」が契機となりインディトロニカは再度The Postal Serviceと2016年にLemon Demonの「Spirit Phone」と結びつきながら生長してきた。MGMTのネオ・サイケデリア性はTame Impalaへ受け継がれ能動的な音にシフトしていくのに対して、インディトロニカはそうしたネオ・サイケデリア性を近年の海外を中心に行われているフィッシュマンズの再評価(「Long Season」を中心に再評価されダブの再興として現行のアンビエント・ダブに影響を与えている)を経てThe Notwistの新作「Vertigo Days」に見られるクラウト・ロックを内省的な要素として表現することで原型を留めている。これまでアルバム毎に異なるエッセンスを取り入れながらも核となる支柱(インディトロニカ)を据えてきたThe Notwistは「Vertigo Days」で「Neon Golden」以後において最大の立脚地に到達した。 











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